(出所:『きみのいいところがみつかる えほん』 イラスト:川原瑞丸)

夏休みが始まりました。子どもと過ごす時間が増えると、どうしても子どもの困った言動に目がいき、イライラして否定的な言葉をかけてしまう、という保護者も多いのでは。

しかし日本ポジティブ教育協会代表理事の足立啓美さんは、親にとっては困った行動の中にこそ、「その子のいいところ(性格的な強み)」があると言います。足立さんが監修し、このほど発売された『きみのいいところがみつかる えほん』は困難に負けずに生きる力「レジリエンス」を育てるための絵本。この中で足立さんが伝えたかったことは何かを聞きました。

子どもに口を出すのは親の理想の押し付け?

いよいよ始まった夏休み。子どもたちは首を長くして楽しみに待っていたかもしれませんが、親御さんとしては子どもと過ごす時間が増えることで、子どもの「困った行動」についイライラしたり、「気になる言動」に口うるさくしてしまうことがあるかもしれませんね。

例えば、久しぶりに会った親戚を前に挨拶ができない様子を見て「恥ずかしがらないで、挨拶しなさい」と諭したり、キャンプやサマースクールなど普段はできない経験をたくさん準備したのに自分の好きなことだけしたいと言う様子に「色々なことをしたほうが楽しいから!」と無理に連れて行こうとしたり。

はたまた、真面目に取り組んでほしい場でふざけている姿に「恥ずかしいよ。ちゃんとしなさい」と叱ったり……。

このように、子どもたちの興味関心を育てたり、社会性を育てたりすることが必要と考え、「あなたのためだから」という気持ちでつい口うるさく子どもの言動に口出ししてしまうことは、親なら誰しも心あたりがあるのではないでしょうか。

しかし、これらの言葉は「今のあなたは十分ではない」「今のあなたはおかしい」というネガティブなメッセージを送っていることにもなりかねないため要注意です。

親は子どもたちに、他者とよい関係を築く方法を教えたり、自分の好きなことに気がついたり、世界を広げてほしいと思っています。もし支援をしなければ、子どもたちが園や学校で仲間はずれになったり、勉強や発達に遅れが生じたりしてしまうと危機感さえ感じてしまうのです。

社会性を身につけてほしい、色々な可能性を信じて世界を広げてほしいという親としての想いは、子どもにとっても大切なことですし、意味があることです。では、子どもの間違った言動を直そうとしたり、行動を変えようとすること以外に、この想いを達成することはできないのでしょうか。

子どもの「強み」でレジリエンスを強化

ここで注目したいのが、子どもの「強み」に目を向けた関わりです。皆さんのお子さんの強みはなんでしょうか?と聞かれて、どのような言葉が思い浮かぶでしょうか……。

実は「強み」と一言で言っても、さまざまなタイプの強みがあります。たとえば、ピアノが上手、足が速いといった「スキル的な強み」もあれば、優しさや粘り強さなど「性格的な強み」もあります。いわゆる「いいところ」とも言えるでしょう。

スキル的な強みは目に見えやすく、気がつきやすいので、子どもを褒めることにつながりやすいでしょう。しかしながら性格的な強みは、スキル的な強みに比べて目には見えにくいので、親にとっても気がつきにくいという特性があります。

しかし、性格的な強みを育てて活用することは、人生の満足度やレジリエンス(逆境や困難に負けない力)、自己肯定感を育てていくことにつながることが数多くの研究でもわかっています。

また、学業や学校適応にもよい影響を及ぼすことがわかっているのです。10代前半の子どもたちを対象にした研究では、親が子どもに強みを伝えたり、活かせるように支援することで、子どもは日常的なストレスに対して、効果的な対応ができることも示されています。

つまり、「性格的な強み」を育てることは、その子らしさを大切にし、困難や逆境に負けず、幸せに生きる力を育てることにつながるのです。


(出所:『きみのいいところがみつかる えほん』 イラスト:川原瑞丸)

では実際に、日常生活で子どもたちの性格的な強みを育てていくためにはどうしたらよいのでしょうか?

