『降り積もれ孤独な死よ』原作との違いは? 残された謎と最終話の結末を大予想
『降り積もれ孤独な死よ』(読売テレビ・日本テレビ系)が9月8日に最終回を迎える。山中の邸宅で発見された13人の死体遺棄事件は、謎めいたリッカのマークをめぐる複雑な関係を解き明かしながら、類例のない経緯をたどって物語の最終局面に達した。
参考:『降り積もれ孤独な死よ』顔に傷のある男がついに正体を明かす 吉川愛の担った役割
暴力衝動を内に秘めた刑事の冴木(成田凌)は、ミステリアスなオーラをまとう花音(吉川愛)とともに遺棄事件の真相を追う。すべてを知る灰川十三(小日向文世)はドラマ序盤で退場し、謎が錯綜する中で、冴木の腹違いの弟である蒼佑(萩原利久)との兄弟の確執と関係修復がドラマ前半で描かれた。屋敷に架けられていた贋作の絵画(ゴヤ作『我が子を食らうサトゥルヌス』)の購入ルートから割り出した容疑者は後輩刑事の鈴木(佐藤大樹)で、なんと鈴木は灰川の実の息子だった。
ドラマ後半では、舞台を2024年の現在に移して、灰川が残した日記の謎と生き残った6人の1人、沖島マヤ(仲万美)の死をめぐって花音の足どりをたどる。週刊誌記者の森(山下美月)が、冴木の新たなバディーとなった。原作版『降り積もれ孤独な死よ』は現在『マガジンポケット』で連載中であり、第7話以降の展開はドラマ版のオリジナルだ。「顔に傷のある男」は花音の幼なじみの涼(笠松将)で、涼は灰川に託されて花音を守ろうとしていたことが第9話で明かされた。
原作版のコミックでは灰川の個人史を丹念に描写している。灰川は30年前に故郷の蔵土村で33人の村人を殺害する事件を引き起こし逃亡。その後、「六花(リッカ)のマーク」に関係のある人間に次々と復讐を果たすのだが、この経緯はドラマでは描かれない。代わりに幼い頃から顔にアザがあり、父の文吾(駿河太郎)から疎まれていた灰川が、ある出来事をきっかけに文吾を殺害するエピソードに改変されている。
リッカのマークが持つ意味も違ってくる。6つの花を意味するリッカは、原作では蔵土村に暮らす人々によって共有されており、呪われた一族の象徴のような役割を果たしている。これに対して、ドラマではリッカのマークは灰川が築いた家族の絆を表すものとされ、生き残った6人が持ち歩くチャームもお守りのような扱いだ。原作エピソードは、津山三十人殺し事件や同事件をモデルにした『八つ墓村』を想起させるなど、因習深い集落で起きた陰惨な事件の面が強調されている。
この違いはドラマの展開にも影響している。ドラマ前半では、冴木と蒼佑の兄弟が虐待の連鎖を断ち切ることに主眼が置かれており、灰川と鈴木の血のつながりがもたらす悲劇も描かれていた。血の呪いを取り上げながらも、ドラマ後半は「家族」をキーワードに灰川邸で生き残った6人の関係性に光を当てるものとなっている。テレビという媒体の特性を考慮したと思われるが、原作者の了承を得た上でオリジナルのテーマを翻案し、連続ドラマのフォーマットに落とし込んでいる。
さて、気になるドラマの結末だが、正直言ってまったく予測がつかないというのが本音だ。第9話ラストで消息不明の健流(杢代和人)の母・陽子(長谷川京子)と事件との関連性を匂わせたものの、そもそも動機がよくわからない。陽子と灰川の関係性がポイントになりそうだが、二人に接点はあったのか。取調べで五味(黒木メイサ)に「お前たちは何もわかっていない」と発した涼は何を知っているだろうか。会話でしか登場していない健流の弟の現況も気がかりだ。6人のうち健在なのは弁護士の悟(松本怜生)と花音だが、目立たなかった悟が最後の最後で大仕事をやってのけるのか。灰川邸に陽子を呼び出した花音は何を語るだろうか。
ドラマ版『降り積もれ孤独な死よ』は最終話まで謎を隠しながら、巧みに視聴者の関心を引きつけており、ミステリー・サスペンスの成功作と言えるだろう。最後にあっと驚くどんでん返しを期待したい。
(文=石河コウヘイ)