1961年式レトロで可愛すぎるキャンパーの正体
1961年式のキャンピングカー「ベッドフォード・CA ドーモビル」の外観(筆者撮影)
近年、需要が伸びるキャンピングカーの中でも、とくに注目されている装備のひとつが「ポップアップルーフ」。屋根を上方に開くことで、まるで自動車の上にテントを置いたかのような形状となり、就寝スペースを確保できることが魅力だが、そんなポップアップルーフを装備したクラシック・キャンピングカーを発見。それが1961年式の英国製モデル「ベッドフォード・CA ドーモビル(Bedford CA Dormobile)」だ。
ポップアップルーフといえば、日本でも、商用バンやミニバン、軽自動車など、さまざまな車種をベースにしたキャンピングカーに採用されていることで、今や定番と呼べるほどの人気装備。それをなんと、60年以上前に製造された英国製モデルに採用しているのは驚き。さらに、助手席や後席はさまざまなシートアレンジも可能で、現在のキャンピングカーが持つ内装装備を当時から実現していることも注目だ。
そんなベッドフォード・CA ドーモビルを、ヘリテージカーの展示会「オートモビルカウンシル2024」(2024年4月12〜14日・幕張メッセ)で取材したので、詳細を紹介しよう。
【写真】1961年式、今から60年以上前に製造されたポップアップルーフを採用したキャンピングカー「ベッドフォード・CA ドーモビル」の詳細をチェックする(25枚)
ベッドフォード・CAドーモビルとは
レトロで愛らしいフェイスデザインや、アコーデオンのように上方へ展開するポップアップルーフなどで一際目を惹くのが、ベッドフォード・CA ドーモビルだ。展示したのは、ヘリテージカー販売店の「Classic Camper Japan by RANGERS」。レンジローバーなど欧州車を中心に輸入販売を手がけるレンジャーズが運営するクラシックキャンパー部門だ。
後ろから見たベッドフォード・CA ドーモビル(筆者撮影)
筆者は、このモデルをはじめて見たが、それもそのはず、「日本には、ほとんど輸入されていない超レアなキャンピングカー」なのだという。同社の担当者によれば、ベース車両の名前がベッドフォード・CA。これはベッドフォードというメーカーが英国で1960年代末頃まで製造していたCAという車名の商用バンで、国産車でいえば、トヨタ「ハイエース」のようなクルマだ。それをベースに、ドーモビルという現地のコーチビルダー(キャンピングカー製造メーカー)が製作したのがこのモデルとなる。
ちなみに完成車メーカーのベッドフォードは現在消滅したため、ベース車の後継モデルなども今は存在しない。一方、コーチビルダーのドーモビルは、1973年から続く老舗で、現在でもポップアップルーフ仕様のオリジナルモデルなどを製造しているようだ。
装備の特徴
ベッドフォード・CA ドーモビルのインテリア(筆者撮影)
そんなベッドフォード・CA ドーモビルだが、レッド×ホワイトの2トーンカラーの外装は、あまりヤレた感じもなく、とても約60年前の車両とは思えないほどだ。また、内装は、2列の前後シートにブラウンレザーとホワイトのパイピングをあしらうことで高級感も満点。一方、ドア内張や室内の壁などには、ちょっと赤みが強いブラウンレザーを張り、表面にはダイヤモンドステッチも施している。これらは、いずれも擦れや傷などもなく、レトロな雰囲気こそあれ、古さをまるで感じさせない。
さらに、このモデルは、シートアレンジ機能を持つことも特徴だ。助手席は180度回転させることで、停車時に後席と向かい合わせにできるほか、横スライドなども可能。また、1・2列目の背もたれを倒せば、フラットな就寝スペースにすることもできる。そして、ポップアップルーフ。停車時にルーフを上方に開くことでテントのようになり、さらに就寝スペースを増やすことが可能。しかも上の就寝スペースには、室内から出入りすることができ、雨天時などに車外に出る必要もないため、とても便利だ。
ベッドフォード・CA ドーモビルの運転席まわり(筆者撮影)
ちなみにエンジンは、もともと1.5Lの3速マニュアル仕様を搭載していたが、スズキ「ジムニー」用に換装。660cc・ターボのAT(オートマチック・トランスミッション)仕様に変更しているそうで、排気量こそ小さくなったが、動力性能は逆にアップしているのだという。
