山田尚子監督の長編アニメーション映画『きみの色』が8月30日に公開されます。本作は思春期の青春をテーマに、人が「色」で見える高校生のトツ子が、同じ学校に通っていた美しい色を放つ少女・きみと、音楽好きの少年・ルイと古書店で出会い、バンドを通して心を通わせていく物語。

今回girlswalkerではルイ役の木戸大聖さんにインタビューを実施。映画の見どころや初挑戦となる声優業について語っていただきました。

SPECIAL INTERVIEW

優しい大型犬のイメージでオーディションに挑戦

──今回が声優初挑戦ということですが、映画の出演が決まった時はどのような心境でしたか?

木戸大聖(以下、木戸)「すごく嬉しかったです。山田監督の作品は以前からよく観ていたので、僕にオーディションを受ける権利があるんだと、ワクワクしました。もちろん、声優に初挑戦ということで緊張や不安もありましたが、前向きに挑戦させていただきました」

──俳優とは異なるオーディションだったと思うのですが、今回はどんな内容だったのでしょうか?

木戸「指定された課題台本を読み、録音したものをスタッフさんに送ったのが最初のオーディションでした。その次は実際に録音ブースに行き、2人1組でペアを変えつつ、実際に山田監督の絵を見ながら声を当てていくオーディションをしました」

──ルイの声を当てるにあたって、監督からは何かオーダーはありましたか?

木戸「はい。もともとオーディションの段階で、監督からはゴールデン・レトリーバーのような、ちょっと優しい大型犬でお願いしますというリクエストがあって。オーディションを経て、監督のその言葉が腑に落ちたというか、とても分かりやすかったので、自分の中にある大型犬のイメージで挑戦しました」

──収録はスムーズにいきましたか?

木戸「それがもう、すごくスムーズだったんですよ。こんな日数で撮り切っちゃうんだっていうぐらい。次々監督がOKを出してくださって、あっという間の収録でした」

──優秀だったんですね。

木戸「そういうわけじゃないと思います(笑)でも現場に入る前、お世話になっている先輩で声優業もやられている方から、『監督がOKを出した後、自分の中でもっとこういう風にできたかなって思うかもしれないけど、いざもう1回やってもそんなに変化はないよ』とアドバイスをいただいたんです。だから、監督の言葉を信じてアフレコに臨みました」

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完成した作品を観ながら「ずっと汗をかいてました(笑)」

──本作はとても色鮮やかに青春が切り取られていますが、改めて作品のどんなところに魅力を感じていますか?

木戸「3人が抱えている悩みもそうですし、それぞれが持っている好きなことをやりたい気持ちと、でもそこにある現実に葛藤する部分はとても面白いなと感じました。台本を読んだ時には想像もつかなかった山田監督ならではの豊かな色彩や、音楽監督の牛尾(憲輔)さんが作った音楽のテンポというのは、この映画のとても大きな魅力で見どころだと思います」

──ストーリーもそうですが、色と音楽が素敵な作品ですよね。

木戸「そうですね。台本にはトツ子の言葉しか書かれていなかったのですが、トツ子から見えたきみちゃんの色やルイくんの色って、青や緑っていう漠然なものではあったかもしれないけど、一単語で表現するにはもったいないぐらい綺麗な色で。最後のライブのシーンも、本当にキャッチーでテンポがよく、思わず口ずさんじゃうような素敵な音楽なんですよね。それも山田監督のこだわりで、すごくかっこいい音楽ということではなく、あくまでこの3人がバンドとして作った楽曲なんですよ。でもそれがすごく可愛くて、かっこいい。そこはぜひ劇場の大きなスクリーンで観ていただきたいです」

──ちなみにどの曲がお気に入りですか?

木戸「僕は『水金地火木土天アーメン』ですね。最初に台本で読んだ時は歌詞が印象的で、実際に聴いたらこんなにキャッチーなんだって、びっくりしました」

──山田監督の作品は大人が観てもハッとさせられるストーリーが多いと感じているのですが、木戸さんが本作を通して教えられたことはありますか?

木戸「自分の好きなお仕事をやらせていただいている中でも、やっぱり悩みはつきものなんですよね。悩みを打ち明けることって、年齢を重ねるごとにできなくなっていくんですけど、高校生の頃はもっと素直に感情を出していたなって。正直になるところは正直になった方がいい、ということを改めて教えてもらいました」

──木戸さんが演じられたルイはどんな印象ですか?

