パリ2024オリンピック(パリ五輪)のボクシング女子のウェルター級で金メダルを獲得したイマネ・ケリフ選手が、インターネット上で自身を誹謗中傷したとして、X(旧Twitter)を刑事告訴しました。告訴した相手として、「ハリー・ポッター」シリーズの原作者であるJ・K・ローリング氏と実業家のイーロン・マスク氏の名前も挙げられています。

J.K. Rowling, Elon Musk Named in Imane Khelif's Cyberbullying Lawsuit

https://variety.com/2024/tv/news/jk-rowling-elon-musk-imane-khelif-lawsuit-1236105185/

JK Rowling and Elon Musk named in Imane Khelif cyberbullying lawsuit | France | The Guardian

https://www.theguardian.com/technology/article/2024/aug/14/jk-rowling-and-elon-musk-named-in-imane-khelif-cyberbullying-lawsuit



パリ五輪では、インターネット上での誹謗中傷が大きな話題となっており、日本でも柔道女子52kg級の代表選手である阿部詩選手がSNS上で誹謗中傷を受け、日本オリンピック委員会が「侮辱や脅迫などの行き過ぎた内容に対しては、警察への通報や法的措置も検討する」という声明を出さざるを得ない事態にまで発展しました。

アルジェリアのボクシング女子66kg級(ウェルター級)代表であるイマネ・ケリフ選手も、パリ五輪期間中にインターネット上で誹謗中傷を受けた選手のひとりです。ケリフ選手は女子ウェルター級2回戦から登場して、イタリアのアンジェラ・カリニ選手に勝利しましたが、カリニ選手が試合開始から46秒で棄権し、涙を流したことがニュースになりました。

五輪、性別騒動のボクサーが勝利 相手女子選手、46秒で涙の棄権(共同通信)|熊本日日新聞社

https://kumanichi.com/articles/1502899

これに加えて、ケリフ選手が2023年の女子ボクシング世界選手権において、国際ボクシング協会(IBA)による性別検査で資格基準を満たしていないと判断され失格となっていたことから、インターネット上では「ケリフ選手は生物学的には男性だ」という意見が大量に投稿されるようになります。

マスク氏は「男性は女性のスポーツにふさわしくない。トレンドにしよう」という文字と共に、カリニ選手の写真を投稿するポスト(ケリフ選手が生物学的には女性ではないと主張する投稿)を引用しながら「絶対にそうだ」と投稿したり、「ドナルド・トランプ氏が生物学的に男性である女性のスポーツ競技への参加を禁止すると述べた」という投稿を引用して「いいね」と投稿したりしています。









ローリング氏はケリフ選手について、「新しい男性の権利運動をこれ以上ないほどよく表している写真があるでしょうか?女性を差別するスポーツ界に守られていることを知りながら、頭を殴りつけたばかりの女性の苦悩を楽しんでいる男性の薄笑い、そして女性の人生の大志を打ち砕いた写真です」と痛烈に批判しています。





さらに、ローリング氏は「IOCが性別検査ではなく書類に頼っていることを批判し、ケリフ選手がトランスジェンダーだと考えていると言っている論評家は、詭弁を弄しているだけです。私はケリフ選手がトランスジェンダーだと主張しているわけではありません。私を含む多くの人々が反対しているのは、男性による女性への暴力がオリンピック競技になることです」と記しています。





ケリフ選手の弁護士であるナビル・ボウディ氏は、2024年8月14日(水)にフランスのパリ検察庁オンライン憎悪対策センターに告訴状を提出しました。ケリフ選手は「女性蔑視、人種差別、性差別のいじめ被害者となった」と主張しており、ボウディ弁護士は「検察は、匿名で憎悪のメッセージを書き込んだ可能性のある人を含む、あらゆる人に対して捜査を行う十分な権限が与えられることとなります」と主張しました。

さらに、ボウディ弁護士は告訴状に著名人の名前も挙げられていることを明かしており、「J・K・ローリングやイーロン・マスクの名前も含まれています」と言及。この他、「トランプ氏もこの件についてポストしているため、我々の告訴状で彼の名前が挙げられているかどうかにかかわらず、彼も検察の捜査対象となるでしょう」と述べ、ドナルド・トランプ氏も捜査対象に含まれる可能性があることを示唆しました。

ボウディ弁護士はフランスで告訴したものの、「海外の人物が標的になる可能性もある」「この事件が法廷に持ち込まれることとなれば、彼らは裁判にかけられることとなるでしょう」と言及。ケリフ選手のコーチを務めるペドロ・ディアス氏は、パリ五輪期間中にケリフ選手が受けた誹謗中傷について「彼女自身と周囲の全員に信じられないほどの影響を与えた」と語っています。



なお、IBAが実施した性別検査については国際オリンピック委員会(IOC)が異議を唱えています。これには2019年にロシアのプーチン大統領と親しいウマル・クレムレフ氏がIBAの会長に就任し、それ以降ロシアが同団体を主導する体制にあることや、ケリフ選手がロシアの有力選手を破った直後に下された判断だったことも関係しています。これらの状況を受け、ICOはパリ五輪直前に汚職、財務透明性の欠如、ガバナンス問題などを理由にIBAの認可を剥奪し、オリンピックからIBAを追放しました。

ケリフ選手は女性として生まれ、性自認も女性であり、トランスジェンダーでもインターセックスでもありません。そのため、IOCは「科学的に言っても、ケリフ選手にまつわる騒動は男性と女性の戦いではありません」と述べ、ケリフ選手があくまで女性であることを強調しています。

IBAがIOCからオリンピック資格を剥奪された理由や、ケリフ選手の性別検査が抱える疑惑についてはBBCがまとめています。

【パリ五輪】ボクシング女子と適性資格、今起きている議論を解説 - BBCニュース

https://www.bbc.com/japanese/articles/cgl777mk8v1o