(筆者撮影)

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左から、三菱商事の中西勝也社長、ローソンの竹増貞信社長、KDDIの高橋誠社長(筆者撮影)

三菱商事、KDDI、ローソンの3社が「未来のコンビニ」への変革に向けた取り組みを2024年9月18日に発表した。提携の核心は「Real×Tech Convenience」という新コンセプト。実店舗(リアル)とテクノロジーを融合させ、人手不足や食品ロスなどの課題解決を目指すとともに、顧客に新しい体験を提供することを目的としている。

この取り組みの中心となるのが、KDDIが2025年春に本社を移転予定の「TAKANAWA GATEWAY CITY」に開設される2つのローソン店舗だ。これらの店舗は未来のコンビニに向けたリテールテックの実験場として機能する。


次世代コンビニの実験場を東京・高輪にオープンする(筆者撮影)

未来のコンビニを支える新技術

高輪の新店舗では、最先端のテクノロジーにより店舗運営の効率化と顧客体験の向上を目指すシステムが検証される。9月19日に実施された発表会では、これらのシステムのデモンストレーションが披露された。

【写真】24時間稼働可能な自動品出しロボット、手に取った商品にあわせておすすめを提案するデジタルサイネージなど

品出はロボットが行う。KDDIが出資するTelexistence社が開発した技術で、ペットボトルや缶飲料を指定された場所に正確に配置できる。朝はコーヒーを多めに並べるなど、時間帯や需要に応じた柔軟な対応も可能だ。バックヤードには重量センサーを備えたスマートシェルフが設置され、リアルタイムの在庫管理を実現する。


24時間稼働可能な自動品出しロボット(筆者撮影)

新しいバージョンのスマホレジを導入

支払いシステムでは新バージョンのスマホレジを導入する。顧客の購入傾向に基づいた商品レコメンドがポップアップで表示される。バーコードを読み取るだけで簡単に商品をカートに追加でき、複数購入時の特典など買い回り促進策も組み込まれている。レジ待ち時間を削減すると同時に、顧客一人一人に最適化された購買体験を提供する。


スマホレジの新バージョンも導入(筆者撮影)

商品棚に設置されるスマートサイネージも、未来のコンビニの重要な要素だ。サイネージは、来店客の属性情報に基づいて最適な商品を提案する。例えば、男性客にはボリューム感のあるお弁当を推奨する。さらに、スマホレジでチェックインした人には、auの映像サービスの利用傾向に基づいてライブチケットを提案するなど、よりパーソナライズされた提案も行う。


手に取った商品にあわせておすすめ商品を提案するデジタルサイネージ(筆者撮影)

店舗の多機能化を象徴するのが、店内に設置されるオンライン相談ブースだ。ここでは、通信キャリア(携帯電話)、金融(保険)、ヘルスケア(オンライン診察と薬の処方)の3種類のサービスを提供予定だ。コンビニエンスストアを買い物の場所から、生活に密着したサービスの提供拠点へと役割の拡大を目指す。


オンラインでファイナンシャルプランナーや医師に相談できるよろず相談ブース(筆者撮影)

コンビニ店舗へのドローンの導入もデモンストレーションされた。この構想は、2024年9月に石川県と締結予定の包括連携協定に基づいている。この協定により、石川県内の指定されたローソン店舗が「地域防災コンビニ」として機能し、そこにドローンが配備される計画だ。

ドローンの主な役割は、当初は店舗周辺のパトロールや災害時の状況確認が中心となる。将来的には、商品配送や緊急時の物資輸送にも活用することを目指している。特に災害時には、従来の配送手段では難しかった遠隔地や交通の便が悪い地域、あるいは災害で通常の交通手段が遮断された地域への支援が可能になると期待されている。

ただし、商品配送や物資輸送に関しては、現時点では法規制や技術的課題があり、即時の実現は難しい。これらの課題を1つずつ解決しながら、段階的に実用化を進めていく方針だ。


店舗にドローンを配備し、災害時の状況把握やインフラ保全に活用する構想も抱く(筆者撮影)

Ponta経済圏の拡大とpovoの新サービス

KDDIは2024年10月2日から、現在1500万人の会員を持つ「auスマートパスプレミアム」を「Pontaパス」にリニューアルする。月額548円で、毎月合計600円分のローソンで使えるクーポンを提供し、来店促進を図る。これにより、ユーザーは月額料金以上の価値を得られ、ローソンは新たな顧客獲得と既存顧客の来店頻度向上が期待できる。