木戸「音楽が大好きで、好きなことにはどんどんハマっていって、テンションも上がってしまう子です。でも普段は非常に優しくて静かで。そのふんわりした感じがトツ子やきみちゃんには居心地がいいんだろうなと思うので、丁寧に優しく演じました」

──普段はフラットな印象ですけど、好きなものを語るときの熱量がものすごいですよね。その辺りの変化は意識されましたか?

木戸「そうですね。普段はお兄ちゃんっぽい感じもありますが、好きなことを熱弁している時の、急に少年に戻るような瞬間がすごく印象的でした。なので、そこのテンションが上がる感じは出すように意識しました」

──印象に残っている監督からの言葉はありますか?

木戸「『実写化したかのよう』と言ってくださって、まさか監督からそんな言葉をいただけるとは思っていなかったので、すごく嬉しかったです。みんなその言葉のおかげで自信を持てたんじゃないかなと思います」

──実際に完成したものをご覧になって、自分の声がルイとしてスクリーンから出てくるのはどんな感覚でしたか?

木戸「いや、もうずっと汗をかいてました(笑)なんだか緊張してしまって。ドラマや実写映画の初号はこれまでも観てきたので慣れてきたと思っていたんですが、やっぱり今回は全然違いました。劇場に自分の声が響き渡っているのを聞くと、体温がどんどん上がっていく感覚がありました」

「体や五感を使って…」収録中、工夫したこととは?

──アフレコの現場はいかがでしたか?

木戸「基本的には、トツ子役の鈴川紗由さんときみ役の郄石あかりさんと3人一緒で、隣にいてくれる状態での収録が多かったです。みんな初めての声の仕事だったので、『頑張っていこう!』とお互いを高め合うような感じでした。それがキャラクターとすごくマッチしていたのかなって。すごくお二人に助けられました」

──鈴川紗由さんや郄石あかりさんとは、どのような掛け合いがありましたか?

木戸「掛け合いとは少し違うんですが、3人が帰れなくなって一晩一緒に過ごしている時に、お互い悩んでいることを打ち明けるシーンがあるんですね。そのしっとりした感じを出すために、あえて座りながらだったり、部屋の電気をちょっと暗くしたり、なるべく近い雰囲気で収録するという試みをしました」

──実際の映像と同じ状況に身を置いたほうがやりやすかった?

木戸「そうですね。みんなそれぞれ役者をやってきているので、体でそういう状態を作ったり、五感で感じられたりする方が、演じやすい部分はあったと思います」

──役への向き合い方に関して、今回はアニメならではの難しさは感じましたか?

木戸「感じましたね。ルイくんのテンションが急に上がったり、2人に久しぶりに会えて飛び跳ねて喜んだりするシーンがあった時に、自分が当初このぐらいかなと思って声を当てても、ルイくんのテンションに追いつけていないことがあって。そういうところは普段よりも大きな表現をしなければいけないので、普段とは違ったアプローチでお芝居をしました」

──本作は木戸さんにとってどのような作品になりましたか?

木戸「僕はどの仕事であっても全てが繋がっていて、糧になると考えているので、今回の声優業というのは、これからドラマや映画、舞台をやっていく上で活きていくと思います。アフレコを通して、自分ってこういう声の表情が出るんだという気づきもあり、役者としてまた一歩成長させていただける作品になりました」

INFORMATION

映画『きみの色』
2024年8月30日(金)公開

《監督》山田尚子
《脚本》吉田玲子
《音楽・音楽監督》牛尾憲輔
《キャラクターデザイン・作画監督》小島崇史
《キャラクターデザイン原案》ダイスケリチャード
《出演》鈴川紗由、郄石あかり、木戸大聖/やす子、悠木碧、寿美菜子/戸田恵子/新垣結衣
《主題歌》Mr.Children「in the pocket」(TOY’S FACTORY)
《制作・プロデュース》サイエンスSARU
《配給》東宝
《公式サイト》https://kiminoiro.jp/
©2024「きみの色」製作委員会

《ヘアメイク》速水昭仁
《スタイリスト》田中トモコ

文:川崎龍也
写真:三川キミ