ポスト藤田晋「後継者レース」次期社長の絶対条件
創業者から次世代への引き継ぎの難しさについて率直に語った藤田晋氏(撮影:梅谷秀司)
サイバーエージェントの藤田晋氏といえば日本を代表するネット企業経営者の1人だが、昨年「2026年に社長を退く」と宣言したことが話題となった。それから約1年経った今、引き継ぎに向けた動きが一段と加速している。そもそも藤田氏はなぜ退任を決断したのか。次期社長に求められる資質とは。Q&A形式で解説する。
※記事の内容は記者による解説動画「Q Five」からの抜粋です。外部配信先では動画を視聴できない場合があるため、東洋経済オンライン内、または東洋経済オンラインのYouTubeでご覧ください。
Q:2026年に「社長退任」なぜ藤田氏は決断?
端的に言うと、若い社員が活躍できるサイバーエージェントのカルチャーを守ることが目的です。藤田氏自身は現在51歳。大企業の社長としてまだ若いほうですが、本人は独占インタビューの中で「このタイミングで次に譲らないともうチャンスが来ないかもしれない、という危機感を持って判断した」と明かしました。
実際サイバーエージェントでは2022年から、有望な社員を16人選抜して後継者育成のプログラムを実施してきました。段階的に選考し、残った最後の1人が2026年春に2代目社長に就くことになります。
すでにこのプログラム、座学研修のようなものは2024年3月までで終了。目下は候補者を数人まで絞り込み、実務を通した能力開発のフェーズに入ったと、藤田氏は話しています。
社長交代のプロセスで何を重視しているのか。藤田氏は「引き継ぎ可能な会社にすること」という点を繰り返し強調していました。どういうことか取材を進めていくと、2代目社長だけではなく、藤田氏が伴走から完全に外れるであろう3代目社長の育成も、この研修プログラムに意味合いとして含まれていることがわかりました。
創業者からの脱却に苦労している会社は少なくありません。サイバーエージェントと同じネット企業では、ソフトバンクグループの孫正義氏なども、後継者に譲り切れていない例として挙げられます。その難しさを重々承知しているからこそ、2022年から2026年まで時間をかけてやり切る。藤田氏自身、そう語っていたのが印象的でした。
Q:サイバーエージェントの経営状況は?
業績はいたって順調です。2023年9月期の売上高は7202億円とここ10年で約4倍に、従業員数は7251人で同約2倍になっており、売上高1兆円・従業員数1万人の大台がみえてきました。長年赤字を掘り続けてきた動画配信サービス「ABEMA(アベマ)」を含むメディア事業も、2024年1〜3月期に黒字転換しました。
順風満帆に思えるかもしれませんが、視点を中長期に移してみると、決して安泰とは言えません。理由の1つが、サイバーの主軸であるネット広告代理ビジネスの変化です。近年ではプライバシー保護のための「Cookie(クッキー)規制」が話題になっており、今までのようには稼げなくなってしまう懸念が高まっています。
もう1つの懸念が、スマートフォンゲームです。近年では、子会社のサイゲームスが手がけた「ウマ娘 プリティーダービー」が大ヒットし、収益に大きく貢献しました。同社なら同じようなヒット作をすぐ作れるのでは?と思うかもしれませんが、そう簡単でもありません。
実際、スマホゲーム市場はすでに頭打ちになっており「ファミ通モバイルゲーム白書」によれば2年連続の減少。にもかかわらず、一発当てると大きいため、新規参入はどんどん増える。すると競争力のあるタイトルにするために開発費も宣伝費も積み増す必要に駆られ、(一部のヒット作を除いて)採算の取れないタイトルが大半になる……という、非常に難しい循環に陥っています。
このように、長年サイバーを支えてきた2つの事業は中長期でみると雲行きが怪しい面があります。藤田氏の後継者となる2代目社長には、既存のビジネスをしっかり維持・成長させる力とともに、次世代の”食いぶち”となる新しいビジネスを打ち立てられるような力が求められるでしょう。
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(森田 宗一郎 : 東洋経済 記者)