映像やテレビ、出版や広告、イベントや舞台など、様々な制作の現場で、出演者やスタッフの胃袋を支えているのが「ロケ弁」だ。2024年6月10日の“ロケ弁の日”には、「第1回 日本ロケ弁大賞」の授賞式が東京都内で開かれ、大賞と…

映像やテレビ、出版や広告、イベントや舞台など、様々な制作の現場で、出演者やスタッフの胃袋を支えているのが「ロケ弁」だ。2024年6月10日の“ロケ弁の日”には、「第1回 日本ロケ弁大賞」の授賞式が東京都内で開かれ、大賞と金賞のロケ弁計10品が決まった。我々一般人にはなかなか馴染みのないように思えるが、ロケ弁はもちろん普通に買える。業界関係者の声を交えながら、今回選ばれた10品の魅力に迫る。

なぜロケ弁に馴染みがある気がするのか

お笑い芸人・バカリズムのインスタグラムを見るのが好きだ。各番組などで出されたロケ弁が投稿されている。詳細の記述が少ないので、「あのお店かな」「どこのお店?」なんて考えるのは、ちょっとしたクイズみたいで楽しい。

いったい、ロケ弁にはどんなお弁当があるのだろう。日頃の疑問に答えてくれたのが、「第1回 日本ロケ弁大賞」だった。

同賞は、お弁当のデリバリーサービス「くるめし弁当」を運営する「株式会社くるめし」の協賛で実施。選考に際し、2024年4月1日から5月19日まで「ロケ弁大賞にふさわしいと思うお弁当」について、インターネット投票が行われ、番組やイベント制作などで日常的にロケ弁を食べている関係者を中心に、くるめしのユーザーや各弁当店からも意見が集まった。

投票で挙がったお弁当は全265種類。ネットでの得票数と品評会を経て選考が行われ、大賞1品と金賞9品の計10品が決まった。

栄えある初代大賞は、芸能人御用達とも言うべき、都内の人気カレー店のロケ弁だった。『オーベルジーヌ』のビーフカレー(1296円)だ。

『オーベルジーヌ』 実は倒産の危機だった!?

盾が贈呈された

『オーベルジーヌ』は1987(昭和62)年、東京・四谷にカレーのレストランとしてオープン。「ロケ弁はここのカレーが好き」と公言する芸能人は多く、まさに、ロケ弁の中のロケ弁と言ってもいいだろう。

当時、近くには、フジテレビや日本テレビ、文化放送などの社屋(現在はいずれも移転)があり、ある時にテイクアウトの要望があったことから、宅配を始めたという。1992(平成4)年頃のことだ。先代店主がフジテレビ内でチラシを配ったところ、多くの注文が舞い込んだことが、ロケ弁として認知されるきっかけになったらしい。

ただ、ロケ弁としての認知度は年々高まっても、お店としての経営は必ずしも順調でなかったという。3代目の高橋祐介さん(※「高」は、はしごだか)によると、跡を継いだおよそ20年前は、倒産寸前の状態だったらしい。

状況を好転させるために、まず始めたのは、この看板商品の見直しだった。さらに、いいものにしようと、原材料のグレードを上げたり、スパイスなどのレシピを変えたり。

カレーソースの大幅にアップデートするとともに、それまでは新宿区や渋谷区など4区のみで配達を行っていたが、代理店を入れることで、一都三県へとエリアを一気に広げた。

もともと、テレビなどでの露出が高かったこともあり、次第に経営も上向き、当時の売上に比べ12倍も伸ばすことができた。

現在、四谷の店舗は基本的に宅配とテイクアウトのみ。2024年4月には、東京駅構内の商業施設「グランスタ東京」にテイクアウト専門店をオープンし、さらに手が届きやすいロケ弁に。当初、出店は考えていなかったそうだが、高橋さんは「東京駅は出店場所として最高峰。そこで売れれば、弁当屋としてはある意味成功したと言えるかなと思った」と、意図を説明する。

「冷めても美味しい」が最大の魅力

このビーフカレーの特徴は、なんといっても、冷めていても美味しいこと。そもそも、お弁当なので、店舗で出されるカレーライスのように、熱々の状態で食べる機会は少ない。

では、なぜ、美味しさを保てるのか。

「牛肉の出汁をしっかりと取っており、その旨みがあるため」と、高橋さん。

加えて、欧風カレーなので、冷めると小麦粉は固まったり、ベタついたりしやすいが、バターや牛肉の油分をしっかりと撹拌させることによって、小麦粉の間に油分が入り冷めた時にもやわらかく、食べやすいようにしているのだという。

