スマートフォンモバイルバッテリーなどのバッテリー容量を比較する場合、一般的には「mAh・Ah(ミリアンペア時・アンペア時)」が用いられます。しかし、mAhは実際のところバッテリー容量を比較するのに適していないと、スマートフォンなどのデバイス分解情報や修理工具を販売するiFixitが解説しています。

What Is mAh and Why Is It Bad for Measuring Battery Capacity? - iFixit

https://www.ifixit.com/News/100286/what-is-mah-and-why-is-it-bad-for-measuring-battery-capacity



以下の写真は、iFixitのポータブルバッテリーです。このポータブルバッテリーは、「5000mAh」のバッテリーを持つとされるスマートフォンを2〜3回ほどフル充電できるそうですが、性能を正しくmAhで表すと「5200mAh」しかありません。このように、「5200mAhのポータブルバッテリーで5000mAhのスマートフォンを2〜3回充電できる」といった混乱が生じる理由は、mAhについて「放電容量を表す技術的に正しい使い方」と、「エネルギー容量(バッテリー容量)を表す口語的な使い方」が混在しているからだそうです。



本来mAhは、「1時間あたりどれほどの電流を流すことができるのか(放電容量)」を表す単位です。つまり、「5000mAh」のバッテリーがあれば、5000mAの電流を1時間流せる容量であることを意味しており、電流が2500mAであれば2時間流せる容量ということになります。しかし、一般的に多くの人はバッテリーに関して「mAh」という単位を目にすると、「バッテリー容量」そのものを指していると考えがちです。

たとえば、「3687mAhのバッテリーを搭載しているiPhone 12 Pro Max」「2000mAhの充電単三電池」「9000mAhの無停電電源装置(UPS)」という表記を目にした場合、「2000mAhの充電単三電池2本は、3687mAhのiPhoneよりバッテリー容量が大きい」「2000mAhの充電単三電池を5本使えば、9000mAhのUPSよりも長くバッテリーを持たせられる」という風に考えてしまうかもしれません。しかし、実際のところ単三電池2本でiPhoneのバッテリーを1日持たせることはできず、単三電池5本がUPSの代わりになるということもありません。

その理由は、エネルギー容量を表すにはmAhだけでなく「公称電圧(V)」も考慮する必要があるためです。公称電圧はバッテリーが動作している最中の平均電圧を表しており、バッテリーの性能に関わる特性の1つです。公称電圧はパッケージに記載されており、以下のiPhone 12 Pro Maxの代替バッテリーのパッケージを見ると、公称電圧は「3.83V」だとわかります。



本当のバッテリー容量はmAhだけでなく、公称電圧も一緒に見なければわかりません。この関連性は、mAhの値を「服のS/M/Lサイズの違い」、公称電圧を「メンズ向け/レディース向け」として考えると理解しやすくなります。

たとえば同じ「Mサイズ」であっても、それが「メンズ向け」であれば「レディース向け」よりもサイズが大きいことが一般的です。そのため、公称電圧が同じ種類の電池を比較する場合でなければ、mAhによるバッテリー容量の比較が適切に機能しないというわけです。

iFixitは例として、「アルカリ単三電池」「充電式単三電池(ニッケル水素電池)」「リチウムイオン電池」を比較したシナリオを挙げています。これらの電池は化学組成が大幅に異なるため、公称電圧はそれぞれ「アルカリ単三電池:1.5V」「ニッケル水素電池:1.25V」「リチウムイオン電池:3.6V」です。そのため、いずれも2400mAhと表記されていたとしても、「2400mAhのリチウムイオン電池」は「2400mAhのニッケル水素電池」の約3倍ものバッテリー容量があるということになります。

また、同じ数のバッテリーを異なる配列でパックにしても、パック全体のバッテリー容量は変わりません。以下のように、6個のバッテリーを「3個ずつ2列に並べたパック」「2個ずつ3列に並べたパック」「6個直列にしたパック」は、いずれもmAhと公称電圧は異なりますが、パック全体のバッテリー容量は同じです。



メーカー側もmAhが正確なバッテリー容量を表すのに適していないことは理解していますが、一般の消費者に向けてmAhと公称電圧をアピールしてもわかりにくいだけです。そこでメーカー側は「口語的なmAh」として、機器に搭載するバッテリー全体を「公称電圧が3.6Vの巨大なリチウムイオン電池」のように扱った数字を使っています。これにより、消費者は「mAh」を比較するだけでバッテリーの大小を比較できるというわけです。

このように、技術的に正しい放電容量として使われているmAhと、口語的にバッテリー容量を指すmAhが混在していることが、多くの人々を混乱させているとiFixitは指摘しています。

そこでiFixitは、異なる製品間でバッテリー容量を比較するためには、「ワット時(Wh)」を使った方がいいと主張しています。WhはmAhを1000で割った値に公称電圧をかけると算出できます。つまり、放電容量が5200mAhで公称電圧が10.8Vのバッテリーのワット時は以下の通り。

5200÷1000×10.8=56.16Wh

iFixitは、バッテリー容量を表すために口語的なmAhを使うことも、そこに仮定と制限があるということを認識していれば問題はないとしています。しかし、2つのバッテリー間でmAhを比較した際、一方の値が不自然に高かったり低かったりする場合は、公称電圧を調べてワット時を算出して比較した方がいいとアドバイスしました。