大手スポーツデータテクノロジー企業であるGenius Sportsが、プレミアリーグの半自動審判サプライヤーに任命されました。この契約により、世界で最も視聴率の高いサッカーリーグであるプレミアリーグのオフサイド判定に、数十台のiPhoneと機械学習モデルを組み合わせた半自動オフサイドテクノロジー(SAOT)が採用されることとなります。

Genius Sports to supply Semi-Automated Offside Technology for the Premier League | News | Genius Sports

https://www.geniussports.com/newsroom/genius-sports-to-supply-semi-automated-offside-technology-for-the-premier-league/



iPhones will help decide offside violations in English soccer this season - The Verge

https://www.theverge.com/2024/8/14/24220197/iphone-offside-violation-ai-detection-soccer-video-assistant-referee-english-premier-league

2023-24シーズン、プレミアリーグではVARを原因とした複数の誤審が発生しました。それでもプレミアリーグは2024-25シーズンにVARを継続採用することを決定しています。

VARは試合に出場している選手の体の29カ所を追跡することができますが、それでも限界はあります。VARの持ち合わせている欠点として、Genius Sportsは「大幅な遅延(判定を出すまでに試合を長く中断してしまう)や人的プロセスエラー」「試合中の判定の精度に関する懸念」などを挙げました。



そんなVARの持ち合わせる欠点を補うことができるテクノロジーとしてプレミアリーグに導入されることとなったのが、Genius SportsのSAOTです。Genius SportsのSAOTは、次世代AIシステムおよびデータプラットフォームであるGeniusIQによって強化されています。

Genius Sportsによると、SAOTは試合に出場している選手の3Dレンダリングを正確に作成できるため、審判はオフサイドラインがフィールド上のどこにあり、それに対して全選手がどこにいるかを正確に判断するのに役立つそうです。SAOTはGenius Sports独自のコンピュータービジョンシステムを採用しており、これを実現するには複数のカメラが必要となります。Genius Sportsは「我々はかなり高価な4Kカメラから離れようとしていました。もっと手頃な価格のスマートフォンカメラで代用できないか試してみたかったのです」とインタビューで語っており、最終的に4Kカメラの代わりに複数のiPhoneを利用していることを明かしています。なお、Genius SportsがiPhoneを採用した理由は、「主にソフトウェア開発の面でGenius Sportsの社員が最も慣れ親しんでいるものだから」だそうです。

Genius Sportsの最高製品責任者であるマット・フレッケンシュタイン氏によると、ピッチとサイドラインを均等にカバーするために24〜28台のiPhone(主にiPhone 15 Pro)を配置する必要があるとのこと。ピッチ上には2台のiPhoneを一度に収納できる特注リグを2つ、少しずつ角度を変えて配置することでエリアを確実にカバーできるようにするそうです。なお、iPhoneは試合中に100fpsで動画を撮影し、すべてのデータはオンプレミスサーバーに送信され、GeniusIQによって処理されることとなります。



これによりGenius Sportsは「7000から1万個」ものデータポイントを取得し、各プレイヤーの3D仮想メッシュのようなものを生成できるようになります。「データポイントがこれだけ多いということは、照明の問題などによる詳細の欠落をシステムが許容できるということです」とフレッケンシュタイン氏は語りました。

SAOTはサッカーの試合の中断を最小限に抑え、正確性を実現するためにスピードと精度という基本原則に基づいて構築されました。SAOTのデータ収集レベルは世界のスポーツにおける他のどの審判システムよりも大幅に優れており、オフサイドの判定を驚くほど正確に行うことが可能となります。

なお、プレミアリーグは現地時間の2024年8月13日に各試合の判定に関する情報を発信する公式Xアカウント「Premier League Match Centre(@PLMatchCentre)」も開設しています。プレミアリーグ公式はこのアカウントについて、「ピッチ上での審判の判定や、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の関与、さらには意思決定プロセスにおけるテクノロジーの役割などについて、事実に基づいた解説を投稿します」と説明しました。プレミアリーグではVAR音声のライブ放送が許可されていませんが、Premier League Match Centreでは「試合中にVARでどのように判断が下されたか」などの情報が、ほぼリアルタイムで発信されることになるとのことです。

Premier League launches Premier League Match Centre account on X

https://www.premierleague.com/news/4081343