それにやることをやってダメだったらしょうがないと思えるんですよ。試合でも準備し尽くして負けたら悔しいですが、切り替えられる。ずっとその繰り返しです。だからスタッフらに本当に助けてもらっていますし、自分ひとりでやれることに限界はあります。ひとりで抱えていたら難しいこともみんなでだったらやっていける。だから基本的に僕は何も変わらない。そのなかでサッカー面でもっと面白いことができないか、日々考えています」
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 ACLを本気で獲りに行くんだという意志を背中で見せる。次の大会からはフォーマットが変わることも分かっていた。だからこそ、2024年5月の決勝に向けてすべてを懸けて臨んでいた。アジアで結果を残せばクラブとして新たなフェーズに行けると信じていた。何より川崎の素晴らしきサポーターたちを、アジアへ、世界へ発信したいという想いが強かった。

「フロンターレというこんなに素晴らしクラブが日本にあるんだよって伝えたい。そして選手にクラブワールドカップを経験させてあげたい」

 監督としての願いは明確だった。それでも届かなった。

 山東戦の直後にはリーグ開幕戦が迫っていた。それでもスタジアムの片隅で鬼木監督がもらした「切り替えられないけど、切り替えます」という言葉。そのショックは計り知れなかった。

 何が足りなかったのか。何がいけなかったのか。

 その答え探しは今も続いているのだろう。やはりACLの屈辱はACLでしか晴らすことはできないのである。

 あの山東戦、今、振り返れば多くの反省点も浮かび上がってくると言う。

「アウェーの第1戦は、みんながかなり気持ちを込めて戦ってくれ、勝って帰って来られたのは非常に大きかった。一方でホームではもっと細かいところにこだわっていれば、伝えきれていれば、ああいうゲームにはならなかったのかなっていう想いはあります。

 あの試合、あのような状況になってしまった以上、同点のまま延長戦に入ってもいいと考えていたんです。とにかく時間をかければ、チャンスは絶対に自分たちに多くくると読んでいたので。でも少し慌てて勝負を決めにいってやられてしまった。ミーティングでもっとホームでの延長は問題ないと強調していればと思ったし、ピンチの選手にも声が届くまで伝え続ければ良かった。冷静に戦わせられなかった。

 1点目はミスからの失点で、ああいう大舞台では起こり得るんですけど、起こしちゃいけないプレーがいくつかあって、自分たちのウィークの部分が、もろに出てしまったゲームでもあります。ショックは大きかったですね。昨年からまたがっている大会で、シーズンの最初に本当に大きな目標がなくなる難しさは計り知れない部分がありました」
 それから3日後、川崎は湘南とのリーグ開幕戦を制す。しかし、その後は昨季以上の苦しい戦いのスタートであった。

 湘南戦以降、失点がかさみリーグ3連敗を喫するなど勝利に結びつかない日々。なかなか浮上のキッカケを掴め切れずに、今も降格圏から離れることができずにいる。

 そんななかで鬼木監督はチームにどんな指針を示そうとしているのか。

パート3に続く

■プロフィール
おにき・とおる/74年4月20日生まれ、千葉県出身。現役時代は鹿島や川崎でボランチとして活躍。17年に川崎の監督に就任すると悲願のリーグ制覇を達成。その後も数々のタイトルをもたらした。“オニさん”の愛称で親しまれる。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

※ACLの新フォーマット
 2024−25シーズンからAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)、AFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)、AFCチャレンジリーグ(ACGL)の3つのレベルの大会に再編。

 ACLEはこれまでより少ない24クラブの出場で、グループステージは東地区、西地区それぞれ12チームに分かれ、8クラブと1試合ずつ対戦(ホーム4試合、アウェー4試合)。各地区上位8クラブがラウンド16(東地区の1位対8位など各地区内の順位によって対戦相手が決定)に進出し、ホーム&アウェーの2試合合計スコアで勝利したクラブが準々決勝へ。準々決勝から決勝は東地区と西地区が合わさったトーナメント戦で、2025年4月25日から5月4日までサウジアラビアで集中開催される予定。
 
 優勝クラブは賞金1000万ドル(約14億6000万円)に加え、4年に1回開催されるFIFAクラブワールドカップ(2029年大会)の出場権を獲得する。
 
 川崎はグループステージで蔚山(韓国/アウェー)、光州(韓国/ホーム)、上海申花(中国/アウェー)、上海海港(中国/ホーム)、ブリーラム(タイ/アウェー)、山東(中国/ホーム)、浦項(韓国/アウェー)、セントラルコースト(オーストラリア/ホーム)と対戦する。