e☆イヤホン秋葉原店

前回の記事では予算を4万円に設定して、e☆イヤホン秋葉原店で完全ワイヤレスイヤフォン(TWS)のオススメモデルを教わりました。今回はTWS以外の世界も覗かせてもらうべく、10万円未満で楽しめるヘッドフォン+DAC、そしてヘッドフォンアンプを紹介してもらいました。

筆者は外出時はもちろん、自宅でも騒音が気になる場面ではTWSが手放せません。でも、部屋で仕事をしながら音楽を聴くならヘッドフォンでも良いかなと思ったのが、ここに注目したきっかけです。単に優柔不断なだけとも言います。

引き続き、e☆イヤホンのゆーでぃ氏にご指南いただきました。

ゆーでぃ氏

ヘッドフォン+ヘッドフォンアンプを試聴

4階は「有線ヘッドフォン・DAP・据え置きアンプ」のフロア。お客さんはそれぞれ思い思いに試聴し、店員さんも特にセールス的に声を掛けたりする様子がありません。さすが専門店といった感じで、落ち着きますね。

まず、ヘッドフォン込みで予算10万円未満の場合、オススメのヘッドフォンアンプとして出していただいたのは次の3台。どれも人気モデルだそうです。

ヘッドフォン込みで10万円未満の場合の、オススメヘッドフォンアンプ3台

FIIO K7

大きなボリュームノブと小さなトグルスイッチ、いかにもパワフルな音が出そうな雰囲気のルックス……ですが、これでもヘッドフォンアンプの中ではコンパクトな部類だそうです。確かにK7より上位のモデルはもっと大型。わりと小型ながら入出力端子などの装備が充実しているというのが、K7の個性のようです。

FIIO K11

同じFIIOの中でも、こちらはエントリーモデル。液晶表示が浮かび上がる様子がカッコいいです。筐体はアルミ製で、3台の中では圧倒的に小さいです。卓上の置き場所に困るという人にうってつけだとか。表示パネルと相まってスマートな雰囲気があります。天面の光るFIIOロゴも、現在のサンプリングレートを示すという役割を持っています。

iFi Audio ZEN DAC 3

人気シリーズ「ZEN DAC」の最新作という間違いなさそうなチョイス。お手頃価格ではありながら、それでもボリュームダイヤルには品位高めなローレットが刻まれ、スピン加工も施されています。オーディオ機器はユーザーの気持ちをアゲることも大事だという自覚が伺えるようで素敵です。とにかく人気機種だそうです。

そして、ヘッドフォンは2機種用意していただきました。

FIIO FT3

FIIO FT3

同社初の開放型ヘッドフォンとして、60mm径のダイナミックドライバーを搭載。ヘッドバンドの長さ調節機構が自動復元式というのが面白いです。頭に載せて耳の位置までハウジング部分を下ろしたら、そこでフィットします。350Ωというインピーダンスは、普通のイヤフォンしか知らない筆者には文字通り桁外れな数値で。そりゃあヘッドフォンアンプも必要ですね、と納得しました。

beyerdynamic DT 770 PRO X Limited Edition

beyerdynamic DT 770 PRO X Limited Edition(左)

現在品切れ中! の人気アイテムでした。レコーディング向けの密閉型モニターヘッドフォンで、ブランド創立100周年記念として世界的定番モデル「DT 770 PRO」に“PRO X”シリーズの柔軟性を加えたとされています。ハウジング部分は思いっきりプラスチックですが、ヘッドバンド部分はゴツくてシンプルな金属製のようで、まさにドイツの合理性でしょうか。

ここまでイヤフォンだけを試聴してきたため、FT3の音を聴いてみると、まずは「さすがヘッドフォン」というべき部分か、特に低音域の再生に余裕を感じます。開放型(オープンエアー)ヘッドフォンの傾向としては、スッキリした音で、高音の抜けが良く、音場も広めという傾向があるそうです。

