私たちの「クルマ観」はこの7年でどう変わったか
2017年から2024年まで約7年間の「クルマ観」の変化を分析した(写真:tsukat / PIXTA)
クルマのトレンドはどう変わっているか?
コロナ禍の前後で変化は起きているのか?
電気自動車(EV)は浸透しているのか?
自動車ユーザーのみならず、経済やマーケットに関心のある人にとっても、気になる問いではないだろうか。これまで、自動車購入者から収集したデータを分析してきたが、今回は自動車購入者に限定しない“生活者全般”のデータを用いて、自動車市場の変遷を追っていく。
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データは、市場調査会社のインテージが毎月約70万人から回答を集める、自動車に関する調査「Car-kit®」を使用。このデータは毎月、取得しているため、過去にさかのぼって時系列で傾向を確認できる。
蓄積したデータから⻑期的傾向(=トレンド)を見ていくことで、時代の変化を振り返りながら、この先の見立てをしていこうというのが、今回のテーマだ。
<分析対象数>
2017年10月調査:39万1442名
2018年4月調査:38万1301名、2018年10月調査:43万1894名
2019年4月調査:42万6556名、2019年10月調査:44万2660名
2020年4月調査:42万9918名、2020年10月調査:43万8552名
2021年4月調査:42万2154名、2021年10月調査:42万8777名
2022年4月調査:43万7584名、2022年10月調査:42万5623名
2023年4月調査:39万4051名、2023年10月調査:42万4704名
2024年4月調査:40万9010名
新車・中古車比率はおおむね「6:4」だけど
はじめに、市場の概況を把握するため、「新車と中古車の購入比率」の変遷を見ていく。Car-kit®は毎月調査を行っているため、月ごとにデータを見ることができる。とはいえ、月単位で見るとデータが細かすぎるため、6カ月毎のデータにまとめた。
結果から見えることは、2つ。1つは、新車と中古車の比率はおおむね「6:4」であること。2つめは、緩やかな傾向ではあるが新車比率が減り、中古車比率が増えてきている点である。
【図表】新車・中古車の購入比率、次にクルマを買う際は「新車にする予定か」「中古車にする予定か」など、今回、調査したデータを表で見る
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中古車が増えてきている理由には、大きく2つが考えられる。1つは、新型コロナウイルスによる新車納期の長期化で、急ぎでクルマを買いたい人が一定数、中古車に流れたであろう点だ。
ちなみに、日本で最初のコロナ感染者が確認されたのは、2020年1月であり、その後2020年4月に東京や大阪などの7都府県に1回目の緊急事態宣言が発令され、4月16日に対象が全国に拡大されている。
半年ごとをピックアップしている表内には記載していないが、中古車購入者の割合をより仔細に見ると、緊急事態宣言発令直後の2020年4月契約者は48%、5月契約者は48%、6月契約者は45%と、コロナ禍初期は特に中古車購入者が多い。
新車販売は、コロナ禍において、製造や流通の面でも大きな影響を受けた。当然、中古車販売にも影響はあったわけだが、現物がすでにあり契約や登録さえ完了すれば乗り出せる中古車は、すぐにクルマを必要とする人々に普段以上に求められたと考えられる。
コロナ禍では現車があり「即納」できる中古車への需要が高まった(写真:yamahide / PIXTA)
2つめは、新車価格の上昇だ。こちらは、先進安全機能の充実といった車両本体の要因に加え、半導体をはじめとする部品の調達費増、燃料価格の高騰による輸送コストアップなど、さまざまな理由があるが、上がり続ける新車価格に耐えかねて、中古車にシフトした人は少なくないはずだ。
新車価格が上がれば中古車価格も上がっていくわけだが、それでも一部の人気車種を除けば中古車のほうが安い。予算内に収めるため「中古車も視野に入れて」と考える人は増えているだろう。
「次に買うクルマ」は新車か? 中古か?
先ほど見たのは、「契約(購入)」したクルマが新車か中古車かの比率であった。ここでは「次に買おうと思うクルマ(次期意向車)」のデータを確認する。次にクルマを買う際は、「新車にする予定か」「中古車にする予定か」である。
この結果から見えてくることも、大きく2つある。1つは、“意向時点”のものなので、実際に購入した人よりも新車の割合が1割程度、多いことだ。新車を欲していても、予算や納期の制約で最終的に中古車を買う人が一定数いる、ということである。
もう1つは、新車意向の人が、少しずつ減少している点だ。大きくスコアを落とす時期があるわけではないが、ダウントレンドが続いている。こちらはコロナ禍前から起きているトレンドゆえ、先述の新車価格の上昇が理由であると考えられる。
軽自動車の比率はどのぐらい増えているのか?
