新宿瑠璃光院白蓮華堂の参拝ブース

写真拡大

 新型コロナウイルスまん延によって様変わりした葬祭業界を前編「「クラシックカーの隣でガレージ葬」「15万円で済む“小さなお葬式”も」 コロナ後の葬式、最新事情をレポート!」で報じたが、「お墓」もまた時々刻々と変化を遂げている。遺された家族に金銭的にも肉体的にも精神的にも負担をかけないお墓とは? その最前線に『いまどきの納骨堂』著者の井上理津子氏が迫る。【前後編の後編】

 ***

【写真を見る】樹木葬にペットと入れるお墓まで 多様化するお墓のかたち

 まず、アフターコロナの今、人気を集めている都内の墓を巡ってみる。

 自動搬送式納骨堂では、JR新宿駅から徒歩3分の地に立つモダンな建物の浄土真宗東本願寺派(単立)新宿瑠璃光院白蓮華堂。

新宿瑠璃光院白蓮華堂の参拝ブース

 自動搬送式とは、建物内にコンピュータ制御の遺骨保管庫があり、運ばれてきた骨壺が参拝ブースの墓石内にセットされ、手を合わせるスタイルだ。参拝ブースに花や「電子香炉」が用意されているので、「手ぶらでお参り」できるのが売りだ。2018年に首都圏では30施設を数えて供給のピークを迎えた後、全体に「トレンドアウト」したといわれる。

 そのような中で新宿瑠璃光院のキャパは7000基。永代使用の家族墓の場合180万円〜、夫婦用90万円、1人用70万円と、同じ形式の他の納骨堂より高いのに、人気を保持しているのは、購入のビフォー・アフターに魅力的なサービスが追加料金なしで付いているからだろうか。

「改葬の場合、元のお寺との交渉からお骨出しまでを私共で代行いたします。また、将来、永代供養の形に変えるときは、この新宿瑠璃光院もしくはやはり私共が運営する『京都天が瀬メモリアル公園』のどちらかを選択していただけるんです。満天の星の下、土の中にお眠りいただけます」(業務統括推進本部部長の木下尚子さん)

「どなたでしたか」とは聞けないので…

 仏壇式・ロッカー式の納骨堂では、北青山の臨済宗実相寺、青山霊廟。荘厳にして華やいだ空気感の中、骨壺が六つ入る300万円の「家族壇」、四つ入る200万円の「親子壇」、二つ入る100万円〜の「夫婦壇」、一つ入る50万円〜の「個人壇」など計600基を擁する。

「コロナ禍のときはおひとり様の『個人壇』生前契約に集中したんですが、コロナが明けると、ご先祖など4〜5柱での改葬がぐんと増えた。結果、求められるのが『親子壇』『家族壇』にシフトしました」(販売管理・運営サポート会社・せいざん代表の岩田貴智さん)

 コロナ禍の最中、お参りに来なくなる人が当然続出した。1年ぶりに来た人に「どなたでしたか」とは聞けない。そこで、せいざんでは21年に「クラウド管理寺務台帳」を開発した(特許取得。他寺に販売も)。納骨堂利用者の家族状況、契約、法要などあらゆる情報をクラウド管理するもので、青山霊廟では僧侶と職員4人がこれで情報共有。利用者との良きコミュニケーションを図っている。

「5年から10年で土に還ります」

 樹木葬は「なんだか自然っぽい」というイメージだろう。1999年に岩手県一関市の臨済宗祥雲寺(現在の運営は知勝院)が里山保護を理念に、「土に還る」形態を設けたのが始まりだ。だが、定義付けのないまま広がり、今や納骨場所に花や芝さえ植えれば樹木葬。市街地では、遺骨を入れたボックスを埋めた上を花で飾る形が主流だ。

 しかし、都内にも里山保護を理念とする樹木葬墓地がある。八王子市の「東京里山墓苑」。桜の木がシンボルツリーで、その根元に60×80センチを1区画とし、杉材の骨壷に遺骨を入れて埋葬する。

「おそらく5年から10年で土に還ります」と、運営主体のNPO法人「ロータスプロジェクト」代表で、延寿院住職の及川一晋さん。趣旨に賛同して生前にNPO会員になることが必要で、区画を得るのは、1人なら50万円、2人なら65万円、合祀(ごうし)形式なら20万円(いずれも別途粉骨料など必要)。昨年新たに「3人プラン(75万円)」を設けた。