FT3は開放型ヘッドフォンといってもそこまでアッサリした音ではなく、いい塩梅だなと思いました。ハウジング部分の半分ぐらいが塞がっている影響でしょうか。聴くシーンによっては開放型のスッキリ感もよいのですが、私は少し音にパンチというか唸り感があったほうが好みなので、ちょうど良かったです。

一方のDT 770 PRO X Limited Editionは密閉型です。ベロアのイヤーパッドが気持ちいいです。こちらはレコーディング=歌を聴くのによいバランスなのでしょうか。独特の訛りというか、ピークっぽい部分があるように感じられ、楽器を分析的に聴きたい私の使い道からは少し遠いかなと思いました。

とりあえず基準を置かねばならないので、以降はFIIO FT3に統一して試聴しました。

FIIO K7は筐体の見た目通りにパワー感があり、高音までよく伸びていました。元気な感じがします。それだけ広いレンジの再現性があるということですね。バイオリンの高音域を聞いてみると、プレーヤー側のEQで少し削ってもよいかなと思えるぐらいの量がありました。ちなみにオーディオ機器が“ガワの素材で音が変わる”というのは実際にあるそうです。

FIIO K11はK7に比べるとサウンドも穏やか・軽やかな印象で、これも筐体の見た目通りでしょうか。まだ私は経験が浅いので、ヘッドフォンアンプを買うならいかにも「新しい機材を買いました!」という派手な変化を期待してしまいます。本当に大人なチョイスはこの辺りなのかもしれません。

自分の用途で一番好みだなと思ったのは、iFi audio ZEN DAC 3でした。K7は少し野性味というか、楽しく聴ける感じのチューニングという印象を受けましたが、ZEN DAC 3はソリッドステートのベースアンプのような……楽器界隈で“音が速い”と言われる類いのレスポンスの良さ、クリアな音色があるように感じました。これが、楽曲を分析的に聴くには良さそうだなというのが決め手です。

今回のオススメの中では、このセットがお気に入りでした。

スマホ+有線イヤフォンなら……スティック型DAC

スマートフォンを再生機にする場合の選択肢として、最近人気のスティック型DAC(ダック)についても教えてもらいました。これはスマートフォンのUSB-C端子やLightning端子に繋いでデジタル信号を取り出し、本格的なデジタル/アナログ変換とヘッドフォンアンプを通して、より高音質を楽しもうというアイテムです。“スティックDAC”や“ドングルDAC”とも呼ばれ、商品数の多さから人気のほどが伺えます。

以前はポータブルヘッドフォンアンプ(いわゆるポタアン)がホットでしたが、今ではスティック型DACが手軽さも相まって人気だそうです。また「BluetoothレシーバーDAC」という、スマホとDACの間をワイヤレス化した製品もラインナップが豊富でした。

ポータブルアンプのコーナー

BluetoothレシーバーDACのコーナー

私も10年ほど前、わけもわからず「ポタアン」を買い、iPod nanoをくくりつけて悦に入っておりました。その頃に買ったイヤフォン「Shure SE535」を持参していたので、スティック型DACはそれで試聴しました。今回はちゃんと良さを理解しようと思います。

1機種目はiBasso Audio「DC04PRO」。比較的お手頃ながら、しっかりとスティック型DACを使う意義が感じられるパワー感ある音になっている印象です。スティック型DACには音量調節ボタンやダイヤルが備わっており、スマホ本体の音量と連動するもの・しないものがあります。もはやAirPods Proに慣れきった身には、イヤフォンの棒を「スッ」とやって音量調節できないのは正直手間に感じますが、しかしこのサイズなら、ちょっと長めに電車に乗るようなシーンで日常的にリスニングを楽しめそうです。

iBasso Audio「DC04PRO」

スティック型DACを快適に持ち歩くアクセサリーも。これはLEPICのDAC POCKETというホルダーで、スマホ背面にマグネットで取り付けます。右側にスティック型DACを入れ、使わない時は左側にヘッドフォンジャックを差し込めます。

