災害対応や未来を見据えた対策も KDDIのネットワーク強化への取り組み
KDDIは、同社のネットワーク強靭化や令和6年能登半島地震のネットワーク復旧への取り組みについて、報道陣向けに説明した。
災害への備え、能登半島地震での対応
災害による基地局の停止(停波)は停電と回線障害の2つが原因の大部分を占める。復旧には数十日かかることも多く、近年は自然災害による設備の被害が広範囲化・長期化する傾向にあるという。
右=KDDI 大石氏
激甚化する災害に対して、KDDIではネットワークの多ルート化や大ゾーン基地局の整備など、ネットワークの強化を進めている。設備の故障時には自動でほかの設備に切り替えるなど、冗長化による信頼性の向上を図る。
KDDI エンジニアリング推進本部 ネットワーク強靭化推進室長の大石忠央氏は能登半島地震について、道路の被害による影響や余震の頻度が高く「昨日は通れた道が土砂崩れで通れない」など、現場の状況の変化が激しい特徴があったと話す。対応に向かう車両の渋滞回避なども含めて、対応に苦慮したことを説明した。
そうしたなかで力を発揮したのが衛星ブロードバンドの「Starlink」。au基地局のバックホールや避難所に設置するWi-Fiとして活用された。従来の機材よりも軽くて持ち運びやすく、設置時間も短い。現場からは重い従来の設備にはもう戻れないという声も聞かれたという。さらに、状況が刻一刻と変化する災害現場の状況を反映する災害対応システムなどもあわせて活用した。基地局のみならず道路状況の状態を可視化できるほか、配置された資材も把握できる。
左=1月3日時点の能登半島の基地局の様子。右=同様に1月15日時点の様子。停波局が減っている
Starlink採用の可搬型基地局の設備一式を背負う様子
復旧活動は自治体や自衛隊などとも連携して進められ、NTTとともに船上基地局を運用したり、ソフトバンクとともに給油拠点の相互利用したりするなど、事業者の垣根を超えた対応が裏側にあったことが明かされた。
現地での対応は必須になる
災害対応の最前線に立つKDDIエンジニアリングは、常に訓練を欠かさず即応体制を整える。
右=KDDIエンジニアリング 山本氏
同社では、年間で1000件ほどの訓練を実施。「大規模災害・障害訓練」では首都直下地震や東南海地震、富士山噴火までも想定して、全社レベルでの訓練を行っているという。また「重要設備復旧訓練」では、これまでの障害を模擬して、障害発生からのオペレーションを中心に訓練する。有事を見据え、もっとも実施回数が多い取り組みだ。また「資機材設営訓練」は、災害復旧の現場での作業を想定しており、車載基地局や発電機の設置訓練などがある。
技術者の技能向上に寄与する「技能コンテスト」も実施。車載基地局やStarlinkによる可搬型基地局の設置、Starlinkアンテナの取り付け競技なども行っているという。KDDIエンジニアリング 運用保守事業本部 サービス運用本部長の山本智也氏は「自動化が進んでも現地での対応は通信を守るうえで欠かせない。これからも技術力育成に取り組んでいく」と話した。
自動化やAI導入
将来を見据えた取り組みもあわせて進めている。同社では、ネットワークの仮想化が進み、システムがより複雑化する時代に向けて、従来の人手による運用から自動化への転換を2016年から始めた。
右=KDDI コア技術統括本部 鈴木信貴氏
これまでにも、監視業務の自動化により東京・大阪の2カ所にあるネットワークの監視業務を行う施設の完全ミラー化(同じ機能を備えること)を達成。これにより、片方の拠点が被災してももう片方の施設がスムーズに監視業務に入れるメリットがある。自動化基盤は他社へ提供する体制も準備している。
さらに、ネットワークの障害検知の仕組みにAIを導入した。トラフィックのデータや設備のCPU利用率など、過去のデータを学習。予測値と実測値が大きく乖離していれば障害が発生したと判断する。時間帯や曜日で変動の大きいトラフィック量も監視でき、監視できるデータ数は6倍に拡大。過去のデータを元に設備の劣化や特定の端末の問題など、より細かな異常が検知できるようになったという。
自動化の仕組みやAIで自社のネットワークの信頼性を高めるとともに、他社にも同社の技術を広めることで、社会基盤の安定化に向けた取り組みも進めていくとしている。
KDDIのネットワークオペレーションセンターの様子
ビルダンパーなど免震設備
発電用ガスタービンエンジン