「高齢のご夫婦が独身の子供さんの行く末を心配され、コロナ禍の際に『親子3人で入れますか』と問い合わせてこられるケースがどっと増えたためです」(及川さん)

ペットの樹木葬も

 さらに、墓じまいした大勢の遺骨がある場合も、粉骨にして受け入れ始めた。現在、契約者数、埋葬者数とも増加の一途をたどっている。

 樹木葬はペットにも及ぶ。仏教は、人間以外の動物を「畜生」と見なす。そのため、ペット専用の納骨堂は数々あっても、人間とペットが一緒に入る墓はなかなかできなかったが、22年ついに誕生した。江戸川区の浄土真宗證大寺境内の「藤と桜の樹木葬」エリア。マリーゴールドやラベンダーが咲く花壇の下の土中に家族だけの区画として専用の納骨箱を収める形だ。1区画78万円(価格は時期により変動)。人なら4柱の遺骨が入るが、ペットも一緒に、という仕組み。

「ペットを家族の一員と思う人がコロナで増えたため、必要度が高まっています」(井上城治住職)

 犬や猫、ハムスターの名前も刻まれた墓碑プレートを、ざっと30枚見つけた。

コロナ明けから増加傾向

 厚生労働省の人口動態統計速報によると、23年の死者数は、過去最多の159万503人となった(外国人を含む)。納骨場所を移転させる改葬は、22年に15万1076件で、これも過去最多。

 墓を求めるのは、(1)身内が亡くなって新たに遺骨を手にした遺族、(2)元の墓を「墓じまい」し、遺骨を改葬したい遺族、(3)生前に自分(たち)用に用意しておきたい人、のいずれかだろう。

「緊急事態宣言が出て皆が外出を控えた時期、お墓の見学はぴたっと止まりました。3カ月後くらいから徐々に回復してきて、コロナ明けから、見学、購入とも増加傾向にあります」と、墓紹介サイト「いいお墓」を運営する鎌倉新書の広報担当、白井夢乃さんが言う。

 同社が、24年1月に実施した「第15回お墓の消費者全国実態調査」によると、23年1月〜12月に「いいお墓」経由で墓を購入したアンケート回答者のうち樹木葬が48.7%、納骨堂が19.9%、一般墓が21.8%。樹木葬の多さが際立つが、この3形態の墓の購入者の64.1%が「跡継ぎ不要タイプ」を選んでいる。

「親父が亡くなり、郊外の霊園にある先祖代々の墓に納骨し、その墓の名義を私に変更しました」と、東京都三鷹市に住む横井吉男さん(67)は言う。近くに住む長男(32)が不動産関連事業を継いでおり、墓の次の継承者も長男であることを疑わない。だが、横井さんのような人はもはや少数派なのだ。

 跡継ぎ不要タイプを必要とするのは、子供がいない、子供が嫁いだ女の子ばかり、死者自身が単身者の場合――と想像しがちだが、100人に100の事情があるのが墓というものだ。

元夫の亡き後を引き取ろうという気持ちに

 渋谷区在住の坂上薫さん(67)は、03年に離婚して以来、元夫と会っていなかった。ところが、22年8月、元夫の上司から娘(44)宛てに「膀胱がんの末期 あなたに会いたがっている」と手紙が届き、娘が病院に行くのに付き添った。

 坂上さんは元夫に会うことにわだかまりはあったが、再会すると「一瞬で距離がなくなった」という。急激に病状が悪化していくなか、娘の希望を尊重して、亡き後を引き取ろうという気持ちになったそうだ。

「お墓はどうしよう。元夫は自分の実家のお墓を嫌がっていたし、私の実家のお墓では居心地が悪いだろうし……。ふと頭をよぎったのが、以前に本で読んだ築地本願寺の『合同墓』でした」

 築地本願寺は、浄土真宗本願寺派(西本願寺)直轄の有名寺院だ。17年、境内の一角に、礼拝堂を備えた「合同墓」が新設された。個人単位、継承者不要。過去の宗派不問。年間管理費不要。30万円〜。「信頼できる大寺院に、私と娘が無理せず払える金額で納骨できる」と坂上さん。

