『神戸アリーナプロジェクトを動かす人々』連載第2弾――「GLION ARENA KOBE」に携わる若手ホープたちはどのような経歴を歩んできたのか

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2025年4月、神戸市にて開業する関西最大級のアリーナ「GLION ARENA KOBE(ジーライオンアリーナコウベ)」。同アリーナはプロバスケットボールチーム・神戸ストークスのホームアリーナとなるほか、音楽ライブ、MICEなどさまざまな興行がおこなわれる。アリーナ隣接にパークエリア「TOTTEI PARK」が設けられ、飲食店などが軒を連ねた「365日楽しめるエリア」になる予定だ。このプロジェクトを動かしている「神戸アリーナプロジェクト」のキーパーソンたちに話を訊く、当連載。第2弾では、フレッシュな価値観とバラエティに富んだ考え方で同プロジェクトを推進する、One Bright KOBEベニューマネジメントDivisionサービス&マーケティンググループと施設管理グループ所属の若手のキーパーソン3名にスポットライトを当てる。
6年目の日下部音衣はアリーナの全体的な内装と飲食テナントの誘致、4年目の坂東創太はアリーナの本体工事と映像や音響などの設備調達、3年目の加藤亜由子はTOTTEI PARKの整備やアリーナ内VIPエリアのサービス設計をそれぞれ担当している。さまざまな領域を担う若手のホープたちはどんな学生時代を送り、プロジェクトのどこに共感して志望したのだろうか。

左から日下部音衣、坂東創太、加藤亜由子

●若手のホープたちは学生時代をどのように過ごしていたのか

――みなさんは学生時代どのようなことを学んでいらっしゃったのでしょうか。

日下部:私は法学部で六法全書を片手に、民法や刑法などを学んでいました。法曹界に行きたかったわけではないですが「何事にも役立ちそう」と思っていた中で、今の業務でも条例や規則を読むことがあるので懐かしく感じています。

坂東:大学の研究室で、生物・生態を題材にプログラミングで個体数の推移をシミュレーションする分野を学んでいました。たとえば三種の個体がいたとき、AがBを食べ、BがCを食べて、どうやって繁殖するか、またその確率が前後するときには生物の繁殖結果はどうなるのか……などを場合分けし生物を保護するための手法などを研究していました。

加藤:私は国際社会学を専攻し、語学はもちろんのこと、発展途上国の問題なども勉強していました。そんななか、特に印象に残っているのがタイへの留学です。日本より進んでいる側面もあれば、そうではないところもあって、さまざまな意味で格差を感じるところがありました。また、海外から見た日本の課題も知ることができてとても貴重な機会になりました。

加藤亜由子

――ちなみにみなさんは大の音楽好きだと伺っています。

加藤:私はK-POPが好きで、特にTWICEのファンです。学生時代からずっと聴いていて、「この曲がリリースされたとき、自分はこういう時期だったな」とか、一曲一曲に思い入れがあります。メンバー同士の仲の良さが伝わってくるところも大好きで、メンバーの個性もグループに生かされているので「人にはそれぞれ自分の良さがある」ということに気づかされます。

日下部:私もK-POPにここ数年、ハマっています。IUさんが好きで、2024年3月に横浜アリーナで開かれた12年ぶりの来日単独公演にも行きました。お客さんも、知らない人同士でも「良いライブだったね」とコミュニケーションが取れたりして、素敵な空間でした。近い世代の女性が「こういうことを考えているのか」とそのメッセージ性に共感できる部分も多くて。尊敬できるところがたくさんあります。

坂東:私は高校時代、軽音部の友だちに連れて行ってもらったCrossfaithのライブが今でも記憶に残っています。それまではどちらかというと落ち着いた系統のバンドを好んでいたのですが、「こういう音楽もあるんだ」と当時強く衝撃を受けました。会場が揺れるほどの盛り上がりを体感し、自分のなかでバチっとハマるものを感じまして。Crossfaithは、「自分たちにとってこれが一番カッコ良いやり方だ」という熱い気持ちが伝わってくるところが素敵です。

