「ガッツch」のYouTubeチャンネル(現在は削除されている)

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 それは、“真の正義”か“ゆがんだ正義”なのか--。
 私人逮捕系YouTubeの「ガッツch」を運営している今野蓮被告人(31)と奥村路丈被告人(29)は、共謀して男性に覚醒剤を持ってくるようにそそのかしたという覚醒剤取締法違反教唆の罪で、昨年12月に東京地検に起訴されている。

 8月29日、東京地裁(花田隆光裁判官)で初公判が開かれた。被告人両名は、起訴内容を否認。盗撮や痴漢などの犯罪行為をしたと主張して、動画を撮影しながら取り押さえた様子をYouTubeに投稿するという「私人逮捕系ユーチューバー」が、初めて裁判で争われることとなった。

裁判は厳重な警備体制で行われることに

 一時社会の耳目を集めた事件とだけあって、開廷の30分前に抽選で傍聴券が交付されることに。傍聴希望者の中には、支援者らしき姿はほとんどなく、若者が目立つ。配信者の裁判ともなると、裁判所前で三脚を立てて生配信する者もいるが、今回はそういった人は見受けられず、いたって平穏な裁判所前だった。

 なお、この裁判は「警備法廷」で開かれた。警備法廷とは、有名人や暴力団、活動家関連の事件などでの“暴動”を想定して設けられた法廷のこと。配信者関連の裁判では、盗撮を防ぐためにこの法廷が使用されることがしばしばある。今回は特に、手荷物預かりの際に、携帯電話の電源が切れているか確認されるなど、厳重な警備が行われた。

「今回の裁判の3日前にも、別の配信者の裁判がありました。実はそこでひと悶着あったようで……。ある傍聴人が、裁判所内は撮影禁止なのにも関わらず、生配信をオンにしたまま手荷物を預けてしまったようで、一時裁判が休廷する事態となってしまったのです」(裁判ライターA氏)

◆初公判で明らかになった事実

 そんな厳重な警備のもと、初公判が開廷した。

 今野被告人は紺色のスーツ姿で、奥村被告人は黒色のジャケットを羽織って、顔にかかるくらいの茶髪姿で入廷。2人とも、やや緊張している面持ちだった。

 人定質問のあと、検察側から読み上げられた起訴状によると、被告人らは共謀して、2023年8月11日午後3時頃に、B氏に通信アプリで女性を装って覚醒剤を持ってくるようにそそのかすメッセージを送信。その後、B氏は覚醒剤を持っていなかったにも関わらず、所持を決意させ、同日午後10時頃に東京都新宿区内の路上で覚醒剤0.925グラムを持ってこさせたというもの。

 罪状認否で、今野被告人はハッキリとした声で「教唆したつもりはありません」と否認。奥村被告人も、裁判官から声が小さいと注意されながらも、起訴内容を否認した。

 弁護側は、覚醒剤を持ってくるようにメッセージを送信したことは認めたものの、B氏の覚醒剤の所持とは因果関係がないとして、被告人らは無罪であると主張した。

◆被告人らの経歴と動画収入

 検察側の冒頭陳述などによると、2021年に今野被告人が責任者を務めていたメンズエステで奥村被告人が雇われることになり、2人は知り合ったという。

 その後、動画の再生回数による収入を得ようと考えて、2023年1月からは「ガッツch」を開設。痴漢や盗撮の撲滅を謳って「私人逮捕系」の動画投稿を始めたとのことだ。

 2023年9月の時点でチャンネル登録者は22.8万人、動画投稿数は285本。そして、同年5月から10月までの5か月間だけで、約946万円の収入があったとのことだ。

◆事件当日の詳細

 検察側の冒頭陳述により、被告人らの当日の行動などが明らかとなった。

 被告人らは、日頃から「私人逮捕」をする相手を探していたという。そのとき、XでB氏の覚醒剤に関する投稿を見つけた。

 そして今野被告人らは、B氏に覚醒剤を持ってこさせれば、その場で警察に逮捕される動画が撮影できると考えて、「ユウ」という女性を装って覚醒剤を使用した性交をしたい旨のメッセージをB氏に送信し、覚醒剤の所持をそそのかしたと検察側は指摘する。