「俺、墓がないんだよな」

 以心伝心か。病院通いが続いたある日のこと。

「元夫が『俺、墓がないんだよな』と呟いたんです。私が『築地本願寺の合同墓にしようかなと思っているけどどう?』と言うと、元夫の顔がパッと明るくなりました。長く通った職場に近かったからです」

 再会後11日目に元夫は旅立った。坂上さんは、自宅近くの斎場で7人が出席する葬式を行い、元夫は荼毘(だび)に付された。そして「四十九日」に納骨。

「粛々と受け取ってくださった。あの状況の中、以前本で読んだ築地本願寺の合同墓をよく思い出したと思います」(坂上さん)

 築地本願寺では、遺骨を粉骨にし、個別の専用袋に入れて納骨堂に納める。その後、礼拝堂の回廊に名前が刻まれる(23年11月申し込みまで)。坂上さんは約3カ月後に同寺のサイトのマイページで納骨が完了したことを確認し、手を合わせに行った。さらに半年後、回廊に名前が刻まれたときも、お参りした。

「思い入れのある場所に近く、一緒に眠る方もいらっしゃる合同墓に納骨できてよかった。元夫も喜んでいると思います」

 築地本願寺では、6月に「合同墓納骨者総追悼法要」を開催しており、毎年1500人ほどが参集するという。

「ウチが何宗だったか、私、知らないし」

 続いてもう一例、「墓じまい」のケースも紹介したい。

 大阪市在住の篠原陽子さん(90)。46年前に夫、22年前に長男に先立たれている。「とても元気で、かっこいい人」と、亡き長男の妻だった一江さん(60)=川崎市=が言う。長男が亡くなったのは一江さんと離婚後だったが、一江さんと「ずっと仲良し」。陽子さんは、民族音楽好きが高じて50代半ばで単身スペインに渡り、12年間かの地で暮らした人だ。

「10年ほど前から、せっせと終活をしてきてね。2年前、ついにお墓に手をつけたんです。年齢的にもうこれ以上延ばせないと思って」

 篠原家の墓は大阪府北部の山の中腹に広がる公設霊園にあった。最寄駅からタクシーで往復1万円。入り口から階段をせっせと登らなければならなかった。いつ買ったか記憶になく、「あるのが当たり前」だったが、思い切って一江さんに墓じまいをしたい意向を伝えると「もちろん賛成」。一江さんが見つけてくれた石材店の「とても感じのいい若い女の子の担当者」からの見積書に、墓石解体・処分から竿石供養、残土処理、土の入れ替え、お骨上げ、洗骨まで一式合計24万8000円とあり、「そんなものなのね」と思った。彼女が、改葬先はアクセス的に町なかがいいとアドバイスをくれた。

「宗派のこだわりは?」

「ないない。ウチが何宗だったか、私、知らないし」

「この頃、そういう方、多いですね」

 そんなやりとりもした。

僧侶なしで墓じまい

 大阪市内に、誰の骨でも受け入れ、骨で10年毎に「骨佛(こつぼとけ)」をつくる一心寺がある。理想的だが、コロナ禍に希望者が増えすぎ、「新骨のみ」の受け入れに変わり、諦めた。そこへ石材店担当者が「この頃、四天王寺さんが人気ですよ」。え? あの聖徳太子が建立したと習った古刹が? 聞けば、「納骨総祭塔」という名の合同・合祀墓が、昭和20年代からあるとのこと。納骨・回向料1霊1万5000円〜。年間管理費不要。金額的にも申し分なく、すぐに決めた。

「22年8月8日が『墓じまい』の日でした」。陽子さんが言う「墓じまい」は、最後のお参りを指す。一江さん、東京在住の長女と3人で赴いた。僧侶は頼まず、従って「抜魂法要(墓石から魂を抜くための読経)」なし。石材店担当者が墓前に小さな机と焼香台を置いてくれたので、焼香をして手を合わせた。所要時間は約5分。「いいお天気の日で、そよ風に木の葉の揺れる音がBGMでした」と一江さん。墓石の撤去等は後日に業者が行い、立ち会わなかった。

