ユービーアイソフトより2024年8月30日に発売したオープンワールドアクションアドベンチャー『スター・ウォーズ 無法者たち』。これまで「ディビジョン」シリーズや『アバター:フロンティア・オブ・パンドラ』などを手掛けてきたMassive Entertainmentが、Lucasfilm Games協力のもと開発した話題作だ。

「スター・ウォーズ」シリーズ初のオープンワールドゲームということで筆者自身も期待していたが、実際にプレイしてみると「良い意味で裏切られた!」という気持ちが強い。

実はステルス系? “普通の人間”が戦闘を進めるポイント

まずは戦闘について触れると、本作のヒロインであるケイ・ヴェスは「スター・ウォーズ」を代表する武器であるライトセーバーが扱えない。ルークのような特殊能力を持つ”ジェダイ”ではなく、ハン・ソロのような“普通の人間”だからであり、基本的にはブラスターを用いて戦う。もちろん筆者自身はそのことがわかったうえで、シューティング要素が多いゲームなのだろうと想像して始めてみたのだが……。

ここで最初の”裏切り”だ。実際は『アサシン クリード』のように物陰から敵を襲って倒し、なるべく戦闘に至らないようにするゲームだった。これまでその類のゲームにあまり触れてこなかったので、当初は大勢の敵を一人でどう対処すべきかとパニックになることも少なくなかった。

心強い相棒、ニックス

しかし本作には「ニックス」という心強い相棒がいる。ニックスはケイの肩に乗るサイズの小動物で、「スター・ウォーズ」シリーズの中でも今作が初登場となる、マーカルという非常に愛くるしい種族だ。

見た目の愛らしさとは裏腹に、このニックスが非常に役に立つ。ケイから指示を出せば帝国軍から物を盗むこともできるし、敵の前で死んだフリをして注意を引いたり、顔に覆いかぶさって攻撃することもできる。隙間から小部屋へ侵入して内側から扉を開けたり、警報機をあらかじめ破壊したりなどお手の物だ。

さらには爆発物を爆破させることも。敵が大勢いるような場所ではニックスを使って起爆を指示することが有効だ。ニックスは爆発物を起動させてすぐ戻ってくるが、敵は異変に気づいて一斉に爆発物へ駆け寄る。次の瞬間、ドカンと一掃できるという寸法だ。

映画的な展開をもたらす“ご都合主義”

いくらゲームだからと言って都合が良すぎるだろうか? しかしこのある種の“ご都合主義”こそが実に映画的展開とも言える。侵入しづらいところには必ず通り抜けられるダクトもあるし、壁にだっていかにも「ここにつかまってください」と言わんばかりの突起があったりする。そういったものを見つけながら、映画のルークやハン・ソロのように敵地をくぐり抜けていくゲームでもある。

剛腕すぎ? 主人公の人並外れた身体能力

またケイ・ヴェスの人並外れた身体能力についても、ひとつの”裏切り”とは言える。序盤は軽やかな身のこなしでクールに戦闘をこなすタイプのヒロインという印象を抱いていたが、その人並外れた身体能力を見るにつけ、徐々に荒々しく野生的なイメージに変わっていった。

特に戦闘においても、ブラスターで遠くから敵を狙撃するより、近づいて物理攻撃を食らわせるほうがラクに進めたりする。たとえ敵がシリーズでもおなじみの白い甲冑を身に付けたストームトルーパーであっても、間合いを詰めればボタン一つで殴る・蹴るの動作を決め、簡単に倒すことができる。ブラスターだと数発当てなければ倒せないのに……。

もちろん、戦い方はプレイヤースキルによって変わってくるところもあるだろう。ブラスターの他にも使い捨てのライフルなどの武器も登場するので、エイムに自信のある人はそれでヘッドショットを狙い、一度も敵に見られず制圧できるようステルス行動を極めるのも面白いはず。一方、筆者のように隠密行動が苦手なプレイヤーなら、見つかることも恐れずガンガン攻めてもよい。

帝国軍の基地の中など、エリアによっては見つかるとすぐ警報機を鳴らされてゲームオーバーになってしまう場所もあるが、見つかっても大概は草むらや白いモヤの中に隠れてしゃがんでいれば問題ない。「くそっ、見失った!」などと言いながら敵もすぐどこかへ行ってくれる。「目の前にいるのに?」なんて思うのはご愛敬。安全地帯の信頼感は物凄く、ステルスゲーム初心者にも遊びやすくなっている。

“オープンワールド”で行動の指針となる“組織の縄張り”

そしてもう一つの”裏切り”は、オープンワールドの自由度について。オープンワールドと言えば何でも自由にできることが魅力だが、本作に関してはどこに行くにも常に危険が伴う。「無法者たち」だからといって勝手気ままに行動できるわけではない。宇宙の裏社会には、映画本編にも登場するジャバ・ザ・ハットを始めとした犯罪組織の首領が何人かいて、それぞれが各エリアで幅をきかせている。彼らとの関係が良好でない状態であれば、領域に入っただけで追われる身となってしまう。

ケイも裏社会に生きる人間として、彼らから仕事を依頼される場合もある。それをうまくこなすことができれば関係改善も図れるが、逆にうまくいってしまったがために他の組織からは疎まれ、関係が悪化する場合もある。「どの組織とも良好な関係を築いてみんな仲良く」というわけにはいかないし、逆に「いずれかの組織とは完全に敵対してもう二度と寄り付かない」ということもできない。それぞれ腹の探り合いをしながら、険悪すぎたり良好すぎたりしないバランスのよい関係を保っていく必要がある。

自由を勝ち取るためには、何でも好きにしていいわけではない。時には面倒な任務もこなさなければならないし、危険を顧みず大胆な行動を取る必要も出てくる。それはまるで、「現実社会そのものじゃないか」と思うような場面もある。ゲームの中でここまでリアルな体験ができるのはとても貴重と言えるかもしれない。

そうしたことの繰り返しで本当の自由を勝ち得、どの宇宙までも好きに渡り歩けるようになったとき、その先にはいったいどんな景色が広がっているのかとワクワクするところは大きい。映像はかなり美しく作られており、映画で見たあのシーンや、本作で初めて登場するような景色も多く見られる。まさに「スター・ウォーズ」の裏側を覗くような冒険が待っている。

独自の体験と面白さを味わえるゲーム

正直なところ、ちょっと触れただけですぐ面白いと思えるようなキャッチーなゲームではないかもしれない。SNS等でレビューを見ると、筆者のように「こういう『アサクリ』みたいなステルス系のゲームは苦手!」「『龍が如く』のような裏社会系はちょっと……」という批判的な意見も目にする。

「『〇〇』のような」と別のゲームに例えることは筆者自身もやっているし、悪いこととは思わない。しかし「このゲームは〇〇だ」と安易にレッテルを貼って、苦手意識を持ったり、侮ったりしてプレイを止めてしまうのは非常にもったいない。実際に進めてみれば、どのゲームともまったく異なる独自の体験、面白さを味わえることに気づけるはずだ。

遠い昔、はるか彼方の銀河系で……(A long time ago in a galaxy far, far away……)、まだ誰も知らなかった「スター・ウォーズ」の世界がそこには広がっている。シリーズのファンならば当然だろうが、そうでなくても夢中になれるような数々のコンテンツがそこには待っている。他人の評価を見てプレイを躊躇ってしまっている方は特に、そんなものは一切気にせず、自分の目でこの世界を味わってほしい。

(文/平原学)