上司が齋藤知事タイプならどう対処するのがベストか(兵庫県HPより)

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兵庫県知事の齋藤元彦氏が土俵際に追い込まれている。百条委員会での公益通報に関する見解、後ろ盾だった日本維新の会からの辞職勧告など、退くことが最善の選択といえる中で居座り続ける姿勢を貫き、いよいよ県政運営にも支障をきたしかねない状況だ。

「もはや、権力が肥大した成れの果て。パワハラの域を超えた極限的なハラスメント上司といえるでしょう。アメリカの大統領のような権力を保持する知事を簡単にやめさせることは難しいですが、これに似たようなケースは民間企業でもみかけることはあります」。

こう明かすのは、管理職関係の著書も多く、社員研修も多数行っている人事コンサルタントの新井健一氏だ。新井氏が目にしたケースでは、暴君のような幹部クラスの人物が好き勝手に組織内で権力を乱用。結果、大量の離職者を生み、残った部下からの信頼も失った挙げ句、最終的には親会社の幹部が登場し、閑職へ追いやられたという。

民間にもいる「サイコ系上司」

手柄は全て自分のもの、部下の意見には耳を貸さず、自分にプラスになるなら平気でうそもつく。もちろん人情のかけらも持ち合わせない。そのくせ自分のプレゼン能力には長(た)け、人を惹き付けるオーラのようなものを持ちあわせている。

パワハラ的な対応と外部からの評判を高めることに秀でた能力。矛盾する2つの才能を持ち合わせ、感情面に起伏がないーー。こうしたタイプの上司を新井氏は「サイコパス的」と評する。とにかく自己中心的。意にそぐわない者は徹底的にこき下ろし、トラブルが発生しても非を認めず、はぐらかしてしまう。

サイコパスは、反社会性パーソナリティ障害といわれ、自己中心的で、ルールを破ることに罪悪感がないとされる。全人口の男性の3%、女性の1パーセント、日本では約150万人が該当するといわれる。

もしも自分の上司が“ヤバい人”なら「逃げて」

皮肉なことに、仕事ができるタイプが多く、上昇志向も強いため、自分の上司がサイコパス的な人間にあたる可能性は十分あり得る。万一、そうしたタイプの上司にあたったら、「迷わず逃げてください」と新井氏は明言する。

理由は、「サイコパスタイプの人は、どんなに正論をいっても受け入れてくれません。むしろ反論しようものなら、何倍にも返されて、精神面をズタズタされてしまいます。感情がないに等しいですから。『情』などみじんもありません」と新井氏は説明する。

コンプライアンス遵守を厳しく叫ばれ、ハラスメントもすっかりおとなしくなったと思われる日本の職場環境。それでもサイコパスタイプが入り込む隙はあるのか。

「ステップアップできるなら、平気で仮面をかぶり、ウソで塗り固めることができる人種です。見分けるチェックリストはありますが、それをすり抜ける術を持ち合わせていますからほとんど意味がありません。究極的ですが、本能的に”危ない”と感じたら、それが答え。迷わず逃げることです」と新井氏は、その危険性と対処法を力説する。

日本人会社員との相性が最悪なタイプ

典型的な日本型の会社員と、サイコパスタイプの上司とは「非常に危険な組み合わせ」と新井氏は補足する。

「日本の労働者は”世界一不安で不満で不幸”と国際的な労働機関からお墨をもらっているくらい、つらそうに仕事をしている人種なんです。自己重要感が低く、自己有用感(人の役に立ちたい)が高い。そして日本人の自己重要感は他の国民とは異なり自己有用感と有意な相関性があります。逆にいえばそれだけ真面目でもあるんです。どんなことに対しても一生懸命取り組みますから。

ただ、これがサイコパスタイプの上司にあたると悲惨です。頑張っても褒められない、手柄は上司のもの。部下は上司から『お前は無能だ』と言われ続けると、次第に自分が存在している価値さえ見失ったとしても不思議はありません。サイコパスタイプの上司は、そんな風に部下の心を意のままにコントロールしようとするのです」

多くの独裁上司がたどる末路

齋藤知事の実体が明らかになるにつれ、兵庫県民はおろか、日本全体で “ドン引き”ムードが充満している。そこに共通するのは「なぜやったことを素直に認めず、道義的責任も取らず、居座り続けるのか」という呆れと憤りだろう。

騒動が長引くほどに、「こんな上司がいたら絶対嫌だ」と、自分事のように捉え、渋い顔で報道を目にしている会社員もいるかもしれない。そう身構えてもいいくらい、割合的にはサイコパス的人物が意外なほど多いのは確かだ。

「でも救いはあります」と新井氏が続ける。

「経験則ではサイコパスタイプでのし上がった人は、落ちるのもあっという間です。仕事はできても人望がありませんから、権力を失えば総スカンです。私の知る人でもサイコパスタイプはその後、哀れなほど落ちぶれて社会をさまよっています。結局、仕事って、一人では何もできませんからね」

最後に新井氏は、斎藤知事の行く末をこう見通した。

「どう転んでもやめざるを得ないでしょう。ここまでくると県政が回らなくなってしまいますから。企業のような論理は働きづらいかもしれませんが、人間の本能に根差した全方位からの有言無言の反発が大きな圧となって、動かない岩を動かすんじゃないですかね。そういう圧さえ感じないのがサイコパスタイプではありますが…」

新井健一(あらい・けんいち)
経営コンサルタント、アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役 1972年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大手重機械メーカー人事部、アーサーアンダーセン(現KPMG)、ビジネススクールの責任者・専任講師を経て独立。人事分野において、経営戦略から経営管理、人事制度から社員の能力開発/行動変容に至るまでを一貫してデザインすることのできる専門家。著書に『働かない技術』『いらない課長、すごい課長』(日経BP 日本経済新聞出版)『事業部長になるための「経営の基礎」』(生産性出版)など。