もちろん、作り手としては、「できれば温めて召し上がっていただきたい」(高橋さん)のが本音だ。

ただ、以前、テレビ局に電子レンジをサービスで持っていったが、誰も使わなかったという。温めている時間もないほど忙しいという見方もできるが、きっと、常温や冷めた状態でも、充分美味しいことを分かっているからだろう。

ちなみに筆者は、いただいたお弁当を半分は冷たいままで、残りは温めて試食。温めることでスパイスはより香りが開き、ご飯も美味しさがアップ。付け合わせの、丸ごとふかしたジャガイモもホクホクさが増すので、両方を試してみてもいい。

ゴロリと大きなビーフが入る
受賞者のみなさん

受賞した全10品をご紹介!

授賞式では、元ディレクター・放送作家でロケ地検索サイトを運営する株式会社ロケグー代表取締役の稲田爽(いなた・そう)さんと、フリーアナウンサーで株式会社 comipro 代表取締役社長の櫻井知里さんが登壇。2人とも、選考に携わった品評者(計6人)だ。

稲田さんは、「ロケ弁はテレビ業界にとって、切っても切れないものであり、番組を作る上で欠かせない存在。ロケ弁があるから日々の仕事を頑張ることができ、大変な仕事も乗り越えられた。支えてくれたロケ弁業界に少しでも恩返しできたら」と大賞の趣旨に触れ、

櫻井さんは、「ロケ弁の時間は至福のとき。当たり前のようにロケ弁をいただいていたが、その当たり前がみなさんの努力の結果なのだと改めて感動し、感謝している。出演者がどれだけ喜んでいるか、その思いを今回の『ロケ弁大賞』を通じて届けられたらうれしい」とロケ弁への愛情を交えて挨拶した。

大賞と金賞のお弁当は以下の通り。稲田さんと櫻井さん両名のコメントを交えながら、特徴を紹介する

【大賞】(1品)

■『オーベルジーヌ』(東京都新宿区)「ビーフカレー」(1296円)

『オーベルジーヌ』(東京都新宿区)「ビーフカレー」(1296円)

【特徴】1897年創業の欧風カレーの店。弱火で3日間煮込んだ玉ネギブイヨンをベースとし、バターと生クリームで仕上げた甘味と酸味と旨味が味わえるオリジナルカレー。大ぶりにカットされた国産牛のバラ肉は、ほろほろになるまで煮込まれている。

稲田さん:(10品とも)甲乙つけがたかったが、どんな現場でも絶対に外さない、大賞にふさわしいロケ弁。自分自身、業界に入る前から知っていた。このロケ弁を食べて業界人になったと感じた経験を持つスタッフや演者も多いのではないか。

櫻井さん:カレーのロケ弁といえば、すぐに思い浮かぶのがこの「オーベルジーヌ」。個人的には撮影が終わった後に「今日は頑張った!」といただく、ご褒美弁当として楽しんでいる。

【金賞】(9品)

■『浅草今半』(東京都台東区)「牛玉重」(1080 円)

『浅草今半』(東京都台東区)「牛玉重」(1080 円))

【特徴】1895年創業のすき焼きが名物の老舗。秘伝の割り下で煮上げた黒毛和牛とともに、肉の旨みが凝縮したタレでふんわりと仕上げた玉子と玉ネギをご飯の上に盛り付け。やさしい味わいで人気。

稲田さん:現場で「今日のロケ弁は『今半』」と聞くと、制作スタッフはもちろん、出演者も喜んでくれて、全体の士気が高まる。遠目から見ても「今半」だとわかるデザインも魅力。

■『五つ星のり弁 坊々樹(ぼうぼうじゅ)』(東京都墨田区)「鮭ハラス塩焼き弁当」(1080円)

『五つ星のり弁 坊々樹(ぼうぼうじゅ)』(東京都墨田区)「鮭ハラス塩焼き弁当」(1080円)

【特徴】1971年創業の和食店。脂ののった鮭ハラス焼きと鶏もも肉の塩麹焼きが載った海苔弁。冷めてこそ美味しいご飯と全体的に濃口で飽きのこない中身のバランスを追求。

