逮捕後も捜査は続く

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 鳥取砂丘近くに点在するホテルの一室。駆け付けた捜査員に対し、元自衛官の片山宏一容疑者(27)は落ち着いた様子で「自分がやった」と話したという。

【写真を見る】海外で傭兵訓練を受けていたという片山容疑者

 7月30日午後7時。およそ360キロに及ぶ逃走劇はあっけなく幕を閉じた――。

 さかのぼること52時間あまり、28日午後2時過ぎに事件は起きた。静岡県菊川市の住宅街で、澁谷昭一さん(87)と妻の育子さん(81)、次女で介護士の留美子さん(52)が殺害されたのだ。

 社会部記者が振り返る。

「澁谷さん宅は、事件時は外出していた50代の長女を含めた4人暮らしでした。この長女の息子が、片山容疑者です。留美子さんから助けを求める電話を受けた長女が菊川署に通報し、発覚しました」

逮捕後も捜査は続く

従業員の通報で急展開

 三人は首や胸、腹などに複数の刺し傷や切り傷を負い、帰らぬ人となった。

「現場に刃物や靴を残して逃走した片山容疑者は、事件後、菊川市内のホテルに潜伏していました。翌29日早朝、タクシーでJR掛川駅まで行き新幹線や列車を乗り継いで移動。昼ごろJR鳥取駅で下車して以降の足取りは不明ながら、駅から車で十数分の、鳥取砂丘そばにあるホテルに滞在していたのです」

 この時点で静岡県警は公開捜査に踏み切っていたこともあり、

「片山容疑者の様子を不審に思ったホテル従業員の通報で急展開。30日の身柄確保の際、片山容疑者はナイフで腹部を自傷していたため、鳥取市内の病院に入院させた。県警は回復を待ち、今月1日、育子さんに対する殺人容疑で逮捕しました」

 だが、犯行動機や詳しい逃走経路などは解明されていない。

陸自に所属

 謎多き逃走劇を演じた手配犯は、神奈川県川崎市内に住所を置いていた。

「母親の実家である菊川市の澁谷さん宅には一度も住んでおらず、この数年、没交渉だったと思われます」

 と、捜査関係者が語る。

「片山が育ったのは菊川市の隣の掛川市。歯科衛生士の母親が、歯科技工士をしていた父親の家に嫁ぎました。片山は父方の祖父母と両親、兄と暮らし、小中高と地元の学校を出ています」

 高校卒業後は、陸上自衛隊に入隊。

「2015年3月、一般曹候補生として任用されています。新隊員教育を経て同年10月、練馬駐屯地所在の第1師団第1偵察隊に配属されました。が、第1偵察隊所属時の17年11月、自己都合を理由に退職している。在籍期間中、懲戒処分などは受けていません」

実家の屋上からロープで降りる姿が

 2年半の陸自生活でなにを得たかはともかく、片山は掛川市の実家に戻った。

「するとたびたび、3階建ての屋上からロープを使って降りる姿を近隣住民が目撃するようになりました。いまから5年ほど前には母親が離婚。澁谷さん宅に出戻ると、片山は完全に住所不定状態となったのです」

 では、その間どこにいたのかというと、

「陸自退職後、海外に出て傭兵の訓練を一定期間受けていたとみられます。刃物の扱いも、陸自やこのときに身に付けた可能性が高い。今回の犯行は短時間に刃物で三人を襲っており、手慣れた様子がうかがえます」

 まさか、ロープ降下技術も含め、澁谷さん一家を襲うための訓練だったのか。

週刊新潮」2024年8月15・22日号 掲載