ポップアップルーフとは
ベッドフォード・CA ドーモビルのポップアップルーフ(筆者撮影)
このように、ベッドフォード・CA ドーモビルには、現在のキャンピングカーに近い数々の装備を持つ。とくにシンプルな装備のポップアップルーフ付き車中泊仕様車に似ている印象がある。こうした仕様は、荷室のベッドマットとポップアップルーフなどで、モデルにもよるが、大人4名ほどの就寝人数を確保している例が多い。
一方、装備は、キッチンなどを搭載しないぶん、車体サイズを純正からあまり変えないモデルが多い。メリットは、車体が大柄にならないことで、キャンプなどのレジャー用途だけでなく、通勤・通学や買い物などの普段使いにも使えること。とくに広い駐車場の少ない都心部に住むユーザーなどに注目されている。
車体後方から見たベッドフォード・CA ドーモビル(筆者撮影)
今回展示されたベッドフォード・CA ドーモビルの場合、もともと車体後方にはキッチンなども備わっていたという。だが、現在それらは取りはずしているため、荷室はかなり広く、ベッドマットを置くことも可能。ポップアップルーフの就寝スペースも合わせれば、大人3〜4名は横になれそうだ。車体もポップアップルーフを収納すれば、純正よりも全高こそ高くなるが、全体的にあまり大柄にならない。こうした点から、このモデルは、まさに今のポップアップルーフ付き車中泊仕様車を先取りしたような印象さえある。
それにしても、前述のとおり、約60年前の車両でも、ポップアップルーフを装備しており、使い勝手も今とあまり変わらないことは注目だ。日本では、おそらく1995年に登場したマツダ「ボンゴフレンディ」に装備されたことで、一般に広まったのではないだろうか。だが、ベッドフォード・CA ドーモビルは、ボンゴフレンディよりもさらに30年以上前に作られている。
これについて、少し調べてみたが、1960年代初頭には、フォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツをベースとしたキャンピングカーなどに、ポップアップルーフを架装したモデルは存在していたようだ。例えば、ポップアップルーフで有名なドイツのウエストファリア(Westfalia)というコーチビルダーなどが、そうしたモデルを製作した実績を持つ。この点から、つまり、ポップアップルーフは、少なくとも半世紀の歴史を持つ装備といえるのだ。
そう考えると、1961年式のベッドフォード・CA ドーモビルに、ポップアップルーフが装備されていたとしても不思議はない。意外にも歴史があり、近年のキャンピングカーにも脈々と受け継がれている装備のひとつが、ポップアップルーフなのだ。
価格・まとめ
ポップアップルーフには車内からアクセスする形になっている(筆者撮影)
なお、今回展示されたベッドフォード・CA ドーモビルの価格(税込み)は、898万円。かなりレアなモデルだし、内外装も十分にきれいだ。エンジンやミッションなども換装され、走行性能もアップしているし、ポップアップルーフなど車中泊を楽しむための実用装備も確保されている。これらを考えれば、ある程度の価格になるのは当然といったところだろう。しかも、レトロでどこか愛嬌のある雰囲気などは、最新のモデルにはない味わいもある。こんなクルマなら、ハリウッドの古いロードムービーのような、のんびりとしたクルマ旅を満喫できそうだ。
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ちなみに、販売を手がけるClassic Camper Japan by RANGERSでは、以前からベッドフォード・CA ドーモビルを複数台扱っており、別の車両では、キッチンカーとして購入したユーザーもいたという。このモデルが持つおしゃれでポップなたたずまいは、確かに街中でも目を惹くだろうから、そうした用途にも合いそうだ。
ともあれ、ポップアップルーフという現在の人気装備が、じつは歴史あるもので、時代とともに進化してきたことを実感させてくれたのがベッドフォード・CA ドーモビル。日本では珍しく、あまり知られてもいないが、そういった意味では、十分に名車といえる1台ではないだろうか。
(平塚 直樹 : ライター&エディター)