櫻井さん:脂がのった鮭ハラス、ジューシーな鶏モモ肉のおかずが素晴らしい。おかずとご飯のバランスも抜群。ボリュームがあるので、しっかりといただきたい時の活力になる。

■『喜山(きざん)飯店』(東京都杉並区)「お弁当 A」(1134 円)

『喜山(きざん)飯店』(東京都杉並区)「お弁当 A」(1134 円)

【特徴】中国人コックによる本格中華のデリバリー・テイクアウト専門店。おかずの内容は週替わりで、メイン2品のうち1品を選択する。写真のメインメニューはエビチリで、固定メニューは、カシューナッツと鳥肉の炒め、キクラゲタマゴ、麻婆茄子。

稲田さん:中華のロケ弁といえば「喜山飯店」。ボリューム満点でガツンとインパクトのあるお弁当。男女を問わずファンも多く、スタッフ同士で好きなおかずについての話が盛り上がる。

■『京香』(本社・東京都中野区)「【1メイン】銀鮭西京漬け 2段弁当」(1080円)  

『京香』(本社・東京都中野区)「【1メイン】銀鮭西京漬け 2段弁当」(1080円)

【特徴】渋谷店、神田店、四谷店、赤坂店の4店舗を展開する1998年創業の宅配弁当専門店。甘辛タレで焼き上げた銀鮭西京焼きと彩り豊かな惣菜はご飯との相性も抜群。

櫻井さん:今回唯一の2段弁当。自分のタイミングでおかずだけ食べたいというときに2段になっているとありがたい。メインの鮭の塩加減も絶妙で美味しい。

■『SOMY’S DELI』(東京都葛飾区)「8種野菜のザクザクゴマ醤油サーモン弁当」(864円)

『SOMY’S DELI』(東京都葛飾区)「8種野菜のザクザクゴマ醤油サーモン弁当」

【特徴】デリバリー・テイクアウト専門の弁当店。骨取りした大きなサーモンにザクザク食べる自家製のゴマ醤油を載せている。たっぷりの野菜が添えられており、バランスの良さも魅力。

稲田さん:ロケ弁が続くと栄養が偏りがちで、野菜を摂りたいと感じているスタッフは多い。新鮮な野菜がたくさん入っている弁当は少ないこともあり、重宝している。

■『おにぎりチャカス』(本社・東京都渋谷区)「おにぎり2個+惣菜3種類セット」(520円)

『おにぎりチャカス』(本社・東京都渋谷区)「おにぎり2個+惣菜3種類セット」(520円)

【特徴】“東京海苔巻”や天むすなど様々な業態の宅配・デリバリー専門店のおにぎり店。都内に4店舗を展開。「シンプルだからこそ、毎日でも食べられる」を標榜するおにぎりのセットで、選べるおにぎりの具材は20種類以上。お米は山形県産「ひとめぼれ」で、一つひとつやさしく手で握っている。

櫻井さん:おにぎりのサイズ感もほどよく、早朝などでも食べやすい。入っているおかずのバランスもよく、出演者からも喜ばれている。

■『塚田農場 おべんとラボ』「絶品!塚だまタルタル若鶏のチキン南蛮弁当」(900円)

『塚田農場 おべんとラボ』「絶品!塚だまタルタル若鶏のチキン南蛮弁当」(900円)

【特徴】宮崎の郷土料理が堪能できる『塚田農場』の弁当専門部門。若鶏をご飯が進む甘酢で味付けし、オリジナル卵をたっぷり使用したタルタルソースのチキン南蛮がメインの人気No.1メニュー。駅ナカや百貨店などでも展開。東京23区を中心に、横浜や川崎、千葉、さいたまなどで配達。

稲田さん:業界の人なら誰でも一度は食べたことがあるだろう定番弁当。チキン南蛮が絶品でファンも多い。遠目から見てもひと目でわかるパッケージも良い。

■『とんかつまい泉』(本社:東京都渋谷区)「ヒレかつサンド」(453 円)

『とんかつまい泉』(本社:東京都渋谷区)「ヒレかつサンド」(453 円)

【特徴】1965年創業のとんかつ店。やわらかなヒレカツ、ふわふわのパン、野菜と果物を挽きたてのスパイスと煮込んだ秘伝ソースを使った看板商品。全国の百貨店、駅ビル、スーパーなどで店舗を展開している。

櫻井さん:本番前はしっかり食べられない場合もある。そんなときにありがたいのが、この「ヒレかつサンド」。今回品評会で改めて食べてみて、ソースの旨みやカツの美味しさを特に感じた。

