近年のスイフトなどと同じく「走り」の良さが光るクルマだった

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2024年秋ごろの発売が予定されているフロンクスの日本向けプロトタイプに試乗した(筆者撮影)

スズキの新型コンパクトSUV「フロンクス」の日本仕様プロトタイプを、静岡県内のクローズドエリアで走らせた。

フロンクスは、スズキがインドで生産し、インド国内のほか、中南米、中近東、アフリカ等ですでに販売しているグローバルカーだ。

今回は日本仕様プロトタイプのため、ボディ寸法は公開されていないが、例えば南アフリカ仕様では、全長3995mm×全幅1765mm×全高1550mm、ホイールベースは2520mmとなっている。日本仕様も、ほぼ同等であろう。

外観デザインについて、スズキは「SUVの力強さと流麗なクーペスタイル」と説明する。


存在感があるがトヨタ「ヤリス クロス」やホンダ「WR-V」よりも全長は短い(筆者撮影)

このクーペスタイルという言葉が、さまざまな面でフロンクスの商品性を表現していると感じる。

商品企画やテクニカルな面の説明は後回しにするとして、まずは試乗の感想からお伝えしたい。最初に乗ったのは、前輪駆動車(FF)モデルだ。

素直に「楽しい」と思える走り

ドライバーズシートに座ると、なるほどクーペの雰囲気が強い。ダッシュパネルは水平基調で、ドライバーには“囲まれ感”がある。

前方視界は広々というより、クーペとしてのスポーティ性が先行する印象。ただし、決して車内空間が狭いという気持ちにならないし、前方や側方に対する見切りについてもクーペとしては十分だ。


質感にも気を配られたことがわかるインテリアは、スイフトなどにも通じるデザイン(筆者撮影)

パワートレインは、1.5リッターのガソリンエンジンで、比較的静かに始動した。1周約5kmの起伏が激しいワインディングコースに入る。

強く感じるのは、ステアリングの手応えである。クーペといえども、このサイズのSUVであれば、もう少しソフトなステアリングのフィーリングを予想してしまうが、実際にはしっかりとした手応えがあり、素直に「運転が楽しい」と思う。

【写真】コンパクトでも存在感は抜群!フロンクスのデザインを見る

コーナーへの進入は、クルマのサイズ感とハンドリングとの実感のズレがなく、無理にコーナーへ向かってまわり込むようでもない、実に自然な旋回をする。またコーナーの出口でも、リアがしっかりと付いてくる動きだ。

ロール量も適度で、タイヤに頼って旋回しているのではなく、サスペンションが有効的に作動する、いわゆる「足がよく動く」クルマに仕上がっている。

開発者によると、サスペンションの狙いは「後席の乗り心地と直進安定性の両立」だという。


フロンクスの後席は居住空間も悪くなく、快適さを感じる(筆者撮影)

SUVでもクーペスタイルの低重心を生かして、タイヤ、コイルスプリング、ショックアブソーバー、電動パワーステアリングを日本の路面に合わせてチューニング。

それにより、レーンチェンジやコーナーリング時のロール、荒れた路面での乗員の揺れを抑えつつ、マンホールや橋の継ぎ目のような段差通過時のショックを低減した乗り心地を実現している。また、直進走行時のステアリングの中立位置がわかりやすく、安心感のある操舵力特性も得ている。

こうした走りの良さは、フロンクスだけで成立するものではない。「スイフト」など、走りの良さに定評のあるスズキ各モデルで培った知見が、脈々と受け継がれ、実現したものだ。

バレーノでの反省を生かして

次いで、4輪駆動モデルに乗った。後輪に駆動力を伝えるドライブシャフトなどによる重量増があるため、上り坂ではFF車と比べて、トランスミッションがキックダウンするタイミングが、若干早いようだ。だが、クルマの動き全体としてみれば、決して重ったるい印象はない。


プロトタイプではFFモデルと4WDモデルで外観に差異はないようであった(筆者撮影)

コーナーリングでもFF車と同様、実に素直に旋回するし、エントリークラスの4輪駆動にありがちな、ステアリングの抵抗感が増す感触もない。あくまでも、ハンドリングの手応え感が、しっかり出ている。

こうした日本向けのチューニングが的確に行えるのは、クルマとしての「素性の良さ」があってこそだ。

フロンクスの開発総責任者である、商品企画本部 四輪B・C商品統括部チーフエンジニアの森田祐司氏に話を聞くと、2016年から2020年まで日本で発売された、インド生産の「バレーノ」の話が出た。

同氏はバレーノの開発も担当しており、日本でのバレーノは販売が伸びなかったことを反省点として挙げた。


お話を伺ったチーフエンジニアの森田祐司氏(筆者撮影)

インドではちょうどいいサイズのハッチバック車で走りも良かったが、日本では予防安全技術における「乗って安心安全」の観点での装備が不十分だったと分析する。クルマとしての素性は良くても、日本市場での特性にマッチしなかったのだ。

バレーノは2022年にインドでフルモデルチャンジを実施し、日本導入についても検討したが、2020年代に入ってからの日本は、200万円台のコンパクトSUVが拡大市場に。そこで、新型バレーノではなく、2023年にグローバルモデルとして登場したフロンクスを日本向けにチューニングして投入することを決めた。

2代目バレーノとフロンクスは、基本構造を共有しながらデザインによってハッチバックとクーペスタイルSUVに振り分けた形だ。販売国によって、パワートレインの違いがある。


フロンクスと基本メカニズムを共有する2代目バレーノ(写真:スズキ)

そうはいっても、グローバルモデルを販売する国や地域に応じて作り分けることは難しい。それについて森田氏は、「地域環境の違いは、ユーザーの(商品に対する認識の)違い。日本では初代バレーノでの反省を生かして、日本でも求められることを(改めて)意識した」と、日本での再挑戦の背景を明らかにする。

走りのコスパは極めて高い

日本のユーザーや販売店は、軽自動車というコストパフォーマンスが極めて高い商品に触れているため、コンパクトSUVに対する評価基準のハードルも高い。そうした日本での需要を、円安の今、インド生産車をベースに作り上げることの難しさがある。

最後に改めて、プロトタイプを試乗した感想をまとめておこう。低速で走っても少しペースを上げて走っても、実に取り回しが良く、クルマの動きの先読みができるため、ドライバーの疲れが少ない印象だ。

さらにいえば、クルマの基本特性である「走る・曲がる・止まる」の構成要因である、車体、サスペンション、タイヤ、エンジン、トランスミッションの能力を、可能な限り幅広く引き出していると感じられた。


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そうした走りの観点から、フロンクスはコンパクトSUVとして「コスパがとても良い」と言えるだろう。販売を終了した「エスクード」や「SX4 S-CROSS」ユーザーの受け皿となるだけでなく、新たな客層を開拓する実力は持っている。

今後、発表される価格についても、ライバルとの競争が激化する国内コンパクトSUV市場において戦略的なものとなることを期待したい。

【写真】改めて新型フロンクスのデザインを詳しく見る

(桃田 健史 : ジャーナリスト)