鍵は“言語化”にあり 本好き芸人・ティモンディ前田裕太が考える「自分の“好き”を伝える方法」
「目指せ、理想の大人」をメインテーマに掲げて始まった、「ティモンディ前田裕太の“おとな”入門」。自身の経験や見聞きしたエピソードから思考を広げてきた「コラム形式」から、次のステップへと進みます!
その内容は、「お悩み相談」です。これまで約1年半のコラム連載を通して、食・あそび・勉強・旅…と、様々なテーマで「(理想の)大人とは?」について考え、目指してきた (そしてこれからも目指していく)前田さん。その経験を生かした視点で、皆さんから寄せられたお悩み相談に答えていきますよ◎第30回の今回は、自分が好きな物を、胸を張って「好き」と言えるようになるには?というお悩みです。
[今回のお悩み]
「本は好きだけど、同じ作家・作品ばかり読んでしまいます。読書の幅を広げて、胸を張って『本が好き』と言えるようになりたいです」
本を読むのが好きです。
好きなのですが、好きな作家や作品を繰り返し読んでしまいます。
もちろんそれも楽しいのですが、幅広いジャンルを読んで、胸を張って「本好き」と言えるようになりたいです。新しい作家や作品に出会いたいという気持ちも大きいです。
書店に行ってもみるのですが、面白そうな本がたくさんあり、どこから手に取ろうか迷ってしまいます。
前田さんは、いつもどうやって読む本を探していますか?また、最近読んで面白かった本があれば教えてください。
わたしは普段、純文学系をよく読みます。ミステリーにも挑戦し始めました。
(20代・学生)
詳しくなくても、胸を張って「好き」と言っていい
他人に胸を張って好きと言える趣味って難しいですよね。
好きって言って「え、それくらいしか知らないの?」とニワカ認定されるのも辛いですし。
もしも相談者の方が「本が好き」という大きなジャンルを口にするのが憚られるのであれば、好きな作家さんの造詣の深さがあるといいですね。
そのご自身が感じている魅力を言語化できれば、今の状態でもきっと胸を張って他人にも趣味を誇れるはず。熱量があるものって、どんなものでも聞いていて楽しいですから。
けど、1つ勘違いして欲しくないのは、趣味は自分が楽しめればそれでいいものなんです。
誰かが納得しなければ趣味とは言えない、詳しくなければ趣味とは言えない、ニワカはダメだなんてものではないですからね。最初は誰しもニワカですし。
その趣味への造詣がどれだけ深くなくとも、本来は構わないんです。人生を豊かにするのが趣味なので、自分軸で考えていいものだと思います。
仕事と違って、責任がないのが趣味の良いところですし。
森見登美彦の養子になりたい
僕は本が好きですが、自ら相談者の方へ提示したように好きな作家さんの魅力について語ってみようと思います。
僕は小説家でいうと、森見登美彦先生が好きです。
お話そのものもそうですし現実とファンタジーのちょうど間を書く世界観も、少し穿った見方をする人物達も好き。
そして何より文体がたまりません。
例えば、四畳半神話大系でいうと書き出しから痺れます。
『大学三回生の春までの二年間、実益のあることなど何一つしていないことを断言しておこう。異性との健全な交際、学問への精進、肉体の鍛錬など、社会的有為の人材となるための布石の数々をことごとくはずし、異性からの孤立、学問の放棄、肉体の衰弱化などの打たんでも良い布石を狙い澄まして打ちまくってきたのは、なにゆえであるか。
責任者に問いただす必要がある。責任者は何処か。』
どうですか、これだけで白米3杯食べれるでしょう。
そらで唱えることができるほど、何度も読んでいます。
ここまで凝っている文章なのに、読みやすい。それでいて、主人公の性格がすぐ分かる。
怠惰に身を任せているのに、ここまで他責的な登場人物はそういない。けれど、愛おしさがある主人公。
脳が痺れます。
こんな濃い味の文章が作品でずっと続くんですよ。
この四畳半神話大系は、もう何回読み返したか分かりません。僕にとっての聖書です。
ガムは噛めば噛むほど味がしなくなるのに、文章は何度でも味がする訳ですから、こんな作品を世に残してくれて、本当に感謝です。
願いが叶うのであれば、森見登美彦さんの養子になりたいと思います。
好きなものへの想いを「言語化」できる?
