本記事はRokt様、電通様による寄稿です。

<目次> Out コンベンション:ASEAN のリテールシーンにおける「ジャパンプレゼンス」 日本を含むASEANにおけるリテールメディア仮説:欧米型とは一線を画す、その実態とは? 「Beyond」リテールソリューション:アジア型リテール・コマースソリューションの確立に向けて NRF APAC 2025への期待

今年で113年目を迎えた、全米小売業協会主催のリテール領域におけるグローバル・コンベンションである「NRF 2024: Retail's Big Show(以下NRF)」。本記事では会場内でのキーノートや展示から見えたキーワードを解説した前編に続き、NRF APAC会場外のリアルなリテールシーンから見えてきたトレンドを「Out コンベンション編」としてお届けする。
Out コンベンション:ASEAN のリテールシーンにおける「ジャパンプレゼンス」
ダイソー(DAISO)やウエルシア、ドンドンドンキ(DON DON DONKI)……日本でもなじみの店舗の現地での様子を以下に見てほしい。これ以外も含めてシンガポールの街に実際に出て店舗巡りをしてみると、リテーラーのみならずメーカーやブランドにおいても「ジャパンプレゼンス」を感じることは想像に難くない。

ダイソー

ウエルシア

ドンドンドンキ

その一方で、これらにおける前述したリテール・コマース領域におけるグローバル・アジェンダやリテールメディア、生成AIなどは、現地由来のリテーラーであるハオ・ハラル・ハブ(HAO Halal Hub)やワトソンズ(Watsons)、フェアプライス(FairPrice)において、フィジカルな店舗とリアルの店員に触れた限りでは日本と同等ないしはそれより劣後することが多かった。

ハオ・ハラル・ハブ

ワトソンズ

フェアプライス

日本を含むASEANにおけるリテールメディア仮説:欧米型とは一線を画す、その実態とは?
概観してきたように、ASEANにおけるさまざまな業態や店舗フォーマットを通じて垣間見られたのは、欧米と比べて進んでいる/遅れている、優れている/劣っているという議論よりもむしろ、ASEANのリテール・シーンはフィジカルな店舗とリアルの店員とを前提として成り立っており、日本人を含めた我々はそのような文化に身を置いているという点だ。その点において、日本、そしてASEANは中国や欧米よりも「進んでいる」と胸を張って言える。日本は世界的なトレンドを追いながらも独自のリテール・コマース環境の進化を遂げていると言われて久しいが、今回ASEANにおいてもコンベンションに参画し、実店舗を視察する中でその傾向は同様であるということが見て取れた。米国に比べるといまだECよりも実店舗が依然として強い販売力を持っており、その結果ポイントカードやキャッシュレス決済などIDに紐づく購買データを利用した多様なソリューションが生まれていることは周知の事実であるが、欧米型のリテールメディアのみに腐心したり、そこで評価・価値判断に走ったりすることは早計であると考えるべきだ。イオン(AEON)副社長である羽生氏のキーノート中にあった「LIFETEC」や「Warm Colorful Experience」というキーワードの筆者なりの解釈は、上記に述べてきたようなことになる。その上で電通グループとしては、「ASEANにおけるリテールメディア」を正しく捉えるためには「狭義のリテールメディア」でなく、より「広義のリテールソリューション群」として捉える必要があり、そこにはメディアとプロモーションの区別は存在しないのではないか? という論点を提起したい。

「Beyond」リテールソリューション:アジア型リテール・コマースソリューションの確立に向けて
そしてポストコロナの時代にアジアでもオン・オフの垣根が少しずつ低くなるなか、ECにおける購買近接領域(上記資料右:コマース領域)における実効性あるソリューションの整備が不可欠であるのは言わずもがなである。この部分こそ、フィジカル&リアルに強みを持つASEANのリテールシーンゆえの弱みとなっているからだ。この課題に対する解決策として、今回電通とNRFに共催参戦し、ECにおける【Transaction Moment】を活用したリテールメディア展開を推進するRoktと現地最終日に行ったクローズドセッションで触れたポイントを紹介したい。それはECにおける「購買の瞬間」、つまりポスト・パーチェスのフェーズにおける顧客コミュニケーションが持つポテンシャルがまだ見落とされがちだということである。吟味を重ねて購入する商品を決め、財布からクレジットカードを取り出し、「購入」ボタンを押したばかりの消費者の心理状況が「買い物モード」に入っていることは想像に難くない。そこで購買データを瞬時に分析し、その消費者に対してぴったりな「次の一品」を示すことができれば、顧客はさらにショッピングを楽しみ、さらなる購買を引き出すことが可能となる。Roktではここで第三者ブランドからの広告を含めたオファー群の中から顧客に最適な情報を選び提示する技術を通して、顧客・EC(リテール)・広告主三方よしの世界観を提供しており、オンライン領域における購買近接領域の顧客体験や経済性の最大化を実現している代表格的存在といえるだろう。リアルで人間らしさのある買い物が前提とされるアジアだからこそ、今後オンラインやECの領域でもAIなどのテクノロジーを上手に活用しながら、パーソナライズされた温かみのある体験が求められていきそうだ。
NRF APAC 2025への期待
すでに2025年の開催も発表されているNRF APAC。来年はいよいよ生成AIがビジネスサイドからカスタマーサイドへと社会実装されはじめる。欧米とは異なるASEAN独自の進化がどのような形で見られ、事例として共有されるのかは最大の注目ポイントだろう。またイベント規模という観点で言うと、マーケティング&プロモーションの世界的祭典に位置するNRFが2回目のAPAC開催となって前回を「上回る」集客をどれほど見込めるかという点も要注目だ。これはつまり、そのままASEANのリテールリテラシーの評価に直結するといえる。そのためにも、リテーラー/ブランド・メーカーともにまだまだ認知の低い当該コンベンションがいかにイベントとして価値を創出し、日本からの参画者を惹きつけられるかどうかが重要となりそうだ。a href="https://digiday.jp/modern-retail/nrf-apac-2024-1/">「NRF APAC 2024 まとめ【前編】:マーケティング・プロモーションの新潮流はニューヨークからシンガポールにも」を読む。
木村 仁昭(きむら・まさあき)株式会社電通 トランスフォーメーションプロデュース局 リテールマーケティング DX グループ。電通プロモーションプラス 企画営業部部長(2024年1月1日より出向)2000年に電通入社後、関西支社でマーケティング、メディアプラン、CRMなど幅広い分野に従事。医薬品メーカーやドラッグチェーンのデータを活用したプロモーションを展開し、事業基盤を構築。その後、金融大手、通信大手などの主要クライアントを担当。国内流通小売大手の駐在業務や手コンサルタントファームとの協業も経験し、全国でのフィールドオペレーションに強みを発揮。直近では電通PMP社でフロント業務の強化を指揮。
写真・図表:Rokt、電通提供