(写真:zon/PIXTA)

現代は、ポッドキャストやYouTubeなど、マルチメディアで、さまざまなインプットが可能になりました。それでは、「読む」「見る」「聞く」では、どれがインプットに一番効果的なのでしょうか。また、いろいろなインプット法があるからこそ、どの方法でも効果を出していくためにはどうしたら良いのでしょうか。

スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長である星友啓さんの著書『スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長が教える脳が一生忘れないインプット術』から、音声コンテンツや動画コンテンツの効率的インプット法について、一部抜粋してご紹介します。

読むのが速い人は聞くのも速いポテンシャルがある

まず、「読む」と「聞く」の比較です。言うまでもなく、「読む」は目から、「聞く」は耳から、言語情報をインプットしていきます。そのように情報を取り込む体の部位が違うのと呼応して、私たちが見ているときと聞いているときとで、脳は違う部分を使っています。


(画像:『スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長が教える脳が一生忘れないインプット術』より)

イラストのグレーの部分が「読む」で、斜線の部分が「聞く」で活性化する部分です。それぞれのインプットで活性化されている脳の部位が違うのが表されています。

そうした違いと同時に、 「読む」と「聞く」の両方のインプットで共通して活性化している脳の部位があることもわかります。イラストの黒い部分です。

特に四角い枠で囲まれている箇所は「ブローカ野」と呼ばれる言語認識に関する脳の部位を含み、「読む」 「聞く」と、言語情報が入ってくる経路が違っても、言語認識のメカニズムは共通していることがわかります。

これは、インプットの実践において重要な情報です。読むのが得意な人は聞くのも得意、その逆もまたしかりです。なぜなら、「読む」も「聞く」も、共通の言語認識の部位を使うので、 その部位が発達していれば、 どちらのインプットでも効率が良くなるからです。

やはり、インプットの基礎の「き」になるのは、言語能力であることは否定し難い事実です。言語能力が高い人は「読む」も「聞く」もインプットの効率が良くなりがちなのです。

しかしその一方で、「読む」と「聞く」とでは、脳の違う部分が使われているのも事実です。そのため、 「読む」と「聞く」とで人によって得手・不得手が出うるのです。

脳にちょうどいい速聴の速度は?

それでは、言語能力が高い人は「読む」と「聞く」のどちらのインプットでも良く、やりやすいほうがあれば、そのインプットの方法を選べばいいということでしょうか?

残念ながら必ずしもそうとは言えません。インプットでもう1つ鍵となるものがあります。それは、スピードです。

これまでの研究で、平均的な「読むインプット」の速さは、 「聞くインプット」の速さよりも2倍速いことが明らかになってきています。これは通常、私たちが話す速さが、読む速さに比べて著しく制限されているからです。

例えば、本を通常の速さで1ページ朗読する間に、黙読であれば2ページ読み進めることが可能だということになります。

いかに「読むインプット」がスピードの点で優っているのかがわかります。それだけに、「読むインプット」をマスターすることが、効果的なインプットにおいてはとても重要なのです。

しかし、だからといって「聞くインプット」が「読むインプット」より、必ず遅くなってしまうわけではありません。特に今は、スマートフォンやコンピューターで早送りして「聞く」スピードを調整することができるからです。

では、インプットの質を下げずに音声をスピードアップする場合、通常どれくらいまでスピードを上げてもいいのか? 

インプットする内容の難易度や個人差にもよりますが、これまでの研究を総合してみると、およそ1.8倍速ぐらいまでが限界ではないかというところです。

特に勉強などで、新しい内容をインプットするような場合には、1.5倍速ほどでも理解度が下がってしまいます。 

その一方で、1.4倍速ほどまでであれば、理解度を下げることなく聞くことができ、さらに、通常の速さで聞くよりも心地良く聞くことができるようです。

理解が進んでいるのに通常の速さだと、その遅さにストレスがかかってしまうこともあり、適度な速さにすることで、そうしたストレスも避けることができます。

デジタル環境で理解度を下げずに「聞くインプット」をするためには、1.5倍以上の速度は避けるようにした方が賢明です。

YouTube動画でインプットすべき科学的理由

もう1つデジタルのインプットに欠かせないのが、マルチメディアの環境です。

インプットしようとする事柄について、文字だけでなく、ナレーションつきのイラストやアニメーションで分かりやすく解説されているものは数多くあります。

今やYouTube動画は、エンタメのためだけなく、学習やインプットのツールとしても老若男女に幅広く使われています。

この「聞く」と「見る」を総合したマルチメディアのインプットは、「聞く」だけのインプットよりも効果が高いことが科学的にも確認されてきています。

「ワーキングメモリー」の容量をうまく使う

私たちの脳の主要機能に「ワーキングメモリー」というものがあります。長期や短期の記憶を現在の意識にホールドして整理したり組み合わせたりして、何らかの「コマンド」を意識の中で実行する働きのことです。

このワーキングメモリーは、どんな人でも容量が限られていて、最近の研究では、3つから5つくらいのものを意識にホールドするのが限界だとされています。

そのため、効果的なインプットには、ワーキングメモリーの容量をうまく使うことが大切です。

そこで効果的なのが、入ってくる情報を「聞く」「見る」など、いわば、違った「チャンネル」に分散させることです。

話を聞くだけで理解しようとしても複雑でお手上げだったのに、図解を使ってくれた瞬間、わかりやすくて理解できた。そんな体験は、誰しもがあるはずです。


この現象は、 「聞く」だけで情報をインプットしようとするとワーキングメモリーがパンクしてしまうものの、 「見る」も使ってインプットをすると、情報処理の負荷が「聞く」と「見る」とに分散できて、ワーキングメモリーをより効率的に使うことができるということを示しています。

つまり、「読む」 「聞く」 「見る」のどれが一番効果的かということよりも、どのようにそれらを、ミックスした形でインプットできるかが重要なのです。

ワーキングメモリーへの負荷を分散して効果的にインプットするために、スマートフォンやコンピューターなどのマルチメディア環境で、ベストミックスのインプットを実現していきましょう。

(星 友啓 : スタンフォード大学・オンライン高校校長 哲学博士)