テレビ現場で《ロケ弁》にコンビニ弁当は「選ばない」ワケ…発注し忘れたら地獄 「おいしい弁当」を選ぶ、4つのこだわり
テレビやイベント、舞台など、様々な制作の現場で出演者やスタッフを支えるロケ弁が、注目を浴びている。6月10日の“ロケ弁の日”に、東京都内で「第1回 日本ロケ弁大賞」(主催・日本ロケ弁大賞運営委員会)の授賞式が開かれ、話題になったことも影響しているようだ。テレビ撮影などのクリエイティブの現場を支え、出演者やスタッフに愛されるロケ弁の条件とはどんなものなのか、知られざるロケ弁の世界について関係者たちに聞いた。
愛されるロケ弁とは
栄えある第1回の大賞に輝いたのは、欧風カレーで有名な『オーベルジーヌ』(東京・四谷)のビーフカレー(1296円)。金賞には9店の9商品が選ばれている。
まず伺ったのが、日本ロケ弁大賞の品評者(6人)の1人で、「第1回 日本ロケ弁大賞」の品評会に特別協力として参加した株式会社ロケグー代表取締役の稲田爽(いなた・そう)さんだ。自身も元ディレクターでテレビ番組や映像制作に携わった経験を持つ。AD(アシスタントディレクター)時代には、ロケ弁の発注も行った。
稲田さん:「発注側として、予算感や番組のテイストを意識しました。例えば女性の演者やスタッフが多いケースに対応できるか、男性がメインの現場でスポーツをするなどガッツリと食べられるお弁当として想定するなど、番組や状況のイメージに合わせてオールマイティに発注できるお弁当として考えました」
稲田さんによると、予算はテレビ番組の場合1000円程度で、深夜帯だともっと下がる。CMなど広告制作現場の場合は、有名焼肉チェーン『焼肉 叙々苑』のお弁当(2800円〜)が頼める程度に予算が潤沢らしい。
『叙々苑』のお弁当はロケ弁の中でも、関係者に超人気。今回のロケ弁大賞には入っていないが、授賞式に出席した『オーベルジーヌ』3代目の高橋祐介さん(※「高」ははしごだか)と話す機会があり、「美味しいですよねぇ!」と盛り上がった。
なお、高橋さんに、“推しのお弁当”を聞いたところ「予算を度外視すれば『焼肉 叙々苑』の焼肉弁当。もしくは『崎陽軒』(横浜)のシウマイ弁当は3個買って2回ほどに分けて食べるほど好きです」と教えてくれた。
制作現場におけるロケ弁の重要性とは
さて、テレビの現場におけるロケ弁との付き合い方というのは、どういうものなのだろうか。
稲田さん:「番組にもよりますが、基本的にはADさんやAP(アシスタントプロデューサー)さんがロケ弁を発注することが多く、最初に行う重要な仕事といえます。その後のテレビマン人生が変わるくらいの影響力がロケ弁発注にはあると言っても過言ではありません。そんな場面は見たことがありませんが、万が一弁当の発注を忘れでもしたら、その現場は地獄と化すでしょう」
制作現場におけるロケ弁の重要性が伝わってくるお話だ。
稲田さん:「人によってこだわりもそれぞれ。例えば、ある芸人さんがメインMCだからその方が好きなお弁当とか、歯に付くことを気にされるタレントさんがいるから海苔弁はやめておこうとか。
ドラマなどの現場では体型を気にされている俳優さんやスタイリストさんなど女性のスタッフが多いことも。そんな時は、野菜が豊富なお弁当を選んだり、パッケージのかわいさなどでテンションを上げていったりということも。
女優さんが『わたし、このお弁当好き』なんて言ってくれたら最上級の喜びですね。コンセプトからこだわっている番組では、ロケ弁からすでに世界観を作っているケースもあります」
日本ロケ弁大賞の協賛企業、株式会社くるめしの執行役員で、マーケティンググループグループ長の長澤雄さんは、ロケ弁ならではの事情について、次のように話す。
長澤さん:「朝の4時や5時にロケバスが出発することもあるので、早朝ロケでも配達してくれるということも重要です」
いざとなったらコンビニがあるじゃないかと思うが、稲田さんによると、“手作り感”が重要とのこと。今回いただいたお弁当たちのそれぞれは、確かに手作りならではの美味しさが詰まっていた。コンビニも充分美味しいが、大量生産の商品とは違うところに魅力を感じてしまうのだろう。
人気ロケ弁の特徴
長澤さん:「演者さんはもちろん、スタッフさんも含めて食べることが好きな方が多いので、きちんと美味しいことが大事です。その中でご飯が冷めても美味しいこと、ご飯が進むおかずであることも重要なので、味がしっかりめのおかずが好まれる傾向があります」
鮭ハラス塩焼き弁当(1080円)が金賞の『五つ星のり弁 坊々樹(ぼうぼうじゅ)』(東京・錦糸町)は、老舗米穀店五つ星マイスター直伝の極み炊飯製法でご飯を炊く。
おにぎり2個+惣菜3種類セット(520円)で金賞の『おにぎりチャカス』(本社:東京・渋谷、都内に4店舗)も、冷めても美味しいお米の「山形県産ひとめぼれ」を使うなど、みなさんこだわりを持っている。
名物海苔弁(1200円)で金賞の『海苔弁いちのや』(靖国通り本店:東京・九段南を含め全国に計15店)も、普通の海苔弁と変わらないように見えるが、一つひとつのおかずのグレードが高い。
長澤さん:「ロケ弁は、毎日や毎週食べる人もいるので、飽きがこないことも重要です。この間はカレーだったから今日はヒレかつサンドなど、特徴が立ったもので毎週の献立が組まれるケースが多いと聞きます」
