多くの人々は太っているよりも痩せている体形の方が魅力的だと感じており、「太りすぎ」になるくらいなら「痩せすぎ」の方がまだ健康的だと考えている人もいるかもしれません。ところが、日本人のボディマス指数(BMI)と死亡リスクの関連性を調べた国立がん研究センターの研究では、BMIでは太りすぎな人よりも痩せすぎな人の方が全死因の死亡リスクが高いことがわかっています。

Body mass index and mortality from all causes and major causes in Japanese: results of a pooled analysis of 7 large-scale cohort studies - PubMed

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21908941/

肥満指数(BMI)と死亡リスク | 現在までの成果 | 科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究 | 国立がん研究センター がん対策研究所

https://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/2830.html

2024年8月下旬、X上で「ストレスで過度に痩せてしまった時、医者から『太ることで病気に耐えられるようになるのである程度は太った方がいい』とアドバイスされた」という内容の投稿が話題となりました。これに対するリプライで、「BMIが太りすぎの人よりも痩せすぎの人の方が全死因の死亡リスクが高い」という内容が投稿されました。



リプライの投稿者が引用したのは、国立がん研究センターが公開している「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」というページでした。このページは、国立がん研究センターのチームが2011年に学術誌のJournal of Epidemiologyに発表した、「Body mass index and mortality from all causes and major causes in Japanese: results of a pooled analysis of 7 large-scale cohort studies(日本人におけるボディマス指数と全死因および主要な死因による死亡率:7件の大規模コホート研究のプール解析結果)」という論文の内容をまとめたものです。

BMIは身長と体重から算出される肥満度を示す指数であり、体重(kg)を身長(m)の2乗で割って算出されます。BMIの値ごとに「低体重(18.5未満)」「健康(18.5以上〜25未満)」「太り気味(25以上〜30未満)」「肥満(30以上〜35未満)」「極度の肥満(35以上)」と分類され、肥満度の水準によって健康リスクや死亡率との関連が推定できるとされています。

しかし、世界保健機関(WHO)が定めた基準ではBMI25以上が過体重となりますが、アジア人ではBMI25以下でも2型糖尿病や循環器疾患のリスクが高いそうで、同じ基準を日本人にもそのまま適用できるとは限りません。そこで研究チームは、7件のコホート研究で収集された合計35万人以上のデータを定量評価し、BMIの水準が日本人の死亡リスクに与える影響を推定しました。

BMI「23〜24.9」を基準として、相対的な全死因の死亡リスクを示したグラフが以下。左が男性(サンプル数は約16万人)で右が女性(サンプル数は約19万人)となっており、黒色が全死亡を総合したグラフ、青色が追跡から5年以内の早期死亡を除外したグラフ、緑色(男性のみ)が非喫煙者に限定したグラフです。また、死亡率に影響を与えうる年齢・地域・喫煙・飲酒・高血圧の診断歴・糖尿病の診断歴・余暇のスポーツや運動が結果に偏りを与えないよう、グラフには統計的な補正がかけられているとのこと。



全死因死亡リスクのグラフは男女いずれも「逆J型」を描いており、BMI「14〜18.9」の痩せすぎな人が最も死亡リスクが高く、BMI「30〜39.9」の太りすぎな人の方がまだリスクが低いことがわかります。最も死亡リスクが低いグループは、男性ではBMI「25〜26.9」、女性ではBMI「23〜24.9」のグループであり、必ずしも痩せている方が健康的というわけではないようです。

また、がんによる死亡リスク(赤色)、心血管疾患による死亡リスク(青色)、脳血管疾患による死亡リスク(緑色)、その他の死亡リスク(灰色)を示したグラフが以下。全体的に逆J型を描いていますが、男性の心血管疾患や脳血管疾患の死亡リスクは、BMI「30〜39.9」の太りすぎな人の方がBMI「14〜18.9」の痩せすぎな人よりも高い点や、女性のがんの死亡リスクはほとんどBMIによって変わらない点など、いくつかの違いがあることがわかります。



国立がん研究センターは、「今回の研究の結果、中高年の日本人にとって死亡リスクが最も低くなるBMIは、『21〜27』の範囲であることが示されました」と述べています。

なお、国立がん研究センターが認めている通り、BMIには腹囲やウエスト・ヒップ比といった腹部肥満を評価するためのデータがないという問題があります。そのため一部の研究者は、BMIに代わる「エドモントン肥満病期分類システム(EOSS)」などの新たなシステムの導入を推奨しています。

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