「褒めますおじさん」に引き寄せられる若者たち、コミュニケーションの希薄化も背景か…新米Dが感じた魅力
●「救われる命がある」と感謝する人も
フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00〜 ※関東ローカル)で8日に放送される『ほめる人とほめられる人〜褒めますおじさん 令和の路上物語〜』。街角で見知らぬ人を褒めまくる「褒めますおじさん」を追った作品だ。
取材したのは、今回がディレクターデビューとなるテレビマンユニオン入社2年目の鳥居稔太氏(23)。“番組最年少ディレクター”ということだが、「自分の力で作ったという感じではないので…」と謙そんしながら、初めての番組制作の苦労や、褒めますおじさんの魅力を語ってくれた――。
手書きの「すごくほめます」段ボールを掲げる褒めますおじさん (C)フジテレビ
○ギャンブルにハマり、父が倒れ、気づけばホームレスに
「すごくほめます」と手書きの段ボールを掲げ、この2年間、足を止めてくれた人を、ひたすら褒め続けてきた「褒めますおじさん」(42)。容姿から始まり、会話で気が付いたささいなことを褒められた多くの人は、笑顔でその場を後にする。
かつては、地元・栃木で会社勤めをしていた褒めますおじさんだが、ギャンブルにのめり込み、生活がひっ迫。父が病に倒れ、住宅ローンが支払えなくなった実家は差し押さえとなり、気が付けばホームレスになった。
仕事も失い、追い詰められた末に思いついたのが「路上で人を褒めること」。幼い頃から、路上パフォーマーに憧れていたこともあり、「人を褒めることだったら、自分にもできるかもしれない」と、今の生活が始まった。
「褒めてほしい」とやってくる人は後を絶たない。一人暮らしを始めたばかりの若者から仕事に疲れた会社員、定期的に訪れる常連の存在も。ある夜、褒めますおじさんの前に現れたのは、映画監督になることを夢見る中国人留学生だった。彼が、見ず知らずのおじさんに、褒められたい理由とは…。
○言葉一つ一つに重みがあるわけではないが…
褒められた人は皆、笑顔になって喜んでいるが、なぜ、多くの人が褒めますおじさんに褒められたくなるのか。体験した鳥居氏に感想を聞くと、「言葉一つ一つにすごい重みがあるわけではないのですが、とにかくテンションを上げてくれるんです。おじさん自身も、“すごく深いことを聞き出すことはせず、その場で楽しんでいただければ”と言っているのですが、普段こんなに褒められることがないから、うれしくなるんだろうなと思います」と魅力を語る。
その上で、「街で褒めますおじさんを見かけて興味を持ったら、ぜひ足を止めて、試しに褒められてもらうといいなと思います。“周りに見られて恥ずかしい”とか“そんなに褒められなくてもいい”と思う人もいると思いますが、実際に褒められたら、何かが変わるかもしれないです」と呼びかけた。
実際に、今回の番組では「あなたのひと言で救われる命がある」とまで感謝する人が登場する。
「おじさん自身は、そんなにすごいことをやっている自覚はなかったと思うのですが、褒められた人にとってはそこまで価値のあるものなんですよね。これだけ喜んでくれる人や救われる人が出てくるとは、本人も想像していなかったようです」
過去には、頭を叩かれたり、お金を盗まれたりとトラブルに巻き込まれたこともあったそうだが、そうした反響がやりがいとなり、褒め続ける原動力になっているようだ。
最近、褒めますおじさんは自身のX(Twitter)で、「広瀬アリスに引リツされたい」と毎日投稿し続け、ついに80日目に突入(9月7日現在)。鳥居氏は「この番組が放送されることで、届いてくれたらいいですね(笑)」と、猛アピールが結実することを願った。
●研修期間中の仕事帰りに出会い、褒められてみる
(C)フジテレビ
大学生の時にドキュメンタリーに夢中になり、昨年4月にテレビマンユニオンへ入社した鳥居氏。それから1カ月もたたない研修期間中に、仕事からの帰り道の渋谷駅で、褒めますおじさんが立っているのを見かけた。
100円を払って実際に褒められてみると、「思った以上にうれしくなったんです(笑)」と想定外の感情が。そこから、「“お仕事は何をされているんですか?”と聞いたら、これしかやっていないということで、人を褒めて生きている人がいるんだと興味を持って取材をお願いしました」と密着することになった。
研修中の身だったが、『ザ・ノンフィクション』で『都会を捨てた若者たち』『彼女が旅に出る理由』『東京 家賃2万5000円〜僕が四畳半で見る夢〜』などを制作してきた先輩・蜂谷時紀氏から、「『ザ・ノンフィクション』の企画はいつでも出していいよ」と言われていたこともあり早速、企画書を提出。これが見事通り、研修後は『世界ふしぎ発見!』(TBS)のADに配属されていたが、休みの日を中心に昨年6月から取材をスタートした。
○褒めますおじさんの番組を作っているのに怒られる日々