続いて、次に買おうと思っているクルマは普通車(登録車)であるか、軽自動車(届出車)であるかの結果を紹介する。
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先ほどの「新車意向/中古車意向」と同様に、潮目が変わるような大きな転換はないが、傾向は明らか。2017年や2018年には75%ほどあった普通車意向が、2024年では70%程度まで落ち込んでいる。
実は、2017〜2024年の期間の間に、ひとつ大きなトピックがあった。2019年10月に実施された「自動車税の引き下げ」だ。
排気量に応じた税額が設定される普通車(登録車)の自動車税額が引き下げられ、例えば1000cc超〜1500cc以下のクルマは、年額3万4500円から3万500円に、1500cc超〜2000cc以下では、年額3万9500円から3万6000円になった。
ちなみに軽自動車税は、2015年4月に一律7200円から1万800円に上がっており、軽自動車と普通車の維持費の差は以前より縮まったといえる。
それでも軽自動車は、多くの普通車よりも車両価格が安く、税金や保険も抑えられる。軽自動車の人気が年々上昇していることは、それだけ日本人がクルマにお金を費やすことが難しくなっている(=可処分所得が増えていない)ことの表れであろう。
最後に、「パワートレインの意向」の結果を紹介する。これは、「次にどのパワートレインのクルマを購入したいと思うか」を聞いたもので、電動化シフトへの意識を見ることができる。
結論から述べると「電気自動車(BEV)意向は増加し、ガソリン車は減少。しかしハイブリッド車(HEV)の人気の高さは変わらず、多数派をしめる」となる。
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大きな転換点は、2020年10月のいわゆる「カーボンニュートラル宣言」であろう。菅前総理は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言した。
その中の取り組みのひとつとして自動車の電動化も盛り込まれており、その影響もあってかガソリン車の意向率が低下して、BEVの意向率が上昇し始めている。
当時、国内BEV販売の中心は日産「リーフ」であった(写真:日産自動車)
2020年10月調査時点では、51%ほどあったガソリン車意向が4ptほど低下し、その代わりとしてBEVの意向が17.5%まで上昇する。それまでの数年間は13〜14%の間でほぼ動かなかったBEVが、一気に増加した。
そのあと政府は、2022年3月にBEVの補助金上限額をそれまでの40万円から、2倍以上となる最大85万円へと大幅に引き上げる。軽自動車BEVも、それまでの20万円から最大55万円へ、プラグインハイブリッド車は20万円から最大55万円へと増額された。
BEVに関心を持っている人「約2割」
その後もガソリン車の意向は低下し、2022年10月調査の44.4%を底に、ほぼ45%程度に落ち着く。5〜6年の間で1割程度、意向が低下しているわけだ。
一方のBEVは、2022年10月調査では21.4%まで増加。パワートレインは、複数を比較検討することもあるから、本設問は複数回答で聴取しているが、それでも2割を超えてくるとなると、もはや「BEVは一部の人が買うもの」とは言えない規模に見えてくる。
ただし、直近では需要が一巡したせいか、BEV意向は下がっている。そもそもBEV意向を押し上げた大きな一因として、2022年6月に発売された軽自動車BEV、日産「サクラ」と三菱「eKクロス EV」の影響が大きい。
補助金を活用すれば200万円を切るような価格帯で購入できるサクラ/eKクロス EVによって、BEV需要は大きく押し上げられた。
日産「サクラ」と三菱「eKクロス EV」は基本構造を共有する兄弟車(写真:日産自動車)
一方、両車の新車効果が時間とともに弱まる中、次のヒット商品となるBEVが国内メーカー各社から生まれていない。そのため、2022年以降に大きな盛り上がりはなく、購入候補としても定着していないと考えられる。
また、BEVはまだまだ価格が高い。実際に今、日本国内で買えるBEVで、サクラ/eKクロス EVの上を見ると、日産「リーフ」が408万1000円〜、BYD「ATTO 3」が450万円と、一気に400万円を超えてくる。
テスラ「モデル3」やボルボ「EX30」は500万円台、日産「アリア」やスバル「ソルテラ」は600万円以上だから、BEVに興味はあっても手を出しづらい人も多いだろう。
スバル「ソルテラ」は627万円〜のプライスタグをつける(写真:SUBARU)
トレンドの変化から未来を見据える
今回は、時系列データの⻑期的傾向(=トレンド)から全体像を明らかにしてきた。時間の経過とともに「当たり前のもの」「良いとされるもの」の相場観は変化する。それらを把握するためには、トレンド分析が有効だ。
特に、最後に紹介したパワートレインの意向については、グローバルでの法規制や補助金、政治的意図を含む“アメとムチ”が目まぐるしく変わる現状にある。ときに足を止めて、過去を振り返ることでの学びも多いだろう。
筆者が考える「データ分析の最大の目的」は、物事をなるべくシンプルにし、視界をクリアにすることである。マーケティングに関わる仕事をしていると、シンプルとは真逆の複雑化の方向へ向かっていきがちだが、シンプルにしてこそ真実が浮かび上がるものである。
世の中をどのように切り取るか、そして「点のデータ」ではなく「線のデータ」で継続的にとらえることで、未来を見据えるヒントを得られるのだ。
もう一度、各データの表を確認する
(三浦 太郎 : インテージ シニア・リサーチャー)