「5万円から1億円」を作るための「銘柄選び」の方法を解説します(写真:Fast&Slow/PIXTA)

「株式投資は『運』に頼るものではなく、『法則性』で勝ち抜くもの。そう語るのは、35年以上に及ぶ豊富な投資歴を持ち、投資関連の著書累計が140万部を超える安恒理氏。株式投資で「5万円から1億円を作る」こともじゅうぶん可能という同氏ならではの「銘柄選び」の方法とは。

※本稿は、安恒氏の著書『5万円からはじめる! 1億円を作る株式投資』から、一部を抜粋・編集してお届けします。

投資する「目的」と「目標」を持つ

お亡くなりになったある株式評論家の方から、いろいろな話を伺いました。その中に以下の話があります。

著名な先生だから、「何か儲けられる銘柄はありませんか」と質問されることがよくあったそうです。先生はそのたびにこう返されていました。

「私はあなたのことをよく知りません。どれくらいの資産があって、どれくらいの余裕資金があるのか。どういった生活スタイルでどういった価値観をお持ちなのかもわかりません。そういった方にどういう銘柄をお薦めしたらいいか、私にはわかりません」

もっともな話です。

投資で資産を増やすにも、目的と目標が欲しいところです。ただ、お金を積み上げたいというのであれば、それは守銭奴かもしれません。

いや、私はこれを否定するつもりはありません。お金を貯めることが自己実現の手段で、満足な人生を送ることができれば、それはそれでいいでしょう。

ただ、できればお金を無駄なく使い、楽しい人生を送るには、しっかりした目標、計画が欲しいところです。

本稿では1億円の目標額を念頭に置いて話を進めていきますが、それぞれご自身のライフスタイルに合わせて、2億円でも5000万円でも設定を変えていただければと思います。

「インフレ時」こそ、株式投資を始める好機

2024年、物価の上昇が続いています。本格的なインフレの時代が到来する予感もあります。一般的に、インフレの時代には株式投資は強いといわれています。インフレとなれば、多くの企業が業績を伸ばしがちだからです。

しかし、インフレになれば利上げが行なわれるのでは、という指摘もあるでしょう。利上げは株価にとってマイナスだからです。しかし、そのマイナスを埋め合わせてなお、株式投資は有利なのです。利上げが行なわれれば一時的に、株価にマイナスに働くこともあるでしょうが、株式市場はまた成長路線に戻るものです。

インフレのシグナルとして消費者物価指数がありますが、過去の消費者物価指数と日経平均のグラフを見てみると、驚くほど相似性があることに気がつくはずです(下の図参照)。


(出所:『5万円からはじめる! 1億円を作る株式投資』より)

※外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください

まさにインフレに入ろうとしているこの時、株式投資を本格的にスタートさせる良い機会かもしれません。

業種や企業によって、インフレに強い銘柄、インフレに弱い銘柄に分かれます。

インフレに強い銘柄といえば、資源関連株が真っ先に思いつきます。逆にインフレに弱い銘柄としては、金利上昇を前提に有利子負債が大きい企業といえるでしょうか。あるいは、原材料価格上昇分を価格転嫁しにくい、「電機」「人材派遣」といった企業もインフレに弱いかもしれません。

いずれにしろ、時代が変わろうとしているさなかでは銘柄も「勝ち組」と「負け組」とに分かれます。株式投資を行なうには銘柄選定がますます重要になってきます。

1億円を作る王道は、地道な「企業研究」から

株式投資を行なうには、まずどの会社に投資するかをチョイスしなければなりません。しかし、一般の個人投資家がその株式を売買できる上場企業は、日本国内だけでも4000社近くにのぼります。

日本経済新聞(日経新聞)の株式欄を見てください。投資可能な企業名がすべて掲載されています。その数の多さに圧倒されるでしょう。その4000社の中からいきなり投資先をピックアップするのは難しいはずです。

株式投資関連の雑誌、情報誌やウェブサイトなどで「推奨株」「有望銘柄」と称して、よく具体的な企業名を紹介しています。これらの記事を参考にするのも悪くはありません。

ただ注意しなければならないのは、その記事を鵜呑みにして、企業のことを知らず機械的に買い注文を出してしまっては、失敗する確率が高くなるという点です。

あくまで「こういう企業があるんだ」という程度から入って、興味があるならその企業のことをよくチェックしていきます。

身近なところで探す

失敗しない銘柄の見つけ方として、普段から自らの「アンテナ」を敏感にして有望な投資先を見つけることです。有望な投資先とは、業績が良く、将来性がある企業ということです。

