メンタルの不調を覚えやすい50代、どのような点を心がけたほうがいいのでしょうか(写真:MAPS / PIXTA)

厚生労働省の調査によれば、うつ病の患者がもっとも多い年代は男性が50代、女性が40代。年をとるにつれて、誰もが体力や基礎代謝の低下を感じるものですが、実はメンタル面の不調が出てくる人も少なくないのです。人生100年時代と言われる今、50代以降に見られる変化、そして毎日をどう過ごせば良いのか。和田秀樹さんの著書『50代うつよけレッスン』より一部を抜粋し、お届けします。

50代は変革期

「50代になったら、めっきり体力が衰えてきたよ」

「このところ、いろんなことが億劫になってしまって……」

40代後半から50代にかけては、こんな嘆きの声があちこちから聞こえてきます。先日もこの年代の男性から「最近よく眠れない」「憂うつ感が続く」と相談を受けました。

実は40代から50代にかけて、人の体は大きく変化していきます。

40代からは前頭葉が萎縮し始める、セロトニンなどの脳内伝達物質が減少するなど、脳の老化現象も始まります。

また、男性はテストステロン(男性ホルモン)が、女性はエストロゲン(女性ホルモン)が減少していき、どちらも中性化していきます。それにともなって疲労感や倦怠感、抑うつ症状、のぼせ、冷え、多汗、動悸などのいわゆる「更年期障害」が生じる人もいます。

更年期障害は女性特有のものと思われがちですが、そんなことはありません。

女性ホルモンが50歳前後から急激に減少するのに比べて、男性ホルモンは20代から生涯にわたってゆるやかに減少していくため、体力や気力の衰えを感じていても、更年期障害という自覚を持つ中高年男性は少ないかもしれません。

ただ疲れているだけ、あるいはストレスや年齢のせいだと思い込み、忙しさにかまけてそのままにしている人も多いようです。

でも、「寝ても疲れが取れない」「朝起きられない」「食欲がない」「仕事へのモチベーションがなくなり、出社するのが辛い」などという症状を頻繁に感じるようになったら、やはり注意が必要です。


更年期障害や「うつ病」の可能性もありますから、そのまま放っておくと、うつ症状が悪化してしまうこともあります。

出世の限界が見えて無気力になる人も

体の変化だけでなく、環境も大きく変化していくのが50代です。

会社勤めをしている人なら管理職に就いていたり部下を抱えていたりする人も多く、責任の重さからストレスが溜まりやすい年代です。

そして、それが50代半ばから後半になってくると、60代の定年を前に多くの会社員が役職定年を迎えたり、収入が下がってきたりして、自分の出世の限界が見えてきます。

これまで会社のために身を捧げて忙しく働いてきた人がこのような変化を迎えることで、仕事のモチベーションや生きる目的を見失い、気力や自信が失われてしまうこともあります。

さらに親世代の介護や死別などがきっかけで、うつ症状を感じ始める人もいます。

このように、体にも環境にも大きな変化を感じやすい50代というのは、人生100年時代のターニングポイント。自分の老いが見えてきて、成人から老人へ向かう時期です。

人生後半への入り口であり、まさに「老いの思春期」とも言えますが、この時期をどう過ごすかによって、後半生を苦しい日々にするのか、それとも新しい自分を探して楽しく生きるのかが決まってくるのです。

「今を変える」意識改革

私は高齢者専門の精神科医として、これまで30年以上、うつ病の人や認知症の人を診てきました。

また、抗加齢医学の国際的権威であるクロード・ショーシャ博士に師事して10年以上アンチエイジングを学び、80代、90代、あるいは100歳を超えても年齢を感じさせずにアクティブに生きている人たちを見てきました。

そんな私が実感しているのは、年をとればとるほど「心身相関」が強く現れるということです。

心の調子が悪くなれば体の調子も悪くなり、体の調子が悪くなれば心の調子も悪くなる、というように、精神的なストレスが免疫機能を低下させ、さまざまな身体疾患を招くことは知られていますが、高齢者になるほどその傾向が顕著になるのです。

