天皇陛下がお乗りになる「特別車両」とは 皇室専用車両の秘密に迫る(2)
「皇室専用車両の秘密に迫る(1)」では、導入に至るまでの経緯やコンセプト、特別車両の概略について解説しましたが、本稿では「特別車両の内部」、「公開されない室内レイアウト」、「引き継がれた菊華御紋章」について考察します。
※トップ画像は、山形県で開催された全国豊かな海づくり大会に伴い運転したE655系お召列車=2016(平成28)年9月11日、JR羽越本線羽前水沢駅〜三瀬駅間(山形県鶴岡市)
特別室は、国賓等の接遇に適した座席レイアウト
「特別車両」には、侍従などのお付きの人の部屋「次室」があり、その奥に特別室(旧御座所)がある。特別室は、国賓等の接遇に適した座席レイアウトとし、中央のテーブルをはさんだ主席4席と、その後方に通訳など随行員の座席が2席ずつ用意されている。特別室の奥には左右両側に引き戸があり、向かって左は廊下、右は休憩室へと続く。
休憩室にはベッドにもなるソファをはじめ、洋タンスや三面鏡があり、部屋の奥にはバリアフリー対応型の「トイレ」が備わる。また、お付きの方が休憩室を通らずとも移動できるように、部屋の背面には廊下が設けられている。これらの設計思想は、旧御料車を参考にしたものだった。
公開されない室内レイアウト
外からは車内をうかがい知ることができるものの、これまでに室内のレイアウト図が示されたことはない。無論、警備・警衛上の都合によるものだが、鉄道模型としても製品化されていながら、その室内の細部までは再現されていない。報道公開の時も特別車両は立入禁止で、外部から車内の様子をうかがうことしかできなかった。
JRからは、車内の写真が公開されたが、トイレといったプライベート空間は非公開とされた。休憩室のソファもベッドに変更できるようだが、その状態を見たことはない。宮内庁も、特別車両はJRの所有であることから、公表する立場にないとして一切の情報発信は行なっていない。
昭和の御料車から引き継いだ「菊の御紋章」
車体の外部中央に掲出される菊華御紋章も、旧国鉄製の御料車や貴賓車から取りはずしたものを再整備して取り付けてはいるが、特に公表されていない。車体や窓ガラスには「防弾装甲」が施されているというものの、これも非公表。公然の秘密に包まれた車両、それが特別車両なのである。
文・写真/工藤直通
くどう・なおみち。日本地方新聞協会皇室担当写真記者。1970年、東京都生まれ。10歳から始めた鉄道写真をきっかけに、中学生の頃より特別列車(お召列車)の撮影を通じて皇室に関心をもつようになる。高校在学中から出版業に携わり、以降、乗り物を通じた皇室取材を重ねる。著書に「天皇陛下と皇族方と乗り物と」(講談社ビーシー/講談社)、「天皇陛下と鉄道」(交通新聞社)など。