初めての番組制作に、「最初は、“自分はものすごく面白いものを作れるんじゃないか”なんてどこかで思っていたところがあったのですが、いろんな人の力を借りて、甘えて頼らないと作れないんだということをすごく感じました」と、一筋縄ではいかない難しさに直面した鳥居氏。
「取材中におじさんに褒められた人全員に“なぜ褒められたかったのですか?”と聞いたのですが、僕はベテランのディレクターさんより圧倒的に社会経験がなく、出会った人も少ないので、“そんな意外な理由で!?”とか“こんな仕事をしてる人が褒められたいんだ!”という衝撃がどうしても大きくなってしまい、番組として成立するのかと不安になったこともあります。話を聞く相手がだいたい年上になるので、変に気を使ったりして、コミュニケーションを取るのも難しかったです」と苦労を振り返る。
自分でカメラを回すのも初めての経験で、「変なズームをしたり、画が動きすぎたりして、いつも怒られていました」といい、「褒めますおじさんの番組を作ってるのに、褒められてないな…と思うこともありました(笑)」とのことだ。
それでも、今回プロデューサーとして支えてくれた蜂谷氏をはじめ、チームの支えで放送までこぎつけることができた。
「蜂谷さんが担当した『東京 家賃2万5000円』の取材を一部任せてもらって勉強になりましたし、今回もすごくケアしてくださいました。編集マンの宮島(亜紀)さんにも、撮影した(映像)素材を見てたくさんアドバイスを言っていただいたんです。今の時代、新人に何か言うだけでパワハラになるかもしれないと、何も言われないことが多いので、すごくありがたいです」
○上っ面で「よくできたね」と褒められても…
褒めますおじさんに褒められにくるのは、若い人が多いという。それは、TikTokで回ってきた褒めますおじさんの動画を見たのをきっかけに会いに来るケースもあるが、パワハラと捉えられるのを恐れる上司とのコミュニケーションが希薄になったことで、褒められる機会が少なくなったという背景もあるのかもしれない。
「怒られて、怒られて、怒られて、最後に褒められるだけで、すごくうれしいということがあると思うのですが、今はなかなかそういうのもないと思います。それに、上っ面で“よくできたね”と言われても、お世辞と受け止める人も結構いたりするんです。だからこそ、おじさんが全力で褒めてくれるのがうれしいのではないか思います」
今後もドキュメンタリーを中心に番組制作に携わっていくという鳥居氏。「また『ザ・ノンフィクション』をやりたいので、街を歩いて、面白い人を探したいと思います」と意欲を示した。
フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00〜 ※関東ローカル)で8日に放送される『ほめる人とほめられる人〜褒めますおじさん 令和の路上物語〜』。街角で見知らぬ人を褒めまくる「褒めますおじさん」を追った作品だ。
取材したのは、今回がディレクターデビューとなるテレビマンユニオン入社2年目の鳥居稔太氏(23)。“番組最年少ディレクター”ということだが、「自分の力で作ったという感じではないので…」と謙そんしながら、初めての番組制作の苦労や、褒めますおじさんの魅力を語ってくれた――。
○ギャンブルにハマり、父が倒れ、気づけばホームレスに
「すごくほめます」と手書きの段ボールを掲げ、この2年間、足を止めてくれた人を、ひたすら褒め続けてきた「褒めますおじさん」(42)。容姿から始まり、会話で気が付いたささいなことを褒められた多くの人は、笑顔でその場を後にする。
かつては、地元・栃木で会社勤めをしていた褒めますおじさんだが、ギャンブルにのめり込み、生活がひっ迫。父が病に倒れ、住宅ローンが支払えなくなった実家は差し押さえとなり、気が付けばホームレスになった。
仕事も失い、追い詰められた末に思いついたのが「路上で人を褒めること」。幼い頃から、路上パフォーマーに憧れていたこともあり、「人を褒めることだったら、自分にもできるかもしれない」と、今の生活が始まった。
「褒めてほしい」とやってくる人は後を絶たない。一人暮らしを始めたばかりの若者から仕事に疲れた会社員、定期的に訪れる常連の存在も。ある夜、褒めますおじさんの前に現れたのは、映画監督になることを夢見る中国人留学生だった。彼が、見ず知らずのおじさんに、褒められたい理由とは…。
○言葉一つ一つに重みがあるわけではないが…
褒められた人は皆、笑顔になって喜んでいるが、なぜ、多くの人が褒めますおじさんに褒められたくなるのか。体験した鳥居氏に感想を聞くと、「言葉一つ一つにすごい重みがあるわけではないのですが、とにかくテンションを上げてくれるんです。おじさん自身も、“すごく深いことを聞き出すことはせず、その場で楽しんでいただければ”と言っているのですが、普段こんなに褒められることがないから、うれしくなるんだろうなと思います」と魅力を語る。
