前回は私募社債について説明いたしました。今回はベンチャーデットファンドについて取り上げます。

コロナ禍では企業の資金繰り対策の一環として様々な融資の制度が活用されましたが、従来の金融支援の枠組みではスタートアップをカバーしきれないことが判明しました。最終的にはセーフティネット保証4号・5号をはじめとする公的支援の利用条件が緩和されましたが、預金として集められた資金を貸す融資の仕組みにおいては金額や期間の面で起業家側のニーズに合致しないケースがあり、新たなプレイヤーの登場が望まれました。金融機関では対応が困難な資金使途(例えばエクイティ着金前のブリッジ資金)でも融資を実行する、ベンチャーデットファンドに関するニュースが最近増えています。

Webサイトの公開情報や新聞記事を調べていくと、融資期間を最長3年に設定しているファンドもあれば1年でロールオーバーしていくファンドもあり、金利の他に手数料・新株予約権を付加するファンドがある一方で企業が支払うコストは金利のみとするファンドが存在するなど、契約条件についてデットファンド毎に個性があることが分かってきました。

多様なプレイヤーが新規参入している中、ベンチャーデットファンドはスタートアップ金融市場にどのようなビジネスチャンスを見出しているのか、ファルス株式会社に話を伺いました。ファルス株式会社は、いわゆるプロ向けファンド事業者(適格機関投資家等特例業務届出者)であり、かつ日本の貸金業ライセンスを取得してローンファンド事業を展開しています。



○Q1.参入を決めた経緯について教えてください。

A1.まず、弊社設立の経緯から申し上げます。弊社は「インパクトファイナンス」の事業領域を主力とするプラットフォーマーになるべく、日本で設立されました。弊社オーナーは創業した会社を上場させた後に、シリアルアントレプレナーとして新興国の社会的課題を金融の仕組みを用いて解決することを目指し、カンボジア王国でマイクロファイナンス事業を開始しました。弊社グループでは現在、カンボジア王国の他、ケニア・ミャンマー・ラオス・フィリピン・マレーシア等で事業展開されている設立年数の浅いマイクロファイナンス機関様向けに投融資をしています。

各国では共通して現地での安定的な資金調達に大きな課題があることから、弊社では、日本の未利用金融資産を活用したファンド形式で、各新興国のマイクロファイナンス機関様への融資事業を行っております。海外マイクロファイナンス機関向けにベンチャーデット(ファンドを含む)を行ってきていると言えます。近年は、設立年数が浅い海外フィンテック企業様や日本国内スタートアップ企業様からデットによる資金調達のご相談も多くいただく中、起業家側の強いニーズがあるものと判断し、新興国マイクロファイナンス機関向け以外にも、国内におけるベンチャーデットの取り扱いを開始した経緯になります。まさに日本国内では「スタートアップ育成5か年計画」が策定された時期とも重なり、その背景にも合致しているものと考えて日々金融事業を行っております。

○Q2.組成したファンドの規模や予定している運用期間について教えてください。

A2.弊社は借り手企業様の資金ニーズに合わせて、都度ファンドレイズを行う形式です。第2種金融商品取引業の融資型クラウドファンディングをイメージしていただければ分かりやすいと存じます。運用期間は貸出先様のニーズや個別与信によって都度決定しております。現在(2024年8月末)ファンドレイズ7本、正常償還済み1本、融資期日完済で償還予定1本、運用中5本になります。

ファンドレイズでなく自己勘定でのベンチャーデットご支援は4本、現在運用中2本です。

本年後半からは、大型の資金ニーズに対して継続的にお応えできるように、LPS型ローンファンドを組成してキャピタルコール方式を採用することを企図しております。引き続きローンファンドの残高と本数、取扱い地域や業種をさらに拡大して参る方針です。

○Q3.御社が資金供給することで強みを発揮できる業界やビジネスモデルは、海外での事例と同様に日本のスタートアップを支援するケースにおいても、フィンテック領域とスマートアグリ領域になりますでしょうか。

A3.おっしゃる通りです。日本国内スタートアップ様向けのご支援ですと、フィンテック、特にレンディング系事業やリース事業等のアセットファイナンス事業、スマートアグリは親和性が高い事業領域と考えております。しかしながら、過去実績でご支援をさせていただいた国内事業領域では、それらの事業領域に限定せず、借り手企業様の事業性や将来性から当社の与信判断によりご支援を決定させていただいております。

○Q4.競合ファンドと比較したとき、御社のアドバンテージはどのようなものでしょうか。

A4.弊社のベンチャーデットは、民間保証会社による保証付きの他に、プロパー融資(保証会社保証無し)も取り扱っております。与信判断については、銀行やノンバンク出身者を中心に行い、最終的に機関決定を採ります。現場で実際のケースワークから日々、知見を深めており属人的スキルからの体系化・共通知化をさらに進めたいと考えております。特に弊社のアドバンテージについては、投融資を自己勘定でも行い、リスクテイクすることで返済の蓋然性の目利きを磨ける点にあると考えております。また、オーナー社長自身がシリアルアントレプレナーであることが特に大きい要素であると思っております。

○Q5.御社が提供するベンチャーデットの契約条件の特徴はどのようなものでしょうか。

A5.エクイティキッカーはマストとしておりません。事業の将来性や融資返済の蓋然性を審査させていただき融資条件を決定するものです。

金額:1千万円〜1億円(個別案件によるファンド組成なので平均値・中央値等は非開示)

期間:1年〜3年(同上)

金利:対象企業様の個別与信によりますが、年率5%〜15%の範囲内で決定しております。

返済方法:一括返済と分割返済のどちらでも取扱い可能ですが、一括返済のご要望が多いです。

保証:民間保証会社による保証、法人連帯保証(借主様の関連会社等)の取扱い実績がございます。保証無しでの取扱実績もございます。個人保証(経営者や第三者による)は不要です。

担保:担保は、不動産担保、動産担保(動産全般)などで検討可能です。

○Q6.2年後に施行される企業価値担保権を活用する予定はございますか。

A6.企業価値担保権の活用についてはとても注視しております。金融庁の資料によると「金融機関等」と「金融機関」と分けて記載している箇所があるようにお見受けてしております。弊社は銀行ではないことからメインバンクにはなりえないポジショニングにあると考えておりますため、今後も情報収集を行い、どこまで対応できるのか引き続き社内協議をすすめていく所存です。

ベンチャーデットファンドの事例紹介は以上になります。次回は後払いサービスについて解説いたします。

→前回連載「東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門」はこちら

千保理 せんぼただし ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学経済学部経済学科を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業にCFOとして参画し、2022年に独立。未上場企業の融資による資金調達を得意としており、会計ソフトウェア会社やベンチャーキャピタルが主催する起業家向けの財務経理セミナーの講師を務めている。著書(共著)に千保理・滝琢磨・辻岡将基『〜事業拡大・設備投資・運転資金の着実な調達〜ベンチャー企業が融資を受けるための法務と実務』(第一法規、2019)がある。 この著者の記事一覧はこちら