女性は同じ痛みを訴えた男性より鎮痛薬をもらえる割合が低いという研究結果
誰にとっても「痛み」は苦しいものですが、これまでの研究では「貧しい人々の痛みは過小評価されやすい」「差別経験の有無が痛みの感じ方に差をもたらす」といったことが報告されています。合計2万人以上の治療データを分析した新たな研究では、「同じ痛みを訴えていても、男性患者より女性患者の方が鎮痛薬を処方されにくい」という結果が明らかになりました。
Sex bias in pain management decisions | PNAS
Women Really Are Less Likely to Be Treated For Their Pain Than Men : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/women-really-are-less-likely-to-be-treated-for-their-pain-than-men
近年の研究により、多くの人が「女性は痛みを誇張する一方、男性は痛みを軽視する」という偏見を持っていることが明らかとなっており、痛みに対して同じように顔をしかめていても、女性の方が痛みが少ないと感じる傾向があることが報告されています。
また、痛みの治療に関するジェンダーバイアスを調査した複数の研究をレビューした論文では、痛みを報告する女性は「ヒステリック」「感情的」「空想的」「ウソをついている」と認識される傾向があることもわかりました。さらに、慢性的な痛みを感じると報告している女性は、メンタルヘルスの問題であると誤診されやすいという研究結果もあります。
イスラエルのヘブライ大学で心理学を研究しているミカ・グジケビッツ氏らの研究チームは、実際の臨床現場で女性の痛みがどのように評価されているのかを調べるため、アメリカとイスラエルの病院で収集された患者データを用いた研究を行いました。
データには痛みを訴えて受診した合計2万1851人の患者が含まれており、研究チームは患者の年齢や性別、報告された痛みのレベルと診断された病気、救急外来を訪れる頻度、処方された薬の内訳といった項目について分析しました。
分析の結果、データセット全体で一貫して、女性患者の方が男性患者よりも鎮痛薬を処方される可能性が低いという傾向がみられました。この傾向は患者が報告した痛みのスコアや医師などの変数を調整した後でも確認されたほか、男性医師だけでなく女性医師も女性に対する鎮痛薬の処方量が少なかったとのことです。
これらの痛みの治療における格差は、「患者の性別」以外の変数との関連がみられませんでした。すでに数多くの研究で、女性と男性が訴える痛みの認識に大きな格差があることが示されているため、治療の格差が生じた理由は医療従事者の偏見にあると研究チームは結論付けました。
さらに、研究チームは109人の医療従事者に「重度の腰痛を持つ患者」のシナリオを提示して、患者の痛みがどの程度であるか評価してもらう実験も行いました。その結果、患者が女性である場合、男性よりも痛みが低く評価される傾向がみられたと報告されています。
研究チームは、「この研究は疼痛(とうつう)管理において医療従事者が持っている、女性患者に対する性的偏見の確たる証拠を提示します。私たちはこのバイアスの根底にある潜在的なメカニズムのひとつに、女性の痛みに対するステレオタイプ的な認識を挙げています」とコメント。すべての人に公正で効果的な治療を提供するため、医療現場における心理的バイアスに対処する必要があると主張しました。