Maserati

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その昔、スポーツカーとGTの区別とは、対候性のある屋根、長距離行でも快適性を担保するインテリア、必要最低限の荷室の有無、でしかなかった。自動車メーカーが仕立てたエンジン&シャシーに、注文主の意を受けてカロッツェリアやコーチビルダーがボディと内装を設えていたような時代だ。ゆえにランニングコンポーネント、つまり走りに直に関わるメカニズムの基本仕様は、スポーツカーとレーシングカーが同列だった時代、GTもさほど遠からぬものだった。むしろ高性能で耐久性に富んでこそ長距離を一気通貫に走れる車、そんな捉え方だったのだ。

【画像】イタリアで国際試乗会が行われたマセラティグランカブリオ(写真15点)

こうした「GTの伝統」に則った最新世代のGTとして、マセラティが旗幟鮮明に掲げるのが3.0リッター V6ツインターボエンジン、「ネットゥーノ」だ。副燃焼室を備えた市販エンジンはそれまでも存在したが経済的ファクターではなく、F1由来のプレチャンパー燃焼機構としては世界初採用だった。ファン・マニュエル・ファンジオやスターリング・モスらが黎明期のF1で駆った名門にして、ずっとエンジン・コンストラクターだったマセラティが、「GT」を再び声高に主張するのに、またとないハイテクノロジーといえる。その新世代GTとして異なる仕様とチューニングのネットゥーノを搭載するのが、ミドシップのスーパースポーツながらエクストリームなGTを自認する「MC20」、レヴァンテより軽快なプレミアム・スポーツSUVである「グレカーレ」、普通名詞のようで固有名詞でもある「グラントゥーリズモ」、そして今回、イタリアで国際試乗会が行われた「グランカブリオ」なのだ。

グランカブリオはグラントゥーリズモのオープントップ版であることは確かだが、ことほどさように簡単な一台ではない。屋根がない分、ボディ剛性が落ちてパフォーマンスが低下するのは必然だが、グランカブリオは0−100km/h加速3.6秒と、クーペ版に譲ることたったコンマ1秒に留めた。いわばグランカブリオの魅力とは、オープン4シーターとして卓越した実用性を実現したバランスもさることながら、この珠玉のV6ユニットとオープンエアで対話できることにある。上モノがない分、クーペ以上に日常域のハンドリングが軽快に感じられるところも、ほとんどヒストリックカーじみている。車両重量自体はグランカブリオより+100kg前後ほど増しているにもかかわらず。

マセラティのGTといえば、ダッシュボード・クロックと艶やかなレザーのアップホルスタリーがお約束だ。それこそイタリアンGTの保守本流として譲れないディティールで、今世代のグランカブリオにも複数の文字盤パターンが選べるスマート時計、リアシート周りまでスキのないナッパレザー張りとして、受け継がれている。

一方でマセラティはミドシップやウェッジシェイプを早くから採り入れながら、コクピットのエルゴノミーに妥協なくつねに最善のものを採ってきた。12.2インチのデジタルメーターパネルは、ステアリングホイールに合わせ上辺が隅切りされ真四角形ではない。12.3インチで各種の車両情報やインフォテイメントを表示するセントラルディスプレイと併せて見やすい。さらに下へ、シフトセレクターボタンを挟んだ8.8インチのコンフォートディスプレイは、伸ばした手のひらに対し仰角になっていて、エアコンやシートヒーターといった乗員の快適性に直結する機能が収まる。ここにソフトトップ開閉や、グランカブリオのフロント2座にのみ備わるエアスカーフの設定タブも入っており、直観的に操作できる。静音や断熱、遮熱にも優れたソフトトップは、コンフォートディスプレイ上で指先をスワイプ&ホールドか、別設定のジェスチャーコントロールで、開閉いずれも約15秒。50km/h以下の速度域なら走行中も操作可能だ。