その上で、「街で褒めますおじさんを見かけて興味を持ったら、ぜひ足を止めて、試しに褒められてもらうといいなと思います。“周りに見られて恥ずかしい”とか“そんなに褒められなくてもいい”と思う人もいると思いますが、実際に褒められたら、何かが変わるかもしれないです」と呼びかけた。
実際に、今回の番組では「あなたのひと言で救われる命がある」とまで感謝する人が登場する。
「おじさん自身は、そんなにすごいことをやっている自覚はなかったと思うのですが、褒められた人にとってはそこまで価値のあるものなんですよね。これだけ喜んでくれる人や救われる人が出てくるとは、本人も想像していなかったようです」
過去には、頭を叩かれたり、お金を盗まれたりとトラブルに巻き込まれたこともあったそうだが、そうした反響がやりがいとなり、褒め続ける原動力になっているようだ。
最近、褒めますおじさんは自身のX(Twitter)で、「広瀬アリスに引リツされたい」と毎日投稿し続け、ついに80日目に突入(9月7日現在)。鳥居氏は「この番組が放送されることで、届いてくれたらいいですね(笑)」と、猛アピールが結実することを願った。
●研修期間中の仕事帰りに出会い、褒められてみる
(C)フジテレビ
大学生の時にドキュメンタリーに夢中になり、昨年4月にテレビマンユニオンへ入社した鳥居氏。それから1カ月もたたない研修期間中に、仕事からの帰り道の渋谷駅で、褒めますおじさんが立っているのを見かけた。
100円を払って実際に褒められてみると、「思った以上にうれしくなったんです(笑)」と想定外の感情が。そこから、「“お仕事は何をされているんですか?”と聞いたら、これしかやっていないということで、人を褒めて生きている人がいるんだと興味を持って取材をお願いしました」と密着することになった。
研修中の身だったが、『ザ・ノンフィクション』で『都会を捨てた若者たち』『彼女が旅に出る理由』『東京 家賃2万5000円〜僕が四畳半で見る夢〜』などを制作してきた先輩・蜂谷時紀氏から、「『ザ・ノンフィクション』の企画はいつでも出していいよ」と言われていたこともあり早速、企画書を提出。これが見事通り、研修後は『世界ふしぎ発見!』(TBS)のADに配属されていたが、休みの日を中心に昨年6月から取材をスタートした。
○褒めますおじさんの番組を作っているのに怒られる日々
初めての番組制作に、「最初は、“自分はものすごく面白いものを作れるんじゃないか”なんてどこかで思っていたところがあったのですが、いろんな人の力を借りて、甘えて頼らないと作れないんだということをすごく感じました」と、一筋縄ではいかない難しさに直面した鳥居氏。
「取材中におじさんに褒められた人全員に“なぜ褒められたかったのですか?”と聞いたのですが、僕はベテランのディレクターさんより圧倒的に社会経験がなく、出会った人も少ないので、“そんな意外な理由で!?”とか“こんな仕事をしてる人が褒められたいんだ!”という衝撃がどうしても大きくなってしまい、番組として成立するのかと不安になったこともあります。話を聞く相手がだいたい年上になるので、変に気を使ったりして、コミュニケーションを取るのも難しかったです」と苦労を振り返る。
自分でカメラを回すのも初めての経験で、「変なズームをしたり、画が動きすぎたりして、いつも怒られていました」といい、「褒めますおじさんの番組を作ってるのに、褒められてないな…と思うこともありました(笑)」とのことだ。
それでも、今回プロデューサーとして支えてくれた蜂谷氏をはじめ、チームの支えで放送までこぎつけることができた。
「蜂谷さんが担当した『東京 家賃2万5000円』の取材を一部任せてもらって勉強になりましたし、今回もすごくケアしてくださいました。編集マンの宮島(亜紀)さんにも、撮影した(映像)素材を見てたくさんアドバイスを言っていただいたんです。今の時代、新人に何か言うだけでパワハラになるかもしれないと、何も言われないことが多いので、すごくありがたいです」
○上っ面で「よくできたね」と褒められても…
褒めますおじさんに褒められにくるのは、若い人が多いという。それは、TikTokで回ってきた褒めますおじさんの動画を見たのをきっかけに会いに来るケースもあるが、パワハラと捉えられるのを恐れる上司とのコミュニケーションが希薄になったことで、褒められる機会が少なくなったという背景もあるのかもしれない。
「怒られて、怒られて、怒られて、最後に褒められるだけで、すごくうれしいということがあると思うのですが、今はなかなかそういうのもないと思います。それに、上っ面で“よくできたね”と言われても、お世辞と受け止める人も結構いたりするんです。だからこそ、おじさんが全力で褒めてくれるのがうれしいのではないか思います」
今後もドキュメンタリーを中心に番組制作に携わっていくという鳥居氏。「また『ザ・ノンフィクション』をやりたいので、街を歩いて、面白い人を探したいと思います」と意欲を示した。