ラガマルくんのXでの初投稿(ラガマルくんX@ragamarukunより)

写真拡大 (全12枚)


ラグビー応援キャラクター「ラガマルくん」。名前の由来は、「ラガーマン(男子ラグビー選手を表す呼称)」と「ラガール(女子ラグビー選手を表す呼称)」を組み合わせたもの(画像は今江氏提供)

俳優・モデル業を経て、スポーツに特化したキャラクター集団SPORAを立ち上げた今江正城氏。ラグビーをもっとメジャーなスポーツにしたいという思いから生まれた「ラガマルくん」を筆頭に、メジャー・マイナー問わずあらゆるスポーツをキャラクターの力で応援すべく、現在30種類のキャラクターをプロデュースしている。

いまではラグビー界のインフルエンサーとしての地位を確立している「ラガマルくん」の誕生秘話から、SPORAが掲げる壮大な夢まで、たっぷりと語ってもらった。

ラグビー界の“ゆるキャラ”「ラガマルくん」の誕生

X(旧:Twitter)のフォロワー数2万2000人を誇る、ラグビー界におけるインフルエンサー的存在の「ラガマルくん」。ラグビー応援キャラクターとして精力的に活動し続け、ラグビーファンのみならず、ゆるキャラ好きなど幅広い層に受け入れられている「イヌによく似た宇宙人」だ。

その生みの親は、SPORAプロデューサーの今江正城さん。「スポーツの応援を目的としたキャラクターを作ろう」という発想は、そもそもどのようにして生まれたのだろうか。

今江氏に尋ねると、2015年ラグビーワールドカップイングランド大会の日本代表対南アフリカ代表戦をテレビで観戦し、ジャイアントキリングに心を揺さぶられたことがベースにあるという。


ラガマルくんのXアカウントホーム(@ragamarukun


今江正城 (いまえまさしろ)/ RMK代表取締役、SPORAプロデューサー。1987年11月30日生まれ。大手芸能事務所で俳優・モデルとして活動しながら、ラグビー応援キャラクター「ラガマルくん」を通じたラグビー普及活動を2016年にスタート。2019年、RMKを設立し、2021年にスポーツに特化したキャラクター集団SPORAを始動。夢はSPORAを世界にも通用するキャラクターIPに成長させ、スポーツのテーマパークをつくること(写真は今江氏提供)

「“ブライトンの奇跡”と呼ばれていますが、エディー・ジョーンズ監督率いる日本代表が南アフリカ代表に34対32で逆転勝利し、スポーツ史上最大の番狂わせが起きました。『人はスポーツでこれほどまでに感動するのか』と感銘を受け、ラグビー愛が爆発したんです」。今江氏は中学・高校とラグビーをしていたが、自身がプレーしていたときよりも、さらにラグビーが好きになったそうだ。

この歴史的一戦を機に、連日テレビなどのメディアで取り上げられ“五郎丸ブーム”が沸き起こり、ラグビーはもっと人気が出てメジャースポーツになると考えていた今江氏。しかし、思いのほかブームはすぐに去ってしまった。「2019年には日本でラグビーワールドカップが開催されるのに、このままではまずい」。愛するラグビーのために何か貢献できないかと動き始める。

ゆるキャラのくまモンやふなっしーがヒントに

当時はやっていたゆるキャラのくまモンやふなっしーにヒントを得たという今江氏。「ラグビーのゆるキャラを作って人気者にできたら、世間がラグビーに興味を持ってくれるかもしれない」。すぐさま行動に移し、翌年2016年9月には自らデザインした二頭身のゆるキャラ「ラガマルくん」が誕生。当時のTwitterで発信を始めた。


ラガマルくんのXでの初投稿(ラガマルくんX @ragamarukunより)

Twitterでの好意的な反応に手応えを感じた今江氏は、「着ぐるみ姿が見たい」というラグビーファンの声を受け、自己資金で「ラガマルくん」の着ぐるみを製作。2017年5月に3次元デビューを果たす。


(ラガマルくんX @ragamarukunより)

「“非公認キャラ”としてリアルイベントに出演するなど活動がスタートしましたが、当時イベント出演料はもちろん無料、交通費も自腹でした。俳優やモデル業での稼ぎをそのまま“ラガマルくん”の資金に充てている状態でした」と今江氏は振り返る。

「ラガマルくん」は、愛くるしい見た目や耳をぴょこぴょこさせる仕草でたちまち人気者に。徐々に活動が認められ、2018年には東京都調布市・府中市のラグビー応援アンバサダーに就任した。

「スポーツに関心がない人にも、キャラクターを入り口に興味を持ってもらいたい。そしてラグビーだけでなく他のスポーツも一緒に盛り上げていきたい」と考えた今江氏は、スポーツキャラクター集団をプロデュースすることを決意しプロジェクトを始動。2021年1月にSPORAを結成した。

