9月26日、いわゆる「袴田事件」の再審判決が言い渡されます。「LIVEしずおか」では判決まで事件が現代に問いかける問題に迫るシリーズ企画をお送りしています。

【写真を見る】「58年の審理に終止符を打てるのは検察官」判決のその後 問い直す"本当の正義” 検証「袴田事件」(3)

58年続いた事件に無罪判決が下された場合、袴田巖さんの冤罪は確定するのか。それとも裁判はまだ続いていくのか。判決の「その後」を考えます。

<袴田さんの姉 ひで子さん>

「58年戦ってきましたからね。これでもう裁判が終わるのだなと思うと本当にうれしく思っております」

支援者に向けて話す、袴田巖さんの姉、ひで子さん。袴田さんの無罪判決を58年待ち続けてきました。支援者も再審=やり直し裁判での無罪判決を求め、これまで市民らから2万5000を超える署名を集めて静岡地裁に提出しています。

一方、弁護団が危惧するのは、無罪判決が出た「その後」の検察の対応です。

<小川秀世主任弁護人>

「ただいま検察庁に『控訴しないでくれ』ということで申し入れををしてきたので、そのことについて報告をさせて頂きます」

再審では通常の裁判と同じように静岡地裁の判決に不服がある場合、控訴して東京高裁での再度の裁判を求めることができます。弁護団は袴田さんの体の衰えなどを考慮し、無罪判決が出た場合に控訴しないよう静岡地検に要請しています。

<小川秀世主任弁護人>

「(袴田さんは)自宅の階段を上り下りしていたのができなくなって、いまはリフトを使っているということですね。そこは大きいですね。この長い58年の審理に終止符を打てるのは、終わりを決めるのはあなただということを強調してきました。検察官だと」

無罪が出ても検察は控訴し、裁判は続いていくのでしょうか。冤罪事件に詳しい元裁判官の専門家は。

<元裁判官 西愛礼弁護士>

「今までの再審公判で無罪判決が宣告された事例というのを調べてみると、少なくとも控訴がされた前例というのは見当たらないという風になっています」

西弁護士によると「島田事件」や「足利事件」など、袴田事件と同じく日弁連=日本弁護士連合会が支援して再審無罪が確定した事件は過去に18件あり、その全てで検察官は控訴していないといいます。しかし、袴田事件には別の事情が。

<元裁判官 西愛礼弁護士>

「一方で、袴田事件については大規模な(証拠の)ねつ造というのが正面切って明示的に(これまで裁判所から)指摘されているといった、やはりこれもなかなか先例がないような事件でもありますので、そういう過去に『先例がないから控訴しない』というところまでは言い切れないという風に思っています」

袴田さんの犯行着衣とされる「5点の衣類」について2014年に裁判所が、衣類は「袴田さんのものではない」として再審を決定しました。そのうえで、「証拠のねつ造」の疑いに言及するなど異例の展開をたどり、「再審公判の先例が参考になりにくい」といいます。

一方で、西弁護士は検察の控訴には一定の「歯止め」が必要だと指摘します。

<元裁判官 西愛礼弁護士>

「真実の追求というのは確かに大事なことなんですけれども、それが無限定に許されるかというふうになると、やはり刑事裁判というのは被告人がいて、被告人の有罪無罪を検討するという場でもありますので、被告人の人生という限りある時間内でのみ、真実追求というのが許されるという風に思うんですね。どこまでも『法律上許されるから』といって『やって(控訴して)良い』というのはやはり、権力の濫用なんじゃないかという風に思います」

<袴田事件を取材 佐藤浩太郎記者>

改めて袴田事件の再審判決後の流れを整理します。

9月26日に静岡地裁での再審判決が下されますが、去の事例から「無罪判決」が出される公算が大きくなっています。そしてこの判決を受けて、検察がどのような対応をするかに大きな注目が集まっています。

検察が判決を受け入れ、控訴しなければ、58年にわたる事件に終止符が打たれ、袴田さんの無罪が確定。冤罪事件としても確定するわけです。そうなれば、これまで無実の罪で拘留されていた日数に応じた刑事補償金が支払われるなど、失われた時間をわずかでも取り戻す手続きが進んでいくことになります。

しかし仮に、検察が判決を不服として控訴すれば、事件は東京高裁で再び審理されることになります。高裁や最高裁での審理を経て、無罪が確定したとしても、すでに88歳を迎え体の衰えも目立つようになってきた袴田さんの名誉回復はさらに遅れることになります。

元裁判官の西弁護士は、多くの市民から「控訴すべきではない」という声が上がっていることを踏まえたうえで、検察が控訴すべきかどうかについて「本当の正義とはなにかを問い直さなければならない」と指摘しています。

9月26日の判決をどのように受け止め、対応するのか。検察は大きな判断を迫られることになります。