働きすぎて体調を悪化させ、職場を離れることになるケースはどの業界で働いていてもあります。人気声優宮村優子さんは病気の影響で声が出なくなり、引退を覚悟したことがあるそうです。(全4回中の2回)

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「疲れかな…」体重もどんどん減ってバセドウ病を発症

宮村優子さん

── 宮村さんは2006年ころ、甲状腺にかかわるバセドウ病にかかった経験があるそうですね。

宮村さん: 2004年に32歳で第1子を出産後、育児も仕事もすごく忙しかったんです。体調不良が続いたものの、疲れのせいだと思っていました。どれだけ食べても体重がどんどん減り、それも授乳で体力を使っているからだと思っていて…。バセドウ病の症状のひとつとして目が飛び出る「眼球突出」というのがあります。私もその症状が出ていたのですが、「やせたから目が大きく見えているのかな?」くらいにしか考えていなくて。まさか自分が病気だとは夢にも思っていませんでした。

── 病気だとは思っていなかったとのことですが、病院に行ったのはどんなきっかけがあったのでしょう?

宮村さん:友人に「忙しくても健康診断はちゃんと行ったほうがいいよ」と言われたんです。それまでほとんど行っていなかったのですが、「たしかに子どもを授かったし、健康は大事だな」と、病院に足を運びました。すると、気になることがあると言われ、甲状腺ホルモンの病院の受診を勧められたんです。改めて検査をしたところ、バセドウ病と診断されました。そのときは投薬治療を行い、3年くらいで症状が落ちつきました。

「ろれつが回ってないよ」と指摘されて判明した橋本病

── 2011年、第2子を出産後、今度は橋本病にかかったとのこと。どんな経緯があったのでしょうか?

宮村さん:体調がよくなってきたので、2009年に家族でオーストラリアに移住しました。2011年に第2子を出産したのですが、次第に体調が悪くなって…。全身の筋肉が衰え、まったく動けなくなってしまったんです。ずっと寝こんでいて、子どもの世話をするときだけなんとか起き上がるという状態でした。飲みこむ力も弱り、何度か窒息しそうになったことがあります。ずっと調子が悪いな、何か変だな、と思っていたのですが、当時の夫からは「運動不足なんじゃない?」と軽く言われていました。

オーストラリア・メルボルンに移住した経験がある宮村さん

ところが、仕事で日本に帰国した際に久しぶりに会ったマネージャーと話していたら、「ろれつが回っていないよ。すぐに病院に行ったほうがいい」と言われたんです。病院で検査をしたら、橋本病と診断されました。夫が気づかなかったのは、いつも一緒にいたから、私の異変を見逃していたのかもしれません。

バセドウ病も橋本病も甲状腺の病気ですが、バセドウ病は血中の甲状腺ホルモンが多くなり、橋本病は甲状腺ホルモンが減少します。どちらの病気も、発症原因ははっきりわからないのだそうです。ホルモンバランスが崩れやすい産後の女性がかかることが多く、併発する場合も少なくないようで。私はオーストラリアに移住後、一家の大黒柱として家計を支えていて、そのストレスが大きかったのかもしれません。

「声が出ない」声優引退を覚悟した日

── 日本とオーストラリアを行き来しながら仕事と育児と両立するなかで、病気にかかってしまうという状況は、本当に大変だったと思います。

宮村さん:橋本病にかかり、一番困ったのは飲みこむ力が弱くなったことです。ろれつが回らなくなり、ちゃんと声が出なくなってしまいました。声優としては致命的です。投薬治療を行えば、いずれ改善するだろうとは言われていたものの、いつよくなるかわかりません。声優の仕事は大好きだったし、担当していたキャラクターはどの子たちも愛着がありました。ずっと続けたい仕事でしたが、一時期は「こんなに声が出ないならもうムリだ、引退しよう」と思いつめていたんです。当時、定期的に取り組んでいたのが、15年近く担当していた『名探偵コナン』の遠山和葉役。プロデューサーに「病気で声が出なくなってしまいました。和葉役を降板させてください」とお願いしました。

ところが、プロデューサーは「治るまで待っています」と言ってくれたんです。その言葉が本当にうれしくて、「早く現場に戻れるように頑張ろう」と前向きに治療に取り組めるようになりました。治療を続けて1~2年くらいで体調がようやく戻り、復帰することができました。

── 2017年に公開された映画『名探偵コナン から紅の恋歌』で、和葉はメインキャラクターとして活躍しています。

宮村さん:無事に映画が公開されたあとの打ち上げで、スタッフさんやキャストさんの前で「治療中、待っていてくださってありがとうございました。おかげで体調もよくなりました。『から紅の恋歌』では、和葉を精一杯演じたことが私の恩返しです」とあいさつをさせてもらいました。待っていてくれる人がいるのは、ものすごく励みになりました。コナンの現場は本当に温かくてアットホームな雰囲気なんです。その場所に戻れたのは、本当に幸せなことだと思います。私を待ち続け、受け入れてくれた人たちの思いに応えるためにも、どの仕事も全力で取り組んでいこうと改めて決意しました。

── 現在はもう病気の症状は出ていないのでしょうか?

宮村さん:ふだんは大丈夫ですが、多忙でストレスを抱えていたり、睡眠不足だったりすると「ちょっと危ないな」という感覚はあります。人にもよると思いますが、私の場合、バセドウ病と橋本病は、それぞれ異なる前駆症状があらわれます。バセドウ病寄りになっているときは、ものすごく元気になるんです。気持ちもハイになって、ガンガン動き回って仕事をこなしてしまいます。そういうときは「これは大丈夫かな?」と、いったん立ち止まるようにしています。

橋本病の症状が出始めているときは、舌の奥が重くなる感覚があります。どちらも自覚症状があるから、体調には気を配り、バランスをとるようにしています。ふだんは元気なのは当たり前だと思いがちですが、健康って本当に大事だし、ありがたいものだと痛感します。

PROFILE 宮村優子さん

みやむら・ゆうこ。声優。兵庫県神戸市出身。1994年、『勇者警察ジェイデッカー』のレジーナ・アルジーン役で声優デビューを果たし、1995年に放送が始まった『新世紀エヴァンゲリオン』の惣流・アスカ・ラングレー役で大ブレイクする。『名探偵コナン』の遠山和葉役も担当。2009年からオーストラリアに移住。2016年に帰国後、声優として第一線で活躍しながら、講師として後進の育成にも務める。2児の母。

取材・文/齋田多恵 写真提供/宮村優子