サンリオ「2代目社長」で上場来高値に達した必然
前期に過去最高の営業利益を達成したサンリオ。今後はグローバル展開を加速させる(撮影:今井康一)
ハローキティ生誕から50年、老舗IP企業の姿はどう変わるのか。
サンリオの株価が絶好調だ。3月に34年ぶりとなる上場来高値を更新し、7月に入ってからさらにその記録を塗り替えている。7月16日終値は3173 円と、2000円前後を推移していた年初から6割以上も上がり、時価総額は約8100億円に達した。
背景にあるのは業績のV字回復だ。
近年のサンリオは業績不振にあえいでいた。2010年代に欧米で巻き起こったハローキティブームが終息すると、2015年3月期から7期連続で減収減益に陥った。コロナ禍では物販店舗や屋内型テーマパーク「サンリオピューロランド」の臨時休業を余儀なくされたこともあり、2021年3月期には26年ぶりの営業赤字に転落した。
しかし2022年3月期に反転すると、その翌期にはコロナ直前の業績を上回るまでに回復。2024年3月期には、過去最高の営業利益をたたき出した。
V字回復を導いた3つのポイント
この復活劇を主導したのが、創業者である辻信太郎名誉会長の孫に当たり、2020年7月に2代目社長に就任した辻朋邦氏だ。朋邦社長が就任した4年前と比べると、株価は約6倍に上昇している。
創業者の孫に当たる辻朋邦社長。復活劇の舞台裏について語ったインタビューはこちら(撮影:今井康一)
朋邦社長の下でサンリオが進めた業績立て直しの軌跡を振り返ると、大きく3つのポイントがある。
第1は、組織風土改革だ。朋邦社長が就任後に実施した社員アンケートでは、「みんななかよく」といった企業理念への共感は高い一方で、「挑戦が称賛される社風」「会社の戦略や目標の明確性」などの項目で点数が低く、実行力の課題が浮き彫りになった。
そこで、部門再編による責任の明確化や評価制度の見直しを行うと同時に、オリエンタルランドやボストン・コンサルティング・グループで経験のある中塚亘氏らを常務執行役員に登用するなど経営陣を刷新。朋邦社長の就任時には、30代の本人を含めても平均年齢が65歳だった取締役級の顔ぶれは、10歳以上も若返った。
第2は、「聖域」とされていた国内物販事業に切り込んだこと。同事業は祖父である信太郎名誉会長の思い入れが強かった一方、「昨対売上主義で商品を作りすぎていた」(朋邦社長)ために過剰な在庫を抱え、恒常的な赤字が続いていた。
そこで、アイテム数の削減や不採算店舗の閉鎖などで利益重視の戦略に転換。2024年3月期には61億円の営業黒字を生み出した。
そして3つ目のポイントは、長年の課題だった“ハローキティ一本足打法”からの脱却を前進させたことだ。
好業績を維持していた2014年3月期には、海外売上高のうちハローキティの割合が9割超を占め、会社全体が欧米でのハローキティブームに依存する体質となっていた。
実際、2010年頃にはレディー・ガガら海外セレブがキティグッズを愛用するなどして一大ブームが起き、欧米でライセンス商品のロイヤリティ収入が大きく伸びた。ところがその後、他社のキャラクターがヒットすると、ウォルマートなど現地の大手小売店の陳列棚が一気に取られ、業績も下降に転じた。
仕込んだものが想定以上の成果に
こうした反省も踏まえ、朋邦社長の下では、シナモロール、マイメロディ、クロミといった他のキャラクターのブランド力を重点的に強化。1つのデザインに複数のキャラクターを使ったり、1つの商品をキャラクターごとに展開したりする「複数キャラクター展開」にも取り組んだ。結果的に、2024年3月期の海外売上高の構成比は、ハローキティが5割、複数キャラが19%、その他のキャラクターが31%と大きく変化した。
一連の施策の効果もあり、利益率の高いライセンスビジネスによるロイヤリティ収入は2021年3月期に157億円だったのが、2024年3月期には398億円にまで成長した。
朋邦社長は3年間での改革について、「(コロナ後の需要回復など)外部要因の追い風もあり、仕込んできたものが想定以上の成果を出した。それによって改革に対する従業員の信頼度が大きく上がり、また次の改革につながるといういいサイクルができた」と振り返る。
今後の成長に向けては、グローバル展開を加速させる。
インドなどサンリオキャラクターがまだ進出していない地域に進出するほか、マーケティング、ブランディング、営業を連携させる部署を立ち上げ、グローバルでのキャラクターのブランディングをコントロールする。全世界で展開できるライセンシーとも組んでいく方針だ。
キャラクターの活用先の多様化もカギとなる。
例えば新規事業として、幼児向けの英語教材などを展開するエデュテイメント事業を開始。これまでライセンス許諾の形が中心だったゲームは、自社パブリッシングも視野に、国内外のスタジオとの共同開発によって6本以上のリリースを目指す。
ほかにも、アリババグループのアリフィッシュとの共同制作アニメを2025年に公開予定、テーマパークではハーモニーランド(大分県)のエンタメリゾート化も検討している。これまでグッズ中心だった消費者との接点を広げていくことで、収益源を多様化し、IP企業からグローバルエンターテイメント企業へと進化を目指す。
成長に向けて人材確保の課題も
ただし、一朝一夕の進展は難しい。とくに海外や新規事業の拡大には人材面が課題になるだろう。
朋邦社長自身、「グローバルでブランドをコントロールするプロデューサー人材は集めていかないといけない」と指摘する。IP企業がこぞってグローバル展開を目指している環境下、そうした人材は取り合いになる可能性もある。
サンリオは5月に公表した3カ年の中期経営計画で、M&Aや資本提携などに500億円の投資枠を設定しており、外部リソースも活用した機動的な立ち回りが必要となりそうだ。
2023年3月期の本決算後には「時価総額1兆円」という数値目標も掲げた。老舗IP企業からエンタメ会社へと進化を遂げ、株式市場のさらなる期待に応えられるか。ここから2代目社長の真価が問われることになる。
(田中 理瑛 : 東洋経済 記者)