「数日後、担当者に骨壺が六つ入っていたと聞かされ、びっくり。主人の両親までは想定内でしたが、あと、名前も知らない方も入ってらしたんですね。霊園とお役所に出す、故人の生年や没年などの記入が必要な改葬許可申請書などを6人分書かなければならず、それがものすごく大変だった。頭がしっかりしていた70代でやっておくべきでした」

 四天王寺への納骨は難なく済み、「肩の荷が下りた」としみじみ。納骨後、四天王寺へ参ったのは1回だけ。

「リビングの主人と息子の写真に、毎朝『おはよう』って。それで十分です」

集落ごと合同墓に改葬

 改葬の多くは「地方から都会へ」だが、そればかりではない。農村地域の集落の全戸が墓じまいし、新たに造った合同墓に改葬したケースも紹介したい。

 京都市の北西30キロほどの山あいにある京都府南丹市園部町の口司(こうし)地区。約70戸全てが曹洞宗佛名寺の檀家だ。境内に、20年、高さ約2.5メートルの「合祀塔墓」が立った。

「10年にこの寺へ来て、檀家回りを始め、『墓を守るのが難しくなりそう』という声を何軒かから聞いたのが、そもそものきっかけでした」

 と住職の森屋徹全さん(59)が振り返る。

 この地区には二つの集落があり、墓地は3カ所あったが、少子高齢化が進み、65歳以上の割合が約42%に。跡継ぎのいない家が増えていたのだ。寺の役員らの賛同を得た後、19年から全檀家を回り「合祀墓を建てるので、みんなが墓じまいして、移ってこないか」と提案した。

「イメージできない」と訝(いぶか)しむ向きもいたが、跡継ぎが減っていく中、墓地の草刈りなどの負担が重い現実があり、説得力のある案だった。

墓じまい費用は6万円ぽっきり

 合祀墓の建設費用800万円は、森屋住職と檀家の代表らで捻出。各家の墓じまい費用は、石材店の協力で6万円ぽっきりに。合祀墓に無料で入れ、「永代にわたって供養する」と約束した。

「それを可能にするために、檀家以外からの納骨も受け付けることとしました」

 と森屋住職。といっても、都会並みの額では希望する人などいないと、「4霊まで納骨料6万円」「存命の家族分を含め永代供養料8万円」と破格に設定した。

 結果、地区にある二つの集落のうち、下口司集落は全檀家20軒が、もう一つの集落でも約半数が合祀墓にすぐさま移った。さらに、都会に改葬していた遺骨が「掃除をしなくていい、故郷の墓に入れるなら」と戻ってきたケースもある上、檀家以外の納骨もひっきりなしだ。

 取材は5月28日の午後4時半からだったが、「東大阪市在住の60代の男性が、出身の富山の墓をしまい、6人分を納骨に来て、今、帰られたばかり」とのこと。春秋の彼岸と盆に行う合同法要は、檀家ら50〜80人が集う。

 檀家役員の一人、西田安夫さん(75)が「あのままでは、やがて取り返しのつかないことになったやろな。ベストな方法やった」と話した。

 墓は、「今」を映す鏡である。核家族化が進んだのは半世紀も前だ。今では生まれた土地に住み続ける人の方が少ない。墓の形の変化は、多様化する家族の形と人々の生活感のリアルからずいぶん遅れてやってきた。「墓じまい」「継承不要」「合同」がキーワードか。どんな形にせよ、当事者が悔いのないことが肝要なのだ。

前編「『クラシックカーの隣でガレージ葬』『15万円で済む“小さなお葬式”も』 コロナ後の葬式、最新事情をレポート!」では、多様化が進み個人に合わせてアレンジが可能となってきたコロナ以降の葬式事情について紹介している。

井上理津子(いのうえりつこ)
ノンフィクション・ライター。1955年奈良市生まれ。京都女子大学短期大学部卒。タウン誌を経てフリーに。人物ルポや町歩き、庶民史をテーマに執筆。著書に『旅情酒場をゆく』『さいごの色街 飛田』『葬送の仕事師たち』『絶滅危惧個人商店』『師弟百景』『葬送のお仕事 (シリーズお仕事探検隊)』など。

「週刊新潮」2024年7月11日号 掲載