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 かの国による日本への挑発は止まらず、ついには中国軍機が領空侵犯に及んだ。しかもそのわずか1週間前には、わが国の公共放送であるNHKで、中国政府の主張をなぞるがごとき“反日発言”が放送されたのだ。言論テロともいうべき暴挙に出た中国人の正体とは。

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【写真を見る】中国語で衝撃の放送が… NHKは直後に謝罪

「釣魚島と付属の島は古来から中国領土です」

「南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな。彼女らは戦時の性奴隷だった。731部隊を忘れるな」

 突然、中国政府のプロパガンダのようなフレーズがNHKのラジオから流れたのは、8月19日のこと。前者は中国語、後者は英語で叫ばれた前代未聞の“電波ジャック”は、約20秒間にわたって行われた。

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 問題の番組は、同日午後1時1分から15分まで、NHKの短波ラジオと衛星ラジオの国際放送、そしてラジオ第2放送で生放送された中国語ニュースだった。

“彼こそが本物の中国人”

 NHKの発表文によれば、発言主は2002年からNHKの業務を行っていた〈中国籍の外部スタッフ〉で、「靖国神社で落書きが見つかり、警視庁が器物損壊事件として捜査している」とのニュースを伝える際、この男性は冒頭の発言以外にも、本来の原稿にはない〈「『軍国主義』『死ね』などの抗議の言葉が書かれていた」という文言を一方的に加えて放送していました〉という。政治的確信犯であるに違いない。

 NHKは放送当日と翌20日にラジオの中国語ニュースや総合テレビ「ニュースウオッチ9」でおわびを行い、26日には総合テレビで謝罪番組まで流したが、騒動は収まる気配がない。

 中国国内のSNSは、件の問題発言を行った同胞に対して “彼こそが本物の中国人”“中国の国営放送には彼にポストを与えてほしい”など、英雄視するコメントで溢れているのだ。

国際放送には36億円の国家予算が

 一方で日本政府は、林芳正官房長官が26日の定例会見で遺憾の意を表明し、

「尖閣諸島がわが国固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らか。その他の内容を含め、発言はわが国の立場と全く相容れない」

 と強調したが、政府がここまで語気を強めるのには理由がある。

 NHKのラジオ国際放送は、在留外国人を含めた外国人向けに17カ国の言語で放送されている。「わが国に対する正しい認識」を伝えるものと放送法で定められるこの国際放送には、ラ・テ合わせて約36億円もの国家予算も計上されているのだ。

 にもかかわらず今回、日本国の見解に反する主張が流れてしまったことは、単なるトラブルでは済まされない。

「官公庁のPR動画にも携わっていた

 NHKは問題発言を行った中国人男性との契約を解除。損害賠償を請求し刑事告訴を検討すると表明しているが、いったいどこの何者なのか、詳細については明らかにしていない。

「テレビとかラジオ向きのしっかりとした良い声で話す男でしたよ」

 と明かすのは、件の中国人を知る放送関係者だ。

NHKの関連団体『NHKグローバルメディアサービス』と業務委託契約を結ぶ49歳の中国人で、NHKのニュース原稿を中国語に翻訳し、ラジオで読み上げる業務を担当。正規のNHK職員ではないため、翻訳やナレーションの仕事を斡旋(あっせん)する会社にも登録していました」

 ここでは仮にK氏とするが、仕事では本名とは異なる活動名を名乗ることが多かったという彼は、1975年に中国・山西省で生まれ、東京大学大学院総合文化研究科修士課程を修了したと吹聴していたそうだ。

「K氏は東大の院に通っていた頃から、ナレーションの仕事をやっていました。当時は日本企業がどんどん中国に進出していた時期で、中国向けの企業紹介とか商品のPR動画を制作する際、彼はナレーターとして重宝されていた。本人いわく、トヨタやソニー、パナソニック、資生堂、ユニクロをはじめとする大手企業のほか、内閣府や経産省、警察庁など官公庁のPR動画にも携わっていたとか」(同)

「中国政府に拍手喝采」

 実際にK氏と仕事をしたことがあるという業界関係者は、こう振り返る。

「仕事ぶりは真面目でもめたこともありません。温厚な人柄で感情的になることはなく、話しぶりから頭が良いことが伝わるタイプでしたから、今回の一件を聞いて驚いています。メディア関係の勉強をしていたと話していましたから、報道への興味関心も強かった」

 今年1月、羽田空港で海保機とJAL機が衝突した事故の際も、現場からリポートする姿を目にしたとして、先の放送関係者が話を継ぐ。

「肩書はNHKスタッフではなく、香港が拠点の衛星放送局フェニックステレビの特派記者となっていました。同局は実質的に中国政府が出資する国営メディアみたいなものですから、NHKの国際放送と兼業するのは避けるべきでしょう」

 今回、K氏はNHKラジオで問題となった「尖閣発言」の後に続ける形で、

NHK歴史修正主義宣伝とプロフェッショナルではない業務に抗議します」

 と中国語でまくし立ててもいる。晴れて母国のメディアで記者となり、“安住の地”を得たことから本性をあらわにしたのだろうか。

「K氏は反日教育を受けた世代で、政治的な話になると熱くなる面がありました。日本滞在歴が長い中国人だと、尖閣問題など日中がもめるニュースも冷静に見られるものですが、彼は中国政府に拍手喝采を送るタイプでしたよ」(先の放送関係者)

なぜ止められなかった?

 かような人物の狼藉を、NHKはなぜ止めることができなかったのだろうか。

 今後、中国語に限らず外国語ニュースは事前収録し、AI音声の導入も検討するというが、さるNHK局員が明かすには、

「通常、外国語による放送では外部スタッフが原稿以外のことを言わないよう局の職員が立ち会い、不規則発言があれば放送中に音を消す装置を作動させる。今回はそうした非常手段さえ活用できていなかった」

 改めて事実関係をNHKに問い質すと、

「個人を特定するご質問には、お答えしていません。元外部スタッフの当日の行動や、経緯などの詳細については、現在調査中です」

 この4年間で受信契約が100万件減少、受信料不払いが倍増していることが懸案となっていたNHK。この体たらくでは、支払い拒否の流れは止まりそうにない。

週刊新潮」2024年9月5日号 掲載