「退職金の運用は銀行に相談してはいけない。なぜかというと…」ファイナンシャルプランナーが<退職金特別プラン>の落とし穴を解説
厚生労働省の資料「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、令和4年度の厚生年金の平均受給月額は14万3973円だったそうです。少子高齢化や「老後2000万円問題」などで、老後の資金に不安を感じている方も多いのではないでしょうか。そんななか「無理な投資をしなくても、公的制度を賢く利用すれば<減らない財布>が手に入る」と話すのは、ファイナンシャルプランナーの長尾義弘さんです。今回は、長尾さんの著書『投資ゼロで老後資金をつくる』から一部引用、再編集してお届けします。
【図】定期預金と投資信託がセットになった「退職金特別プラン」の仕組み
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退職金の考え方
老後資金の中で、大きなウエートを占めているのが退職金です。退職金という大きなお金が入ると、どうしようかと悩む人が多くいます。
退職金の平均額は、厚生労働省「就労条件総合調査(令和5年)」によると、大卒の平均は2283万円、高卒の平均は1610万円です。
中小企業の退職金は、東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年)」によると、モデル退職金は大卒で1323万円、高卒は1204万円です。
これだけまとまったお金を手にするのは、人生でも初めての経験ではないでしょうか。気持ちが大きくなり、舞い上がってしまうかもしれません。
国産車に買い替えるつもりが、急に外車が魅力的に見えてきたり……。たしかに、買えるだけの資金にはなります。
でも、ここで現実に立ち返ってください。
たとえば、1500万円の退職金が出た。いままで長期の休みも取れなかったので、慰労を兼ねて思い切って夫婦で世界一周クルーズに出かけたとします。
世界一周クルーズは、だいたい一人あたり平均で300万円くらいかかると言われています。夫婦なら600万円。退職金はあっという間に残り900万円になってしまい、老後資金はだいぶ心許なくなってしまいます。
思い出作りはとても大事だと思います。ただ、しっかりと計画を立てながら使うべきでしょう。
銀行に相談はダメ
退職金などまとまったお金をそのままにしておくのは「もったいない」と思ってしまいがちです。少しでも利率のいいものに預けたい。できれば運用をして増やせたらいいな。これは当然の心理です。
とはいえ、それまで運用の経験がないときは、誰かに相談したくなるでしょう。そこへ銀行から電話がかかってくるのです。証券会社は敷居が高い人でも、銀行は身近な存在ですから、つい相談に出かけてしまいます。これがもっとも危険なパターンです。
『投資ゼロで老後資金をつくる』(著:長尾義弘/青春出版社)
銀行に行くと支店長などが出てきて、窓口ではなく奥にある個室へ通されます。特別待遇のようで、ちょっといい気分になります。
そこで勧められるのが、「退職金特別プラン」や「外貨建て保険」「変額保険」「投資信託」「ラップ口座」などです。
結論から言うと、どれも手数料が高く、ダメな商品ばかり。やめたほうが賢明です。
「退職金特別プラン」とは
たとえば、「退職金特別プラン」は、定期預金と投資信託がセットになった商品です。
定期預金の金利は7%です。通常の定期金利が0.025%程度であることを考えると、非常に高い金利です。
しかし、小さい字で「3ヵ月」と書かれています。ここを見落としてはいけません、7%は3ヵ月間だけで、その後は一般的な定期預金と同じ0.025%の金利になるのです。
投資信託のほうは、購入手数料が2%で、信託報酬は2%です(これは一例で、商品により異なります)。
定期預金で7%の金利がつくプランは、投資信託と定期預金を半分ずつで購入することになっています。
このプランで、定期預金500万円、投資信託500万円を購入したとします。
定期預金は年7%の利息ですから、500万円×年7%×3/12ヵ月=8万7500円です。約9万円の利息がつくならいいように思えます。
一方、投資信託は購入手数料がかかります。500万円×手数料2%=10万円です。
定期預金の利息8万7500円−投資信託の手数料10万円=マイナス1万2500円
つまり、「退職金特別プラン」は、最初からマイナスのスタートになるわけです。その後の預金はほとんど増えない状態です。
信託報酬の違い
投資信託(投資信託を運用・管理してもらうための費用)は信託報酬が2%くらいあるため、運用は2%以上のパフォーマンスを出さないと増えません。2%を下回れば、運用成績はマイナスになります。
ラップ口座はもっと手数料や信託報酬が高くなることがあるので、増える見込みはより小さくなります(ラップ口座というのは、金融機関に投資信託の商品の運用を任せるサービスです)。
ちなみに、新NISAの「つみたて投資枠」にある投資信託は、手数料がゼロです。
信託報酬の上限も決まっていて、国内資産は1%以内、一部の海外資産は1.5%以内となっています。
いま人気の投資信託・eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)の信託報酬は0.05775%です。
信託報酬が安いほど、長期投資に向いていると言われています。
銀行で扱っているのは、手数料が高い商品が中心です。資産運用に関しては、銀行には相談しない、近寄らないのが一番です。
※本稿は、『投資ゼロで老後資金をつくる』(青春出版社)の一部を再編集したものです。