今作はハヌマーンがモチーフとされているし、実際に意識したエピソードも含まれているのだが、今作を観て感じたのは、2001年にインドを震撼させた都市伝説”モンキーマン騒動”が下敷きになっているのではないかということだ。

モンキーマン騒動というのは、2001年にニューデリーで目撃されたとされるUMAである。映画のPRや急成長した猿などといった噂もあったが、結局のところは、劇的に変化するインド社会へのストレスや怒りが集団妄想として生み出されたといわれている。

今作のモンキーマンは妄想や幻覚ではないが、生み出された過程が、正に”それ”。偶然にしては出来過ぎている。ハヌマーンという存在に意識が集中しすぎていて、モンキーマン騒動がスルーされている気がしてならないが、いつかパテルにインタビューすることがあれば聞いてみたいと思う。

また制作背景としても注目すべき点の多い作品である。今作は4か国合作とはいっても、アメリカ映画としての割合が強いのだが、俳優だけ観ると、ほぼインド映画だ。 

例えばNetflixドラマ「トゥース・フェアリー 〜恋のヒト噛み〜」の記憶も新しいシカンダル・ケールは、胡散臭い警官役が良く似合うし、『PS1 黄金の河』(2022)にも出演していたタミル語映画のスター女優ソビタ・ドゥリパラ、ほかにもインディーズ系映画やドラマの端役として出演する個性派俳優ピトバッシュ、『サーカス』(2022)のアシュウィニ・カルセカル、シンガー兼俳優のアディティ・カルクンテ、ほかにもマカランド・デシュパンデ、ヴィピン・シャルマなど、海外で活躍しているインド系俳優ではなく、インドで活躍する本場の俳優が起用されているのは素晴らしいキャスティングだ。

音楽は、スコアとしては『エイリアン:コヴェナント』(2017)や『ヴァチカンのエクソシスト』(2023)などのジェド・カーゼルが担当しているが、ところどころにインドのメタルバンド、ブラッドウッドの「Dana-Dan」やパンジャブMCの「Mundia To Bach Ke」などのインド音楽もしっかり使用されている。『ダーティ・ピクチャー』(2011)の作中曲でシュレヤ・ゴシャルの歌う「Ooh La La」が、意外すぎるシーンで使用されていることには驚かされた。

俳優として成功しただけではなく、監督としてロケットスタートを切ったデヴ・パテルの今後に大注目だ!!

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〇作品情報
監督・脚本・主演:デヴ・パテル出演: シャールト・コプリー、ピトバッシュ、ヴィピン・シャルマ、シカンダル・ケール、アディティ・カルクンテ、ソビタ・ドゥリパラ、アシュウィニー・カルセカル、マカランド・デシュパンデ、ジャティン・マリク、ザキール・フセインほか

原題:MONKEY MAN/2024年/121分/英語/カラー/アメリカ・カナダ・シンガポール・インド
Dolby Atmos、5.1ch サラウンド/シネスコ/R15+/字幕翻訳:風間 綾平
配給:パルコ、ユニバーサル映画
公式サイト:https://monkeyman.jp/
8月23日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか、全国公開

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