●「自分が住むまちや地域に誇れるような施設やコンテンツがあると、シビックプライドにつながる」

――みなさんは、デジタルガバメント(行政・生活)、モビリティ(移動)、スマートベニュー(共感・まちづくり)の領域で事業展開する、スマートバリューに入社されて神戸アリーナプロジェクトを運営するOne Bright KOBEに携わっていらっしゃるんですよね。プロジェクトへ参画したキッカケを教えてください。

日下部:私は現在入社6年目で、1年目はスマートバリューで仕事をし、翌年より神戸アリーナプロジェクトに参加しています。地域のまちづくり、行政サービスの仕事に興味を持ってスマートバリューへ入社した経緯もあり、神戸アリーナプロジェクトはすごく興味が持てるものでした。当初「スポーツ、エンタメでまちづくり」「神戸ストークス(B.LEAGUE)の本拠地」という要素はすでに決まっていましたが、具体的なことは「これから」という構想段階でした。そんなおり、アメリカで本場のアリーナやNBAの試合を視察できる機会があり、アリーナに関する学びを肌で感じ、プロジェクト推進のイメージができました。そして「まちにとってアイデンティティとなり、エンタメを通して熱狂できる世界を目指しているんだ」と思いました。

坂東:私は4年目で、親会社のスマートバリューには「IT系の営業をしたい」と志望して入社しました。そのあと、在籍する部署を決める面談の際「神戸に音楽、スポーツなどの集客施設を作るプロジェクトがあるが、どうか」と言われて、興味を持ちました。私自身、兵庫出身で、音楽が好きでライブにもよく足を運んでいましたが、関東圏での開催など遠くまで行かないと観ることができない公演もたくさんあったことから「そういう場をゼロから作ってみたい」との思いに駆られました。

加藤:私は入社3年目で、始めからOne Bright KOBEの神戸アリーナプロジェクトを志望していました。同プロジェクトはアリーナを建てるだけではなく、その賑わいを街にも波及させ、いろんなものを巻き込んで盛り上げていくところに共感できたんです。というのも私は愛媛出身で、小さいときから少子高齢化、そして小学校の統廃合やお祭りの減少など地方衰退を感じながら過ごしていたので、地域活性化となるような「そのまちならではのもの」を作る仕事がしたいと昔から考えていました。

TOTTEI エリア One Bright KOBE提供

日下部:たしかに自分が住むまちや地域に誇れるような施設やコンテンツがあると、シビックプライド(自分たちが住む地域への愛情や誇り)につながりますよね。そういうものを生み出せることが、まちづくりに携わるこのアリーナプロジェクトの魅力だと感じます。

坂東:私は小さい頃、転勤が多い父親の仕事の関係でいろんな地域に住みました。当時、そんなに活発にコミュニケーションをとるタイプではなかったこともあり、「どういうふうに関係性を築いていけばいいんだろう」といろいろ考えながら過ごしていました。そういったことを経験していたからか、アリーナプロジェクトを通して地域のコミュニケーションや交流を生み出すことにやりがいを感じているところがあります。

加藤:その土地に訪れるとそのまちの良さもいろいろ発見できますし、たとえばご当地グルメなどその地域ならではの色を知ることができます。ですので、その魅力を発信していくこのプロジェクトの意義と影響力の大きさに対して責任感を持ちつつ「とても楽しいやりがいのある仕事だな」と。

●「神戸と言えば「TOTTEI」となるように、ワクワクできるもの届けたい」

海からのTOTTEI PARKイメージ One Bright KOBE提供

――そんなみなさんは神戸アリーナプロジェクトでどういう業務を担当されているのでしょうか。

日下部:主に私は「GLION ARENA KOBE」の一部エリアの内装について設計・施工を各設計・施工会社様と進める役割です。ほかにはさまざまな飲食店様や、そして神戸に興味を持ってくださる事業者様への飲食テナント誘致もおこなっています。アリーナの外装・内装は本体工事の大林組様の設計なのですが、神戸ストークスのロッカールームやVIPエリア、コンセッションなどOne Bright KOBEが担当するエリアの内装は、機能性はもちろんのこと、「こんな日本のアリーナは見たことがない!」と感じていただきたいという思いで皆さんと検討しています。