■『海苔弁いちのや』(本店・東京都千代田区)「名物海苔弁」(1200 円)

『海苔弁いちのや』(本店・東京都千代田区)「名物海苔弁」(1200 円)

【特徴】都内の他、横浜や仙台、京都、福岡などで15店舗をする海苔弁店。日本全国から厳選したこだわりの食材を使用し、すべてのおかずが主役になるように作り上げた海苔弁。

稲田さん:おかずやご飯、海苔へのこだわりが随所に感じられ、海苔弁としての完成度が本当に高い。大きなちくわの磯辺揚げは揚げたてサクサクの食感が残っていて、品評会でも話題になった。

3種類のお弁当をいざ実食!

授賞式では、お弁当を実際に食べる機会もあった。筆者の個人的な感想だが、参考にしてくださったら幸いだ。

■『おにぎりチャカス』「おにぎり2個+惣菜3種類セット」(520円)

『おにぎりチャカス』「おにぎり2個+惣菜3種類セット」(520円)

「梅」や「生姜こんぶ」、「大葉みそ」など、計24種類から2種のおにぎりをセレクトできる中で、「ごま鮭」と「たらマヨ」をチョイス。おかずは特製唐揚げ1個、しゅうまい1個、だし巻き玉子1切れが入っている。

おにぎりは、ふんわりとした握り加減で、山形県産ひとめぼれを100%使ったというお米が艶やかでとても美味。

「ごま鮭」の鮭はおそらく、フレークなどではなく、ちゃんと焼いてほぐしているのではないか。お魚を食べている満足感がある。鮭&ゴマとの相性の良さと絶妙な塩加減も感動。

「たらマヨ」はマヨネーズの主張強めの親しみやすい味。好きな人はきっと多いだろう。

ふわふわのだし巻き玉子は、しっかりときいたダシがじゅわっと出てきそうなほど。甘み少なめなのも個人的に好き。お肉と玉ねぎの甘さが引き立つ焼売や醤油の風味が強めの唐揚げも魅力的。

全体的にやさしい味付けでホッとする。櫻井さんが早朝ロケでこのお弁当があると心強いと言っていたのが理解できた。

■『海苔弁いちのや』「名物海苔弁」(1200 円)

『海苔弁いちのや』「名物海苔弁」(1200 円)

蓋を開けるとご飯が見えないほどのおかずに覆い尽くされている感じ、その間をぬって食べるご飯と海苔の香り高さにテンションが上がる。

お米にもち麦が混ざっており、プチプチとした食感が楽しい。ご飯と海苔の間に仕込まれた鰹節の風味もよく、底にさりげなく敷かれてある海苔にも思わず笑みがこぼれてしまう。

ふわふわに揚げられた魚のフライや品評会でも好評を得たちくわの磯辺揚げなど、揚げ物の出来が白眉だ。鶏肉は味噌の甘みと酸み、旨みが引き立つ。

おかずは“すべて主役級”を標榜するだけあって、全体的に味がしっかりしており、ご飯がグイグイと進む。個人的には薄味好みなので、おかずは取っておいて晩酌のアテにしたいと思った。

レンチンしたら、ご飯がふわふわでより美味しくなった。おかずも然り。自宅で食べられる方は絶対にレンジアップしてみてほしい。

■『オーベルジーヌ』「ビーフカレー」(1296円)

『オーベルジーヌ』「ビーフカレー」(1296円)

甘口だったこともあり、弱火で3日間じっくり煮込んだという玉ねぎブイヨン、バターと生クリームの甘みがまずガツンとくる。食べ進んでいくうちにスパイスが爽やかにきいてきて、クセになる味わいだ。大きくカットされた牛肉が3切れ入り、食べ応え十分。

バターと香辛料、牛肉ダシで炊いたというライスは、そのままで食べてみたらカルダモンなどの香りが感じられ、とてもリッチ。添えられたホクホクのじゃがいもとバターも魅力的で、唯一無二の味わいだと改めて感じる。

大賞の評価に、納得だ。

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文・写真/市村幸妙
いちむら・ゆきえ。フリーランスのライター・編集者。地元・東京の農家さんとコミュニケーションを取ったり、手前味噌作りを友人たちと毎年共に行ったり、野菜類と発酵食品をこよなく愛する。中学受験業界にも強い雑食系。バンドの推し活も熱心にしている。落語家の夫と二人暮らし。