気持ち悪いでしょう。分かっています。
それでも、好きな物、好きな人への想いはいくらでも分解して言語化できる訳です。
こんな人間が「趣味は本で、特に森見登美彦さんを敬愛しています」と口にしていたら「そりゃそうだろうな」と思われるんですが。
他人に恥ずかしげもなく趣味を口にできるようにしたいのであれば、この言語化が鍵になるような気がします。
せっかく好きなものがあるのだから、誰かの目を気にして口にするのが憚られるのは勿体無い。そこまで熱量があるものは、幸せなことですし。
誰に対しても胸を張って「好き」と言えるようになると良いですね。
前田裕太流“本の選び方”
僕は、本屋さんで本を眺めるのが好きなので、目についたものを手にとるようにしています。時代小説やエッセイ、コラム、SFから純文学まで、こだわらずに買っています。
そうすると、もちろん自分の感性には合わない作品もある訳ですが、逆に面白い!と思う発見もあるんです。
最近だと、ショーペンハウエル著の「知性について」を読んでいます。こればっかりは他人に勧めるようなものではなくて自分が興味を持って手にとった本なので、少し哲学色が強くてハードな内容になっていますが、色々なジャンルを手にとることで、新たな発見があるのは間違いありません。
是非、相談者の方も、自分の好きな作家さんや作品の言語化を図ったり、色々な作家さんの作品を食わず嫌いせずに巡ってみてもらって、胸を張って本が好きと言えるようになってもらいたいです。
「好き」と「詳しい」は比例しない〜担当編集者からのひとこと〜
「好き」と「詳しい」は、似て非なるものだなあと思う場面が多くあります。
例えば、私は餃子が好きなのですが、「こだわる力」と「記憶する力」が弱いので、まったく詳しくありません。
餃子は、「好き」と言うと「じゃあ、あの店行ったことある?」と聞いてもらうことが多いのですが、「ある」と答えられたことはほとんどありません。後から調べたら、行ったことがあったのに覚えていなかっただけ、ということもあります。
でも、小学生の頃、夕飯に餃子が出れば、特大サイズを15個平らげ、いまでも家の冷凍庫には必ず冷凍餃子をストックし、コンビニでご飯を買おうとすると、自然と餃子を探しています。
ニンニクが入っていた方がご飯やお酒には合うかなあという気がしなくもないですが、別に入っていなくても大好きです。餃子に対して、「こうであってほしい」というこだわりは一切ありません。
たくさん美味しいお店を知っているけれど、「餃子は皮が薄めでパリパリ、ニンニク入りで野菜多めじゃないと」などとこだわりが強い人と、お店にはまったく詳しくないけれど、「餃子が餃子であればいい」という私と、一体どっちが胸を張って「餃子が好き」と言えるのか……。
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前田裕太(まえだ ゆうた)
1992年8月25日生まれ、神奈川県出身。愛媛県の名門、済美高校野球部の同期である高岸宏行とのお笑いコンビ「ティモンディ」のツッコミ担当。趣味はサッカー観戦、読書。テレビ番組で画力を披露したり、複数メディアでコラムを執筆するなど、マルチな活動で注目を浴びている。
ティモンディ
高岸宏行・前田裕太によるお笑いコンビ。コンビ結成は2015年、グレープカンパニー所属。高岸のポジティブなキャラクターや、二人の野球経験と身体能力などがバラエティ番組で引っ張りだこに。コンビの野球経験をいかしたYouTubeチャンネル『ティモンディチャンネル』の登録者数は約28万人。