投資格言に、「遠くのものは避けよ」「知っているものだけ買え」というものがあります。これはいずれもなじみ深い企業、何かしら縁がある企業に投資しろ、ということです。

たとえば自分が愛用している商品を製造、あるいは販売している会社。自分の仕事や趣味などを通じてその業務をよく知っている会社などです。

毎日利用しているコンビニやスーパーなどで、新製品が出たら「売れるか、ヒット商品になるか」という目で見てみましょう。ヒット商品の予感があれば、その企業の業績に大いにプラスとなり、株価も上昇するというわけです。

あるいはよく利用している鉄道やバスなどの交通機関の企業。ほかにも趣味の世界に関する企業も狙い目でしょう。映画好きなら映画関連会社、ゲームが好きならゲーム関連会社といった具合です。

熟知している分野なら、いち早く「変化」に気づくことができます。有望な銘柄は、その変化がわかるからです。

自分だけの情報をいち早くつかむことができるため、日常生活の中で目にするさまざまな企業の活動に注目してください。そうすれば、決算の発表を待たずして、いち早く企業の変化やその業績の変化を察知することが可能になります。

そこから投資対象の候補となる企業をピックアップしていき、企業の活動や歴史、経営陣のプロフィールにも注目していくのです。

スルーしがちな「社長のあいさつ」と「沿革」

企業のホームページを見る

「この会社は有望じゃないか」と目星をつけたら、どんな会社かもっと詳しく調べましょう。

インターネットでその会社のホームページを覗いてみます。会社の理念から業務内容、そして沿革などもチェックしたいところです。ホームページはその会社の「顔」です。雰囲気だけでも重要な判断材料になります。

その中で重要なのが、業務内容や製品情報、財政状況、そして業績です。

業務や製品は、その企業の業績や将来性にかかわります。そして業績は、企業が発表する決算短信でチェックできます。決算短信は年1回の本決算のほか3カ月に1回、四半期決算が発表されます。その都度、最新の経済状況や業績(実績・予想の両方)が発表されます。

軽視できない企業の沿革&社長のコメント

ベテランの投資家でも割とスルーしてしまいがちなのが、「社長のあいさつ」と「沿革」です。

企業の顔である社長の人柄も、企業の将来性にかかわりますが、重要なのが「企業理念」です。世の中にどれだけ貢献し、人々の役に立つか、その決意を読み取りましょう。

社会的責任をしっかり果たそうとする姿勢は、いずれ企業の業績にも反映されます。「自分たちさえ儲かればいい」という企業は、いずれ世間から見放されます。不祥事を起こして株価を大きく下げるような会社は、その社会的責任を果たそうという気概に欠けるものです。

もう一つ見逃してしまいがちなのが「沿革」。創業からどういった経緯で成長を遂げ、上場企業となって現在に至るか。これも見逃せないポイントです。

創業時とはまったく異なる業態になっている企業も

創業から一貫して同じ業種の企業が多いなか、新興企業の中には上場時とまったく異なる業態になっている企業もあります。


たとえば、「美容室の運営からはじめて、現在はゲーム会社」「携帯電話の販売会社で上場して、現在は金融関連会社」といったようなケースです。

上場して潤沢な資金をゲットしたのち、その資金をもとにM&Aを繰り返した結果、そのようなことが起こります。

これは「諸刃の剣」で、M&Aを繰り返すうちに金脈を掘り当てて急成長するケースもあれば、経営が安定しないケースもあります。そのあたりの見極めが重要となります。

企業の財政状況も見ておく

財政状況についても目配りしておきます。「総資産」や「純資産」「自己資本比率」もチェック。自己資本比率は、総資産のうち自己資本が占める割合を示します。数値が高いほど安定性が高く、自己資本比率が80%以上であれば「かなり安全」、20%以下なら「かなりリスクが高い」ということを示します。

決算短信の1ページ目の決算サマリーを確認したら、「経営成績・財政状況に関する分析」というページで今後の経営方針や業績予想などを入念にチェックしましょう。

その会社の株を買って投資するからには以上のチェックを怠らないことです。

(安恒 理 : 現代ビジネス兵法研究会代表)