2機種目はAcoustune「AS2002 USB DAC」。これを言ってはいけないとわかっていながら、「このちっちゃいので3万8,500円?」という囁きが脳裏をよぎります。こちらはボーカルにフォーカスした個性があるとのことで、本来の私の要望(=楽器を聴きたい)とは異なる方向性ですが、単純に中高域のツヤ感が素晴らしいなと思い、せっかく買うならコッチかな……と思ったほど。なんとこれには、スマホ裏に取り付けるマグネットベースが同梱されています。それもアルミの削り出しっぽい高級感のあるものでした。

Acoustune「AS2002 USB DAC」

AS2002用のマグネットベース。MagSafeでスマホ裏に取り付ける。至れり尽くせりですね

3機種目は「最強のやつを、いきましょう」ということで、ハイエンドモデルのiBasso Audio「DC-Elite」です。お値段7万3,260円(取材日時点)と本日最高額のアイテム。筐体はチタン合金の削り出し、接続ケーブルも編み込みタイプと、やる気十分です。

音質はさらに底上げされた印象で、クセがなく骨太。ここまで3機種を順番に聴きながら「やっぱり価格に比例するなあ」という感想を持ちました。スマホと一緒に持ち歩くアイテムにしては、触るものみな傷つけそうな形状をしていますが、何しろトガッた製品と言うことでご愛嬌かもしれません。ちなみに革ケースが付属するそうです。

iBasso Audio「DC-Elite」

後日再訪・購入! 今後も通ってしまいそうです

ここまで2回に分けてe☆イヤホン秋葉原店でのお買い物相談をレポートしました。TWSだけならまだしも、ヘッドフォンアンプとかスティック型DACとか新たな世界も知ってしまったがゆえに、いよいよ結論が出せず、その日は手ぶらで帰宅しました。

しかし取材からしばらく経って、イヤフォンを買いました。「JBL TOUR PRO 2」です。e☆イヤホン秋葉原店の5F中古フロアで、革製ケース(一時期キャンペーンで配布されたもの)と一緒に買いました。合計2万1,100円。やっぱり取材でモチベーションが高まったのと、2万円ぐらいのTWSであれば、いくつか持っていても気分次第で使い分けられるのでは? と思ったからです。

購入したJBL TOUR PRO 2。中古在庫から一番状態のよいものを選んだ

JBLといえば前編で最新モデルの「JBL Live BEAM 3」を紹介してもらい、高音質コーデックのLDAC対応だったり2万円台半ばという価格帯がいいなと感じたのですが、「やっぱり(LDAC非対応の)iPhoneを使うことが多いよな」、「e☆イヤホンで買うなら中古っていうチョイスもあるんだよな」と気づき、改めてiPhoneを使って聞き比べました。

ジャズバイオリンの伸び、シンセベースのうねり、70年代ロックのライブ音源の生々しい楽器などを聴きながら、秋葉原店の1階でLive BEAM 3とTOUR PRO 2を3往復ぐらいしたかもしれません。それで、より満遍なく好みの音が出たTOUR PRO 2を選びました。

JBLは音のキャラクターに一貫性があるという説明も聞いていたので、「これがJBLの雰囲気なんだな」と思ってよさそうな部分も嬉しいです。ちなみに充電ケースの待ち受け画面は、JBLスピーカーといえば……のFenderアンプの画像にしてみました。画面にうまくハマるようにトリミングしたりして、なんだか楽しいです。今度、ギター関係の仕事現場で見せびらかそうと思います。

とはいえTOUR PRO 2はお出かけ用という感じで、本気の騒音対策には最強ノイキャン系TWSが引き続き気になりますし、ANC付きであればヘッドフォンだと更に高音質も狙えそうな気がします。そしてやっぱり、ワイヤードの本格イヤフォン/ヘッドフォンを鳴らせるスティック型DACも捨てがたいです……というわけで、今後もいろいろ試聴して音質判断の基準点を増やしていきたいと思います。e☆イヤホンが通勤圏内にあってよかったです。今後ともお世話になります!