夜泣きをした娘に腹が立ってしまった…原因は、「心身の余裕がなくなっている自分たち夫婦」だと気づいて。家事シェア研究家がたどり着いた解決方法とは
総務省統計局が行った「令和3年 社会生活基本調査」によると、6歳未満の子どもを持つ世帯が家事や育児などに費やす時間は、夫が1.54時間、妻が7.28時間だったそう。そんななか、家事シェア研究家の三木智有さんは、家事育児をひとりに頼り切らない「チーム家事」というスタイルを広めるため活動しています。そこで今回は、三木さんの著書『家族全員自分で動く チーム家事 日本唯一の家事シェア研究家が導き出した』から、家庭生活をより良くする考え方を一部ご紹介します。
【書影】仕事・家事の両立をあきらめない「家事シェア」メソッド。三木智有『家族全員自分で動く チーム家事 日本唯一の家事シェア研究家が導き出した』
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夫婦ビジョンは、どんな力があるの?
夫婦ビジョンとは、意見や家事育児の方針がすれ違ったとき、それを建設的に解決するための夫婦共通の軸のことです。
よほどの理由がないかぎり、夫婦は家族のために「よかれ」と思って行動を起こすでしょう。でもそれが食い違ってしまうことで、すれ違いが起こるのです。
よくあるのが、子どもが産まれたあとの生活について。子どもや家族のためを思って、「もっと稼がなくちゃ、これから色々とお金が必要になるから!」と残業などもがんばるようになるパパ。
一方で子どもが産まれた生活が不安で大変で「もっと夫には家にいる時間を増やしてほしい」と思うママ。
最近は逆の話も聞くようになりました。もっと家にいたいと思うパパに対して、どんどん稼いできてほしいママ、なんて具合に。
いずれの場合も、お互いが考えているのは「家族のため」です。なので「家族のために」という話だけをどれだけしても、話が噛み合わないことはよく起こります。それぞれの見ている「家族のために必要なもの」が違うのです。
こうした課題は、家族に限らずあらゆるコミュニティで起こっています。会社や団体など人数の多い組織になるほど、意見の対立も複雑化していきます。そうした個人個人の「よかれ」をひとつに束ねていくのが「ビジョン」です。
わが家が描いたビジョン
ビジョンとは未来像です。そしてその未来像を実現させるためにやるべきこと、それがミッションです。
ビジョンは「ビジョン達成のために、どうする?」というミッションにつながり、日々の決断はミッションに紐づいて意思決定されます。
日々の決断が夫婦で違ってしまったときも、ビジョンやミッションに基づいて、なぜその決断をしたのか振り返りやすくなります。
とはいえ、少し抽象的な話になってしまったので、わが家がどのようなビジョンを描いて子育て期を乗り越えているか、事例を紹介します。
娘が産まれてひと月後のこと。僕は小さくて可愛い娘に心からムカついてしまった日がありました。
当時すでにNPO法人 tadaima! の活動をしていた僕は、頭でっかちに育児の知識だけは勉強しており、「こうすれば大丈夫」というノウハウをいっぱい持っていました。
その頃よく聞いていたのが、「ママが子どもの夜泣き対応で夜中に何度も起きるのに、全然気がつかずに横で寝てるパパの姿に殺意が芽生えた」という話。
僕は同じ轍を踏むようなことはするまいと、娘が夜泣きをするたびに起きていました。
しかし、泣き止ませるために妻が授乳していても、僕はとくにやることがありません。真っ暗な寝室の中、眠気と戦いながら何となく妻の背中を擦っていました。一方、僕がミルクをあげるときは、妻には体力回復のために眠ってもらっていました。
その結果、まとまって眠る時間がほとんどとれず、僕の体力と精神力はどんどん削られていったのです。
「このままじゃまずい」と気づいた出来事
そしてある夜。相変わらずの夜泣きをした娘にミルクをあげ、抱っこもして、子守唄なんかも歌ったりしながら1時間ほどが経過。それでも全然眠る気配のない娘に対して、とんでもなく腹が立ったのです。
疲れと、いつまでも寝てくれない嫌気から、まだ泣いている娘をベビーベッドに寝かせると、そのまま気絶するように眠ってしまいました。
(写真提供:Photo AC)
翌朝。泣いたままの娘を放置して眠ってしまったことへの罪悪感に苛まれ(今思えば、そのくらいあるよ、と思うのですが)このままじゃまずいと気づきました。
その後の妻との話し合いで、腹が立った原因は夜泣きをする娘ではなく「明らかに心身の余裕がなくなっている自分たち夫婦」だよね、と話しました。
僕たちの心身が疲れ切ってしまったら、子どもに何かあったとき適切な判断をしてあげられないかもしれない。
親が健康でいられないことこそが子どもにとって一番のリスクなので、子どもが安心安全に育つために、「親が心身ともに健康な状態で子育てできること」を最優先にすることにしました。
心身健康に子育てをするために
そのために必要なのは、
●僕たちがそれぞれちゃんと睡眠をとる
●体調不良のときに無理をせず全力で休んで最速で回復する
●寝かしつけの時間は厳守して規則正しく生活する(子どもの睡眠リズムを整える意図も)
●寝かしつけは夫婦交代制にして、お互いに長時間眠れる時間を確保し合う
これらをちゃんと守っていこう、と話し合いました。
この軸があるから、妻が夜中に授乳で起きていても、眠ることに集中できるようになりました。
帰宅が遅くなった日は手作りのご飯をつくるよりも「お惣菜で簡単に済ませちゃおうか」と言い合えたり、相手の体調が悪そうなときは家事育児を代わってすぐに休んでもらったりするなど、抵抗なく助け合えるようになったのです。
「僕たち親が心身ともに健康に育児ができる状態」というビジョン、それを実現するための「しっかり睡眠をとれるようにする」「寝かしつけの時間厳守」といったいくつかのミッション。
これがあるからこそ、日々の小さな判断をするときに迷わず、すれ違うこともなく、ベストを探ることができるようになったのです。
※本稿は、『家族全員自分で動く チーム家事 日本唯一の家事シェア研究家が導き出した』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。