【真壁 昭夫】中国企業がついに「星野リゾートトマム」を売り払うハメに…中国全土がいまだ苦しみ続ける不動産バブル崩壊の「ヤバい後遺症」

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中国バブル崩壊で負った“深い傷”

2020年8月に導入された不動産融資規制強化策「3つのレッドライン」が引き金となり、あえなく中国の不動産バブルは弾けた。それから4年が経った現在、中国政府はいまだに効果的な政策を打ち出せていない。同国の新築住宅価格は下落傾向を辿り、不動産市況は低調なままだ。

そこで中国政府は今年5月、そうした市況の下支えするため住宅在庫の買い取り策を発表した。地方政府が優良と判断する物件を選定し“ホワイトリスト”を作成。市中の商業銀行から融資を受けて対象物件を改装し、主に低所得層向けの住宅(価格帯が低い保障性住宅と呼ぶ)として販売する。しかし、こちらも今のところ目立った効果は出ていない。

7月の「三中全会(中長期の経済政策方針などを決める中国共産党の重要会議)」で、中国政府はこれまでの政策を維持する方針を明確にした。国有企業の業務拡大を促進し、世界シェアを高めて価格競争力を引きあげ輸出を増やす。この方針に大きな変化はないようだ。

不動産関連の不良債権処理を進め、需要を喚起する政策を導入しようという姿勢はみられない。当面、不動産市場を巡る環境は厳しく、中国経済の成長率も下落傾向をたどる可能性が高いだろう。

住宅買い取りが進まないワケ

今年5月、中国人民銀行(中央銀行)は住宅買い取りを支援するために3,000億元(1元=20円で6兆円)の再融資制度を立ち上げた。商業銀行はこの資金を地方政府に貸し付け、同政府は資金を用いて不動産デベロッパーから住宅在庫を買い取る。

対象物件は地方政府が作成したホワイトリスト(優良な住宅在庫一覧)から選ぶ仕組みだ。リノベーションを行い、低所得者向けの住宅として販売することで収益を得る。

報道によると、中央銀行が設定した資金枠のうち6月末までに利用されたのは121億元で、約4%に過ぎない。

問題の一つは、不動産業者の値引き負担だろう。デベロッパーは地方政府に在庫を売却する際、相応のディスカウントを行う。市況が悪化する中での割引は不動産業者の体力を削ぐ。業界にとって政策の負担は相応に大きいとの見方もある。

商業銀行のリスクも高い。経済成長率の低下により、中国工商銀行など国有5大銀行でさえ利ザヤは縮小した。大手行の最終損益が赤字に陥るとの観測もある。銀行にとって、財政状況の芳しくない地方政府に資金を融通するリスクは高い。地方政府関連プロジェクトの資金調達を行う地方融資平台(LGFV)の不良債権は増加傾向にある。

国営企業ばかり優先する中国政府

住宅在庫の買い取りが進んだとしても、債務者の名義がデベロッパーから地方政府に変わるだけで、不良債権そのものがなくなるわけではない。そうした懸念から、「住宅在庫買い取り政策の効果は期待できない」とみる中国経済の専門家は多かった。不良債権処理の遅れなど、中国政府の対応の遅さ、不十分さは改めて確認できたといえる。

このところ、中国政府は“国進民退”を重視しているようだ。国営・国有企業の成長が最優先で、民間企業の競争力の退潮はやむなしということなのだろう。

実際、補助金や土地の供与などによって、政府系企業の生産能力拡大を支援している。鉄鋼、半導体製造装置、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)等の自動車、車載用バッテリー、太陽光パネルなど対象分野は幅広い。

一方、アリババやテンセントなどにはそうした手厚い支援を実施していない。世界的に高成長を遂げた民間企業の活力は軽視しているのだろう。

現在、中国は世界中のコンテナ船を集め、EVやバッテリーなどの輸出攻勢を仕掛けようとしているという。対中通商摩擦の高まる米欧などではなく、アジア、アフリカ、南米など新興国向けの輸出を伸ばそうとしている。

不動産市況はさらに悪化する恐れも

中国政府は、政府主導で輸出競争力を高めることで不動産バブル崩壊の後遺症を克服できるとみているのかもしれない。確かに、政府が国有・国営企業の生産拡大政策を進めれば同企業の生産は増加し、数字面では上振れる。

しかし、それは国内需要の創出ではない。現在の政策だけでバブル崩壊の後始末を進めることは困難であり、財政出動による需要喚起が遅れれば、不動産市況の悪化を懸念する声はさらに高まるだろう。

今年7月、中国投資会社である復星国際が「星野リゾートトマム」(北海道占冠村)の売却を発表したように、海外資産を売却して資金繰りを支えようとする企業も出てきている。国内の家計も、経済の厳しさが増すことに警戒を強めている。同月、中国の新車販売(輸出含む)は前年同月比5.2%減の226万2,000台だった。

中国経済が本格的な持ち直しに向かうのは、まだ先になりそうだ。

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筆者連載『株価調整中のエヌビディア、これから絶好の「買い場」到来…?この局面で「損する投資家」』が盲信しがちな「ある数字」』もあわせてお読みください。

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