このリブランディングの重要な点は、「au」というブランド名を外し、代わりにローソンと深く関わる「Ponta」を前面に出したことだ。auスマートパスプレミアムは技術的には他キャリアユーザーも利用可能だったが、名称からauサービスと認識されがちだった。Pontaパスという名称に変更することで、KDDIがローソンを積極的に支援する姿勢を明確にし、同時に他キャリアユーザーにも広く訴求することを狙っている。


auスマートパスプレミアムを「Pontaパス」に改称。他キャリアへの訴求も図る(筆者撮影)

さらに、KDDIは新サービス「povo Data Oasis」も発表した。基本無料の通信サービスpovoが対象となるもので、ローソン来店時に毎月最大1GBまでのデータチャージを無料で提供する。加えて、ローソン店頭でのデータ専用eSIMの「つるし販売」も2024年度内に全国展開を目指す。高橋社長は、これらのサービスがあらゆるキャリアのサブ回線として利用可能であることを強調し、他キャリアユーザーのバックアップ回線やギガ切れのニーズに応えると訴えた。

Pontaとpovoという2つのアプローチで、KDDIとローソンは顧客接点を大幅に増やし、双方の事業拡大を図る。


KDDIのサブブランドの通信サービス「povo」は、ローソン来店で毎月1GBをプレゼントする特典を用意した(筆者撮影)

ハッピー ローソン・タウン構想

三菱商事、KDDI、ローソンの3社は、「ハッピー ローソン・タウン構想」を掲げている。この構想は、コンビニエンスストアを中心とした新しい地域社会の形を描くものだ。ローソン店舗を地域の核として位置づけ、周辺の住宅、オフィス、医療施設、教育機関などと有機的につなげることを目指している。テクノロジーを活用して効率的かつ快適な生活環境を実現し、同時に地域に根ざしたサービスを提供することで、コミュニティの活性化を図る。具体的には、高齢者の見守りサービス、地域の防災拠点としての機能強化、地域特産品の販売促進などが計画されている。


ローソンを中核とした街づくりを行う「ハッピー ローソン・タウン構想」。2030年をめどに実現を目指すという(筆者撮影)

この構想を実現するため、3社は先に述べた高輪店舗での実証実験で導入される技術を基盤としつつ、さらに広範な取り組みを進めている。例えば、高輪店舗で検証される自動品出しロボットやスマートシェルフなどの技術は、人手不足対策や効率的な在庫管理として、ハッピー ローソン・タウン構想においても重要な役割を果たす。また、AIを活用した需要予測は、食品ロス削減にも貢献する。

地域の安全・防災強化に向けては、2024年9月18日に防災・災害発生対処活動に関する協定を締結した。この協定に基づき、高輪店舗で実験されるドローン技術を発展させ、周辺パトロールや地域安全の強化に活用する計画だ。さらに、地域の移動課題に対応するため、オンデマンド乗合交通との連携も検討されている。


KDDIが出資するオンデマンド乗合交通「mobi」の乗り場をローソンに設置する取り組みも沖縄県などで進めている(筆者撮影)

竹増社長は、この「ハッピー ローソン・タウン構想」について、すでに実現に向けた具体的な協議を進めている自治体があると語った。「構想を発表して以来、多くの自治体からお声がけいただいています。具体的な街づくりの計画が見えてきた自治体もあり、近いうちに皆様にご報告できる見込みです」と、構想の実現に向けた手応えを示した。

一方で、高輪店で導入される先進的な技術やサービスは、そのまま全国展開されるわけではない。竹増社長は「高輪店はあくまでも実験の場です。ここで得られた知見や技術を、各地域の特性やニーズに合わせてカスタマイズし、最適な形で展開していきます」と説明した。

例えば、都市部では無人店舗技術を重視し、過疎地域では遠隔医療サービスを充実させるなど、地域ごとに最適なサービスを展開するアプローチとなるだろう。

将来的には、三菱商事の海外ネットワークを活用し、ローソンの海外展開も視野に入れているが、まずは国内での成功モデルの確立に注力する方針だ。「ハッピー ローソン・タウン構想」の成功は、日本の地方創生や少子高齢化対策のモデルケースとなる可能性を秘めており、その実現に向けた取り組みが今後も注目されるだろう。

(石井 徹 : モバイル・ITライター)