それは「この子の強みはどんなところだろう?」と意識を向けて見てみることです。強みを発揮する姿を見つけたら、「転んだお友達を助けてあげて、とっても優しいね」というように、どのように性格的な強みを発揮できていたかを具体的に伝えてあげてください。

「お友達も嬉しかったね」「みんなが元気になるね」などと、周りに与えたよい影響も伝えられるとよいでしょう。それは単にありがとうと言う感謝の言葉でもよいでしょう。

「強み」は"問題行動"に隠れていることも!

また、気になる様子や問題行動に見えることの中に、実は強みが隠れていることもよくあります。

一見、ふざけすぎと思える姿は、ユーモアの使いすぎの可能性があります。恥ずかしがっている様子には、思慮深さが隠れていることも多くあります。一つのことに集中して他のことには興味も示さない様子には、自分の気持ちに正直でいられる誠実さが隠れているかもしれません。

このように一見、気になる言動の中には、性格的な強みを発見するためのヒントが隠されていることが多いのです。

特に性格的な強みは、その子らしい「いいところ」なのですが、自然と湧き出る強みでもありますから、つい使いすぎてしまうということもあるのです。使いすぎるがゆえに、困った行動、気になる言動に見えることがあるのです。

「恥ずかしがらないで挨拶しなさい」と言う代わりに「じっくり時間をかけて仲よくなってもいいんだよ」と伝えつつ、親自身が周りの人に挨拶をする様子を子どもに見せてあげることもできるでしょう。

また「色々なことをしたほうが楽しいから!」と言う前に「君の好きなことについて教えて。どんなところが楽しいのかな?」と子どもの興味のポイントを探ることもできるでしょう。

「恥ずかしいよ。ちゃんとしなさい」と言う代わりに「君のユーモアレベルは今、どれくらいかな? ここではどのレベルがいいと思う?」と強みをTPOに合わせて調整する練習をすることもできるでしょう。

このように子どもの強みを認めた上で、その調整方法を考えていくことは、「あなたにはあなたらしい強みやいいところがある」というメッセージを送ることになります。

もちろん、親としていつも強みに注目するような反応ができるわけではないかもしれません。親も人間ですから、疲れていたり、心配事などがあれば、つい口癖のように小言を言ってしまうこともあるでしょう。

そんなときは、子どものできていないところや弱点に、すぐに反応するのではなく、一息おいて「この状況にも強みが隠れているのかもしれない」「強みが隠れているだけだ」という視点で見てみることが、子どもたちの強みを探していくヒントになります。

子どもの強みを認めると親子関係もよくなる

親が子どもの強みを認めて育てる関わりは、子どもが親に「見てもらえている」「認めてもらえている」と信じられることにつながります。また、親としては、わが子をこうあってほしいという理想の姿ではなく、ありのままの本来の姿を見ることにつながります。

実際に、私の娘も運動会で、周囲が期待する「みんなのリーダー」というリーダーシップを発揮するよりも、「仲間を支えるチームワーク」が自分の強みであることに気がついたことを教えてくれたことがありました。

強みを認める関わりは、親子の関係性もよりよく、絆が深まっていくことが期待されます。他者の強みを見つけることは、よりよい人間関係にもつながるのです。

親子の関係がよりよくなることだけではなく、家族や友達ともさらによい関係を築くことができます。夏休みに再会するいとこ、新しいお友達、大好きな漫画の主人公など、身近な人やキャラクターが「どんな強みを持っているか」を話してみてください。強みを見つけていく練習になります。


(出所:『きみのいいところがみつかる えほん』 イラスト:川原瑞丸)

私たちは、できないこと、弱みやうまくいかないことについ目を向けてしまいがちです。だからこそ、意識的にうまくいっていることや強みに注目していく意志が必要になります。


その子自身が、元気になれることや強みに注目することで、親の想いである子どもたちが社会性を身につけていくことや世界を広げることは十分可能なのです。

夏休み明けの通園や通学は、子どもたちにとって一つの乗り越える山になることもあります。そのときに、自分らしい「強み」である「いいところ」を使えれば、レジリエンスを発揮して乗り越えていくことができます。

この夏休みは、ぜひ子どもたちの性格的な強み(いいところ)をたくさん育てて、自己肯定感やレジリエンスを育てていきましょう。

(足立 啓美 : 一般社団法人日本ポジティブ教育協会代表理事)