SPORAがマネジメントしているキャラクターは、未公表のものも含め、現在29種目30種類。基本は1競技につき1キャラクターだが、ラグビーのみ「ラガマルくん」の妹「ラガルちゃん」が女子ラグビーを担当している。


SPORAのスポーツキャラクター(画像は今江氏提供)


SPORAのスポーツキャラクター(画像は今江氏提供)

「一度起用した動物は使えないというルールを設け、どのスポーツにどの動物を採用し、どんなデザインにするかなど、キャラクターのベースは自分で考えています。キャラクターに魂を吹き込む工程(=イラスト化)は、イラストレーターの中村直人さんに依頼。ゆくゆくはすべての競技でキャラクターを作り、スポーツ界全体をキャラクターの力で盛り上げられるようにしたい」と今江氏。

NFTオークションやクラファンで活動資金を捻出

キャラクター作りにおいては、「シンプルなビジュアルの中に何かしら隠れたこだわりを持つことを大切にしている」と今江氏は続ける。


卓球のスポーツキャラクター「キュウキュウ」 (画像は今江氏提供)

「例えば、『ラガマルくん』の鼻はラグビーボール、口はH型のゴールポストをイメージしています。卓球応援キャラクター『キュウキュウ』は目が卓球のラケットで、顔の中でラリー(打ち合い)を表現しています」

SPORAの活動資金を得るため、2023年にはNFTアートにも進出。オークションサイトには、ラガマルくん、ラガルちゃん、キュウキュウをはじめ、アメフト応援キャラクターのアメリくん、サッカー応援キャラクターのサカニャン、相撲応援キャラクターのスモートリー、計6キャラクターそれぞれの一枚絵を出品した。


フランスやシンガポールなど、海外で開催された試合にも登場(画像は今江氏提供)

「オークション売り上げの20%をスポーツ関連団体に寄付しました。ラガマルくんとラガルちゃん分は日本ラグビーフットボール協会、アメリくん分は日本アメリカンフットボール協会、サカニャン分は日本サッカー協会、残りは日本スポーツ振興センターに寄付。SPORAの活動はそもそも日本のスポーツ発展のために行っているので、どういったかたちで還元できるかを常日頃考えています」


子どもたちによりスポーツを身近に感じてもらえるように制作した絵本。「争いごとを暴力ではなくスポーツで解決しよう」という次世代のヒーローの物語だ(画像は今江氏提供)

クラウドファンディングにも複数回挑戦している。

「『ラガマルくん』の絵本を出版したい、『キッチンカー ラガマル号』を作ってスポーツ会場に出店したいなど、明確な目標があるときに不定期で実施させていただいております。

毎回多くのご支援をいただき、ファンのみなさまには深く感謝しています。特にキッチンカーは反響が大きかったため、今後はさまざまな場所で出店していきたいと考えています」

人生最大の夢は“スポーツのテーマパーク”をつくること

今江氏はかねて、YouTubeなどのプラットフォームで「ラガマルくん」はじめSPORAのキャラクターの動画を配信したいと考えていた。そこで、まず「ラガマルくん」の声を募集し、このたび「ラガルちゃん」の声と併せて務める声優が決定したそうだ。

「念願の声を手に入れたことで、徐々に仕事の幅は広がっています。某電鉄会社とのコラボ企画では、ラガマルくんの声を使用した車内アナウンスも流しました」

ゆくゆくは海外マーケットも視野にSPORAの活動を進めているという今江氏。「まずはYouTubeなどを足がかりとして、その先にテレビアニメ化を見据えています。SPORAのキャラクターは、子どもたちはもちろん、大人の男性からも女性からも愛される存在を目指しています」。

実際、「ラガマルくん」は小さな子どもからラグビーのオールドファンまで、あらゆる世代に人気だ。「ラガマルくん」のXでは、非公式という自由でフラットな立場を活かし、ときには鋭い意見やデータ分析も交えて、ラグビーファンのためになる内容を発信。


その他の人気投稿をもっと見る(ラガマルくんX @ragamarukunより)

「ラグビーファンのみなさんは忖度しない『ラガマルくん』の言葉に期待してくださっていると思います。その思いに応えられるよう、これからもラガマルくんにメッセージを伝えてもらいたい」と前を向く。

「人生最大の夢は、スポーツのテーマパークをつくることです。各スポーツの魅力を感じられるアトラクションがあり、SPORAのマスコットがいて、キッチンカーもあって。子どもから大人まで誰もが楽しめる、そんな夢の国を作りたいです」と今江氏。

少子化の影響で、多くのスポーツで競技人口の減少が止まらない。今江氏はこの状況に危機感を抱いている。

「スポーツは、フェアプレーの精神やチームワーク、努力することの大切さなど、人生において大事な教訓が学べるかけがえのないものです。そして、スポーツには世界を平和にする力があると強く信じています。キャラクターという気軽な入り口から、1人でも多くの子どもたちが多様なスポーツとの接点を持てるよう、この壮大な夢に向かって日々邁進します」

(せきねみき : ライター・コラムニスト・編集者)