だからこそ、高齢世代の入り口である50代から心の調子を良くしておくこと、つまり「うつ未満」の予防、「うつよけ」の準備をしておくことが重要です。

もちろん、うつ病になった場合は、きちんと心療内科や精神科で治療を受けることが大切です。うつ病には生物学的要因も影響しますから、専門医に診てもらう必要があります。

普段の過ごし方も重要

しかし、普段の過ごし方も重要です。私が長い間、うつ症状で苦しんでいる人と、いくつになっても活力や若々しさを保っている人を見てきて実感しているのは、世の中には「うつ病になりにくい考え方」や「うつ病になりにくい生活習慣」「うつ病になりにくい行動」があるということです。

たとえば、仕事でちょっとでも失敗をしたときに「自分はダメな人間なんだ」と思い込みやすい人は、その思い込みによって、すぐに自信を失ってしまいます。

そのため、その後も本来の実力を発揮することができず、また失敗する可能性が高くなります。それを繰り返しているうちに「やっぱり自分はダメな人間だ」とますます自分を追い込んでいくことになります。

うつ病になる人というのは、そのように日頃からうつになりやすい思考パターンや物ごとの捉え方をしているわけです。

持って生まれた性格というのは、もちろんすぐには変えられません。しかし、考え方や物ごとの捉え方は変えられます。

また、過去も変えられませんが、変えられるのは今の自分の考え方であり、毎日の過ごし方であり、これからの行動なのです。これらは、人生を変えるための意識改革と言ってもいいかもしれません。

50代はまだまだ先が長い

今や人生100年の時代です。

体内で老化が始まっているとはいえ、50代はまだまだ先が長いのです。この時期から老け込んでいるわけにはいきません。

前頭葉は放っておくと、どんどん老化していきます。前頭葉の老化が進む前に60代からのプランを立てておかないと、いざ60代になってから「この先の人生どうしようか」などと考えても、若い頃のように、すぐに良いアイデアは出てきません。

また、定年後は会社や仕事の付き合いがなくなり、人間関係が狭くなりがちです。日々の刺激もなく、孤独や不安を感じやすくなり、こうした環境が老化をますます進めてしまいます。

ですから、40 代、50代から先のことを考えて準備しておき、普段から前頭葉を老化させないことが重要です。

年をとってから認知症になることを恐れている人は多いと思いますが、精神科医から言わせていただくと、それ以上に気をつけなければいけないのが、うつ病なのです。

長い間、真面目に努力を積み上げてきた人が、やっとゆっくりできると思った晩年にうつ病になり、毎日鬱々と苦しみながら人生を終える。これでは生き地獄です。

晩年の日々を楽しく過ごせるかどうかは、今から思考法や生活様式を変えて、うつ病をいかに防ぐかにかかっていると言っても過言ではありません。

「人は何歳からでも変われます」

でも、こういう話をすると、決まって「そんなの自分には無理です」と言う人がいます。自分自身を変えることなんてできないと思い込んでいるのです。

いえ、人は誰でも、何歳からでも変われます。

私は医師の仕事をしながら、夢だった映画制作を47歳から始めました。当然、お金もかかりますし、気苦労もたくさんあります。今も64歳という年齢で人に頭を下げなければいけない局面も多々あります。それでいて、まだまだ自分の思い通りになっているとは言えません。


それでもストレスはまったく感じていませんし、何よりも大きなやりがいと手応えを得て、毎日ワクワクしながら過ごしています。

残りの人生を苦しみながら、毎日を耐え忍んで過ごすのか。それとも、今からやりたかったことに挑戦して、これから先の人生を自分らしく、楽しく過ごすのか。

それを決めるのは、あなた自身です。

もしも「最近、うつっぽいかも」「しんどいな」と感じているなら、逆にそれは変革期のサインでありチャンスであるとも言えます。これまでの思考法や生活様式では無理がきかなくなってきた、そろそろ違うやり方を考えたほうがいいよ、という体からのシグナルなのです。

(和田 秀樹 : 精神科医)