「送料無料」という言葉の罪を考えて…映画『ラストマイル』大ヒットの今「宅配ドライバー」がお客様に知ってほしいこと

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現在、通販と物流業界を舞台にしたサスペンス映画『ラストマイル』が封切られ、1日までの公開10日間で、観客動員152万人、興行収入21.5億円を突破したという。この大ヒットを受けてか、SNSでは「物流業界で働く人が少しでも楽になるために、お客はどうすべきか?」という問いかけが散見される。

元宅配ドライバーである筆者はこれを好機だととらえ、今回、『ラストマイル』の公開に便乗して、この際だから、宅配ドライバーがしてほしいこと・お願いしたいことをまとめてみた。なお、最初の3点については前編記事〈映画『ラストマイル』大ヒットの今こそ知ってほしい…過酷な「宅配ドライバー」がお客様に心から「お願いしたいこと」〉で紹介したので、あわせてご覧いただければ幸いである。

自分中心な考えは控えてほしい

「出掛けるから早めに荷物を持ってきてほしい」とか、「俺の午前中は10時まで」とか、自分の時間を押し付ける人がいるが、今、設定されている時間指定でさえいっぱいいっぱいなのだ。配達ルートの回り方はドライバーそれぞれであり、ある程度の時間を予測し配達するのだが、そのわがままに対応するとその後の配達計画は崩れていき、不在も労働時間、疲労も増していく。

以前、こんなことがあった。発送した荷物に危険物を入れてしまったから、今すぐに引き上げてほしいと依頼が入った。引き上げて貼り伝票の品名欄を見ると「衣類」と書いてある。ウソの品名告知をして出していたのだ。

出し人に引き上げた荷物を渡すとその場で荷物を開けた。

「これ入れるの忘れていた。これだけ発送したらまた運賃かかるからね」

新たに衣類をその箱に入れた。その荷物には危険物など入っていなかった。危険物と言えば引き上げてもらえると思い、言ったという。

ウソにウソを重ねた自分中心の考え方に呆れた。そのせいで他の関係のない荷物が遅れ、どれだけの人に迷惑がかかっているのか考えてほしい。このようにたった1人のわがままのたった1つの荷物が原因で、経済を止めてしまうだけではなく、命をも奪ってしまうことさえ起こり得るのだ。決して大袈裟なことではない。

「送料無料」という言葉をこの世から無くしてほしい

東京から北海道までみかん箱サイズ(120サイズ)の荷物を送ったら2370円(宅急便運賃)。仮にその荷物を飛行機で持って行ったら、3万7790円(JAL.ANA普通運賃)。時間も労力も使わずに10分の1の運賃で代わりに荷物を持って行ってもらえると思えば安いものであろう。しかし、そういうことに置き換えられない人にとっては、2370円が凄く高く感じる。

その心理につけ込んだのが通販会社。以前から是正を求めているのに、一向になくならない「送料無料」というフレーズ。「仕事の意義」をも奪いかねないこのフレーズに宅配業界のモチベーションはダダ下がりだ。テレビやラジオで流れるネット通販のコーナーでは、今尚、消費者の購買意欲を煽るように「送料無料」を使っている。

宅配便は商品の付加価値商品ではない。宅配便という独立した商品である。消費者は、無料イコール運賃を払わなくていいもの、宅配便は価値がないものと潜在的に摺り込まれていく。現に蔑む態度でドライバーと接する人もいるのだ。

商品が売れたから運ぶのではなく、運ぶ手段があるから商品を売ることができる。わかってはいると思うが送料は無料ではない。送料を消費者が負担しなくていいのであれば、無料ではなく「送料は当社負担」というフレーズを徹底してほしい。この「送料無理」は、運送行為を低くみる原因を招き、荷主による強引な運賃の値下げなどに繋がっていると言っても過言ではない。

台車禁止のマンションは台車を使えるようにしてほしい

飲料水のケースような重い荷物、複数の荷物を配達する場合は台車を必要とするが、必ずしも何処でも使えるとは限らない。特に集合住宅などのマンションは台車使用を禁止している所が多い。

そういった場合はその重い荷物を手で運び、複数ある荷物は何度も往復するしかない。他にもエレベーター禁止の所では階段しか使えず、オートロックの所では、防犯上の理由から1戸1戸エントランスのインターホンを押さなければならないなど、拷問のような配達をしている。配達に時間がかかってしまうだけではなく、体力の消耗も激しい。

過去に不届き者のドライバーがいたからこのように厳しくしていると思われるが、駐車違反の取締り件にしても、管理組合だけではなく国をあげて宅配ドライバーがやりやすい環境づくりをしてほしい。

今、当たり前に起こっているもの…それは奇跡以外のなにものでもない

筆者が現役宅配ドライバーの時、一人暮らしのお婆さんの家に東北地方行きの荷物の集荷に行った。お婆さんは気の毒そうに筆者の顔を見ていった。

「泊まりかね? 日帰りかね?」

何のことかと不思議そうな顔で老婆の顔を見た。

「あんたがその荷物を届けるんでしょ。新幹線で行きな」

お婆さんは筆者が直接そのまま東北へ届けると思っていたらしい。ウソのような本当の話だが、宅配便ができた当初は、驚かれ、感謝され、重宝されていた。それが当たり前となった今はそんな感情は起こらないであろう。

宅配便が生まれて48年。生まれた頃には宅配便があったという人には当たり前と思うものも仕方がない。ただ、もう一度、東日本大震災時を思い出してほしい。物流の大切さを。緻密な配達網により、翌日配達、時間指定、再配達が、当たり前のように感じていることが、本当は奇跡の連続なんだということを。

これはインフラと呼ばれる電気、水道、ガスも同じことがいえる。そう、何でもない日常が脅かされた時に初めて気づく。当たり前なものなど、この世に一つもない。物流危機を迎えて、今一番必要なのは消費者の物流に対する意識改革かもしれない。

消費者だけではない。荷主に対してもいえることだ。宅配便、強いては物流に歩み寄る姿勢が物流危機を乗り越える。もし、あなたが宅配ドライバーだったらしてもらいたいことをしてあげれば、ほとんどのことは解決するはずだろう。

最後に、ラストワンマイルの配達員にスポットが当たりがちだが、その裏で支えている仕分け、オペレーター、そして現場を指揮するマネージャー(営業所長)たち中間管理職たち。現場の知らない上層部や荷主、消費者たちの皺寄せをこの人たちも受けていることを忘れないでほしい。

映画『ラストマイル』でも、物流に関わる多くの人が、それぞれの持ち場で苦悩、格闘していたようにーー。

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