物語の展開と合わせて目が離せなかったのが、櫻井翔の得体の知れない笑顔。クリーンで完璧なイメージなのに、人間としての本質や意志が感じられない――まさにマトリョーシカのように張り付いたその笑顔には、不気味さを覚えぞくっとしました。ハマりすぎでしょう! それもそのはずです。原作の早見氏は櫻井をイメージして書いたというのですから。

政治家としての“仮面”を完璧にかぶる人物を、櫻井も完璧に演じています。そして一転、最終回で「見くびるな」と、はじめて自身の心情を吐露した見せ場は圧倒的。俳優・櫻井の力を見せつけました。

◆南くんが恋人!?

最後にベテラン脚本家の力を見せつけられた作品を2つ。まずひとつ目は岡田惠和氏脚本の『南くんが恋人!?』(テレビ朝日系)です。

1987年に刊行された内田春菊の人気漫画『南くんの恋人』が原作で、これまで何度もドラマ化されてきた作品を、初の男女逆転バージョンで映像化。主演のちよみ役を若手注目株の飯沼愛が、小さくなってしまう恋人の南くんを八木勇征(FANTASTICS)が演じました。

◆ただの令和版にあらず! 優しさに溢れた世界に涙

30年前の高橋由美子&武田真治主演のドラマも記憶に残っている筆者は「時代に合わせて男女逆にしたのか……どうせ若い子向け」と決めつけていたのですが、見事に裏切られました。まず、人が小さくなるというファンタジーに困惑しながらも、好きな人と四六時中一緒にいられることが幸せなふたりがとにかく愛おしい! 飯沼&八木が、好感度高く演じていました。

そして、可愛いふたりの恋物語に新たな解釈を加えた岡田脚本が何より秀逸。原作でははっきりと語られなかった「なぜ小さくなったのか?」という問いに、「大切な人たちとお別れをするため」という切なくも愛おしい解が添えられました。

最終回でちよみの母・楓(木村佳乃)は東日本大震災を回想して「亡くなり方が悲しかったとしても、可哀想な人で終わらせちゃいけない。幸せな人にしなくちゃいけない。それができるのは生きている人」と、語ります。悲しい出来事や別れは、どうしようもなく突然訪れる。それでもちよみも南くんも可哀想ではない。ふたり自身も、ふたりを見守る周囲の人たちも決してそうさせない。優しさがいっぱい詰まった作品でした。

◆新宿野戦病院

そしてこの夏クールNo.1はやはり宮藤官九郎氏脚本の『新宿野戦病院』(フジテレビ系)ではないでしょうか。

「英語と岡山弁を混ぜてしゃべっていい日本人は藤井風だけ」のフレーズも話題になった破天荒な元軍医・ヨウコ(小池栄子)と、気取った美容皮膚科医・亨(仲野太賀)を中心に、新宿歌舞伎町にある「聖まごころ病院」の救急外来で起こる悲喜こもごもが描かれました。

◆令和を生きる人たちの「はて?」が露わに

宮藤官九郎氏は、強烈な登場人物たちをエンターテイメントとして魅力的に描きながら、その時代を、社会を絶妙に切り取る天才だと思います。本作においても、“多様性”という言葉ですべてを許容しているかにみえるイマに蔓延(はびこ)る“違和感”を物語のなかで浮き彫りにしていきました。

その違和感とは、出演陣が被りすぎとも取り沙汰された朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)のヒロイン・寅子(伊藤沙莉)風にいえば、「はて?」です。令和を生きる人たちが漠然と抱えるモヤモヤや不平等感に、ヨウコが「命は平等」と“雑に”寄り添ってくれる面白さがクセになっていきました。

9月11日に最終話を迎えた本作。最後の2話では真正面から“コロナ禍”が描かれました(ドラマの設定では、未知のウイルス・ルミナにより世界中が再び脅威にさらされる)。その重みとリアリティは、視聴者全員が共通して感じたはず。

クドカン作品は、誰かを一方的に悪者にしない。どんな価値観を押し付けもしないし、否定もしない。不平等な世の中でも、“命があること、その命はいつか尽きること”だけは平等だから、自分の命を全うするしかない。そんなメッセージを、“雑に”受け取った気がします。絶妙な塩梅で社会風刺をするクドカンワールドが、たまらなく好き! 今回も堪能できました。

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配信系ドラマではNetflix『地面師たち』が大いに盛り上がるなど、今年の夏も熱いドラマが沢山楽しめました。個人的なランキングですが、みなさんのお気に入りはありましたか?

<文/鈴木まこと(tricle.ltd)>

【鈴木まこと】
tricle.ltd所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201