飲食店が「注文用タブレット」導入で客数&売り上げ減は本当? “真偽”を飲食店コンサルタントに聞いてみた
近年、人手不足や業務効率向上を理由に、ファミリーレストランや牛丼店などの飲食店が、注文用のタブレット端末を客席に設置するようになりました。客にとっても、店員を呼ばずにすぐに注文できるというメリットがありますが、中には端末の使い方がよく分からず、店員を呼び、口頭で注文をする客もいます。
注文用のタブレット端末を導入する飲食店が増えていることについて、SNS上では「人手不足なんだな」「タブレットで注文できるのはうれしい」という声のほか、「飲食店がタブレット端末を導入してから、客数や売り上げが減ったのでは?」という内容の声が上がっています。
飲食店が注文用のタブレット端末を導入して以降、客数や売り上げが減少傾向にあるのは本当なのでしょうか。飲食店専門経営コンサルタントの成田良爾さんに聞きました。
「客数」「売り上げ」減の飲食店が増加
Q.まず、飲食店が注文用のタブレット端末を導入するメリット、デメリットについて、教えてください。
成田さん「飲食店が注文用のタブレット端末を導入することで、店員が注文を取る作業が減るため、作業効率が向上します。また、タブレット上でメニューを表示できるため、メニューを替えるたびに紙でメニューを制作する必要がなくなります。これらによって、労働力不足の解消のほか、人件費・販売促進費などのコスト削減というメリットが生まれます。このほか、注文データの収集や在庫管理にも有効です。
デメリットは何といっても導入コストでしょう。定期的なメンテナンスやアップデートも含めた導入費用が必要です。また、デジタル機器の操作が不慣れな客からは不評を買う可能性があるでしょう」
Q.SNS上では、「飲食店が注文用タブレット端末を導入して以降、客数や売り上げが減ったのは?」という内容の声が上がっています。実際にそういった傾向はあるのでしょうか。
成田さん「飲食店が注文用タブレット端末を導入後、どのような影響が出るかは、飲食店の営業状況や既存の客層などによって異なりますが、客数や売り上げが減ってしまった飲食店が増加傾向にあるのは事実です。
私が経営するコンサルティング会社に対しては、注文用タブレット端末の導入後に客数や売り上げが減ってしまったという相談が増えています。近年の飲食店は深刻な労働力不足なため、デジタル技術を活用してビジネスやサービスの効率化、変革化を図る、いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいます。
しかし、安易な注文用タブレット端末の導入は客離れを引き起こす場合もあるため、慎重に検討する必要があります」
Q.飲食店では、高齢の人がタブレット端末の使い方がよく分からず、店員を呼んで口頭で注文を依頼するケースも見受けられます。この場合、客が不便に感じてリピートしない可能性はあるのでしょうか。店側の負担も踏まえて、教えてください。
成田さん「高齢の人も含め、デジタル機器の操作に不慣れな人が注文で不便さを感じた場合、その体験が悪い印象として残り、リピートしない可能性はあると思います。特にデジタルリテラシーがそれほど高くない人が多い地域では、著しく客が減る可能性もあります。
また、客が店員を呼び、口頭で注文を依頼するケースが多い場合、他の業務に支障を来す可能性も大いにあるでしょう。この場合、タブレット端末導入の目的の一つである『効率化』のメリットがなくなると考えられます」
Q.ちなみに、注文用のタブレット端末を導入していた店が機器を撤去し、店員が直接、客の注文を聞くスタイルに戻したとします。この場合、店にとってどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。
成田さん「注文用のタブレット端末を撤去し、店員が直接、注文を聞くスタイルに戻すことで、客との直接的なコミュニケーションにより、細やかな対応ができるようになり、顧客満足度の向上や柔軟な対応が可能になります。
しかし、作業効率低下や人件費の増加、労働力不足などのデメリットも出てきます。効率を優先してDX化を進めれば客とのコミュニケーションが少なくなり、客とのコミュニケーションを優先して人が人をもてなすサービスにすれば、効率が悪く、人件費もかかります。
飲食店はターゲットの客層や立地条件、競合他社などを考慮し、『タブレット端末を導入してDX化を進め、業務効率を上げる』『タブレット端末を導入せずに、客とのコミュニケーションを重視する』のどちらの方向性が適しているかを慎重に判断することが重要です。
また、販売管理費が高くなるため一定の条件付きにはなりますが、双方の利点を生かしたハイブリッドな飲食店経営もありだと私は考えます」