稲田さん:「バラエティでは男性スタッフや芸人さんが多いので、ボリュームがある『喜山(きざん)飯店』が人気です。業界の人だったらあのおかずが好きと、居酒屋などで2〜3時間は話していられるんじゃないかな。そういう会話ができるロケ弁は、愛されているなと感じます」
『喜山飯店』(東京・上高井戸)は、お弁当A(1134円)で金賞。本格中華のデリバリー・テイクアウト専門店だ。
美味しさの裏にある心遣い
入賞したロケ弁については、共通項があるという。
稲田さん:「カレーなら『オーベルジーヌ』、中華は『喜山飯店』、『とんかつまい泉』だったらヒレかつサンドなど、店名と商品がつながってパッと思い浮かべられるのは強みです」
『とんかつまい泉』(本社:東京・神宮前)は、ヒレカツサンド(453円)で金賞。首都圏を中心に、デパ地下などの売り場で人気だ。
稲田さん、長澤さん:「肉と魚の両方を頼んでおくことも重要。内容の異なるお弁当を用意して選べるというだけでなく、食べられない人がいないことも大切です」
今回は、お魚がメインのお弁当が多いことが印象的だった。世間では魚離れなんて言われるが、ロケ弁で好まれている理由は何だろうか。
長澤さん:「一般のグルメ相場と異なることに驚きました。もちろん『とんかつまい泉』のヒレかつサンドなど、冷めても美味しいお肉のお弁当はありますが、一般的に肉は脂が浮いたり硬くなったりしがちです。魚なら食べ飽きないし、冷めても美味しいことが要因でしょうか。(これなら)偉い人にも怒られなさそうですしね(笑)」
「小さなことですが」と断ったうえで、稲田さんが教えてくれたのが「1個1個のお弁当にキチンと箸が同封されているなど、ちょっとした気遣いが見えるお弁当はうれしい」ということ。
制作現場で偉い人が、いざお弁当を食べようとしたら箸が見当たらず、スタッフさんへ怒号が飛んでいる様子を想像してしまった(あくまでも想像です…)。慌ただしい現場にとっては大切なことかも。料理の美味しさはもちろん、食べる際のちょっとした心遣いも求められるのがロケ弁の世界なのか。
それからロケ弁といえば、駆け出しの芸人さんやADさんが余ったお弁当を持ち帰るなんて話を聞いたことがある。
稲田さん:「ADの時はお金もないですし、残っていたお弁当を食べるという感じです。疲れてくたくた、お腹ペコペコでようやく食べられた時のお弁当の美味しさったらなかったですね。収録が長丁場になることもありますし、編集などをしていて睡眠がとれないこともある中で、美味しいお弁当があったら頑張れます。人によっては毎日食べることもありますから、ロケ弁で元気になれるということは大事だと思います」
「楽屋に入ってまずみんながチェックするのは弁当だったりします」
こう稲田さんが話す通り、みんなやっぱり食べることが、そしてロケ弁が好きなんだなぁ。
次に来るロケ弁はコレ!
長澤さんにロケ弁のこれからを聞いた。今後、受賞しそうな注目店も。
長澤さん:「この数年、昔から慣れ親しんだものをプロのクオリティで、もっとブラッシュアップさせた『ネオ○○』、『究極の○○』というものが流行っています。海苔弁やだし巻き玉子、唐揚げなどでも特徴的な味付けになっているものが喜ばれています。
例えば今は法人のみの受付になっていますが、斬新な美味しさで大人気の『chioben』(東京・代々木上原)さんはその代表格。『美寿(びじゅ)』(東京・広尾)さんでは、しば漬けを入れたタルタルソースが美しくて美味しいと評判です」
なお長澤さんは「くるめし」の社員さんたちに人気という『お弁当 ちとせ』(東京・千歳船橋)をおすすめとして教えてくれた。バランス良くおかずが入っていて安心できるけれど、味付けが新しいのだそう。公式サイトを見たら、数日前から予約が埋まる人気店だった。
最後になるが、稲田さんがおすすめの弁当屋さんは『お弁当 ぎん香(か)』(東京・麻布十番)。
「お米は羽釜で炊かれていて、とても美味しいのです。おかずはすべて手作りですし、特に魚の美味しさが秀逸で、予算がある番組の時は頼んでいました。人気があるお店ですが、ぜひ食べてみていただきたい。なお、店で買うと200円引きになるので、店頭へ行ける方はぜひ」
『お弁当 ぎん香』は、過去に系列店を取材した際、その美味しさが忘れられなかったお店。コロナ前は時折行っていたのだが、すっかりご無沙汰になってしまったのと、お弁当は未経験。俄然食べたいスイッチが入った。
金賞『喜山飯店』のお弁当を買ってみた!
実は『喜山飯店』は未食のワタクシ。どうしても食べてみたくなり、近くに行く機会があった際に買ってみた!
熱々で提供されたお弁当をお持ち帰り。帰宅する頃には冷めてしまったが、温めずとも素材の持ち味を活かした美味しさで、中華なのに上品な味だと感じた。何よりうれしかったのは、ボリュームがあったので2回に分けて、食事として、晩酌のアテとして、いただけたことだ。
ハレノヒと日常づかいの間にあり、クリエイティブの現場を支えているロケ弁、ぜひお試しを。
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文・写真/市村幸妙
いちむら・ゆきえ。フリーランスのライター・編集者。地元・東京の農家さんとコミュニケーションを取ったり、手前味噌作りを友人たちと毎年共に行ったり、野菜類と発酵食品をこよなく愛する。中学受験業界にも強い雑食系。バンドの推し活も熱心にしている。落語家の夫と二人暮らし。