坂東:私はアリーナの本体工事や設備に関する協議のほか、館内のWi-Fiなどのネットワーク基盤、椅子、そして公演時の演出にまつわる設備の業者選定、工事に関する調整もおこなっています。音響や映像機材などについては、プロモーター様、興行主様へのヒアリングを重ね、本場NBAでも使用されている世界的ブランドのスピーカーや屋内アリーナ国内最大級のLEDビジョンなど、かなりスペックの良いものを導入予定です。また、開業した後のイベント時の警備会社、清掃会社とのオペレーション整備、業者選定も担当しています。

加藤:私はアリーナの外にできるTOTTEI PARKに関して設計者様や施工者様と調整しているほか、アリーナ内飲食も担当しています。飲食では、アリーナ、パークを訪れた方々に神戸だからこそ味わえるものをご提供したいと思っています。VIPエリアの飲食についても、神戸の食材を使った地産地消のお食事を提供予定です。現在、いろんなアリーナやスタジアムなどのVIPエリアを視察させていただき、「お客様にとっての特別な鑑賞体験」を念頭にサービスや企画を考えています。たとえばVIPエリアでの食事提供の仕方も、「コース料理も良いけど、スポーツの試合を観戦しながら食事を楽しむという部分では大皿料理の方が利用しやすい」との声もあり、状況に応じていろんなバリエーションでの提供ができないか検討を進めています。

坂東創太

ーー先ほどお話しされていた学生時代の学びのなかで、業務内容につながることはありますか?

坂東:直接的にはないのですが、ただプログラミングって「1が2になるとき、それはなにが原因なのか」という観点なんです。その点で現在取り組んでいるプロジェクトも「これを作るためにはどんな段取りで、重要なのは何か」を理論的に構築する必要があるため、学生時代に学んでいたことが考え方の土台になっています。

日下部:条例や規則は但し書きが多かったり、少し特殊な用語や書き方があったりします。無理やりかもしれませんが、法学部時代に法律などを読んでいたおかげで、苦ではないですね。

加藤:偶然ですが大学時代にしていた食育イベントの企画運営経験が現在担当している館内飲食に活かされています。お客様には飲食も含めて来場の楽しみにしていただきたく、どう関心を持っていただくかという観点を持ち企画をしています。また、本プロジェクトとして環境配慮に積極的に取り組んでいくという方針があるので、フードロス削減などへも取り組んでいきたいです。

日下部音衣

――2025年は「GLION ARENA KOBE」の開業だけではなく、『EXPO 2025 大阪・関西万博』などもあって関西全体が活気づきそうですね。

坂東:その点で、たくさんの人たちの仕事のやり方、生活スタイルに変化があるのではないでしょうか。個人的にも2025年は「楽しい関西」になる気がしています。遊ぶ場所が増えるのはさまざまな励みにもなりますし。「GLION ARENA KOBE」が、いろんな人がまざりあって、交流が生まれる場所の一つになってほしいですね。

加藤:たとえば音楽興行の面ではこれまで「公演が東京しかない」というパターンも少なくなかったですが、「GLION ARENA KOBE」ができることで、関西圏での盛り上がりも期待できるはず。2025年はそのスタート地点になるのではないでしょうか。

坂東:そうですよね。関西で1万人規模の音楽ライブが開催できて、スポーツ興行も行われる場所はなかなかありませんし。演出面の機材設備もかなりこだわっているので、ぜひアリーナで体感してもらいたいです。

日下部:1万人規模ながらも、没入感がかなり味わえる会場になりそうですよね。あと神戸空港が2030年の国際化に向けて来年からチャーター便の就航も始まる予定ですし、インバウンドも含め神戸という場所でいろんな交流が生まれると思います。港町としての歴史があり、日本文化と海外文化が融合する神戸にぜひ遊びに来てもらいたいです。そんななか「GLION ARENA KOBE」が、「TOTTEI(新港第二突堤)」が、神戸の新たな名所になって欲しいなと。

加藤:日下部さんと同じですが、TOTTEI PARKも屋外イベントや憩いの場として日常的にいろんな方が集まって楽しめるところになりそうです。「神戸といえばTOTTEI」となるように、ワクワクできるものをお届けしたいです。

取材・文=田辺ユウキ 撮影=SPICE編集部(川井美波)