両国国技館で2023年11月に開催されたeスポーツ国際競技会「Red Bull Home Ground」。これほどの規模で競技会が開催されるようになった(写真提供:eスポーツ情報サイト Negitaku.org)

デジタル対戦ゲームの競技「eスポーツ」に参画する鉄道事業者が増えている。JR各社や大手私鉄の「会社名+eスポーツ」を検索すると、ざっと見ても南海電鉄、JR東日本、東京メトロ、京王電鉄、大阪メトロ、京急電鉄、JR東海、JR西日本、JR九州、東急電鉄、西武鉄道、東武鉄道の各社がeスポーツに関わっている。

「eスポーツ」はコンピューターゲームをスポーツ競技のように楽しむ文化だ。2018年に「ユーキャン新語・流行語大賞」のトップテンにも選ばれて知名度を上げた。この年、日本でeスポーツの普及に取り組んできた3組織が統合されて「JeSU(一般社団法人日本eスポーツ連合)」が設立された。JeSUはこの年を「日本のeスポーツ元年」としているようで、メディアもそれにならっている。

高まってきたeスポーツへの関心

しかし、私がeスポーツを見つけた年は2000年だ。当時私はゲームやIT関連のライターだった。ネタ探しのために東京ゲームショウ2000秋を訪れたところ、会場のいちばん奥の寂しいところで「WCGC(ワールドサイバーゲームズチャレンジ、World Cyber Games Challenge)」の予選大会を開催していた。優勝者は韓国・ソウルで開催されるWCGC本戦に招待された。この試合を記事化して紹介したのは私だけだったような気がする。

当時は韓国でプロゲーマー協会が設立され、プロリーグの大きな試合はテレビで放送されていた。アメリカでは友達の家にPCを持ち込んで対戦する「LANパーティ」が流行しており、大きな競技大会はホテルの宴会場などを貸し切る規模になっていた。しかし日本では見向きもされず、海外の競技会の日本予選が細々と行われるだけだった。だが、取材した選手や関係者は未来を信じて活動を続けていた。

時が経って、2021年頃から鉄道分野のプレスリリースでeスポーツという言葉が現れはじめた。ついに自分のカテゴリーの鉄道分野まで巻き込んでいた。とても感慨深い。

【写真】南海、京王、JR東日本、東京メトロ…鉄道会社が開いた大会やスタジアムの様子など「鉄道×eスポーツ」の最前線(18枚)

JeSUによると、2023年の日本のeスポーツ市場規模は162億1900万円で、2019年の61億1800万円の約2.7倍から右肩上がりの成長となっており、2025年には200億円を突破するという。

市場規模の項目は1位がスポンサー(広告関連)で41.9%、2位がイベント運営で31.0%、3位が放映権で12.7%となっている。ここには従来のスポーツにとって「用具」にあたるeスポーツ対応PC、周辺機器などの売り上げが加味されていない。したがってIT業界への経済効果はもっと大きいだろう。


2022年の日本のeスポーツ市場規模 項目別割合 (出典:『日本eスポーツ白書2023』販売開始豊富な情報量で国内eスポーツ産業の市場動向を分析 より)

eスポーツ市場規模は主に企業の支出を算出しており、参加者市場の算出には至っていない。それでも日本のeスポーツファン数は算出されており、JeSUによると試合観戦、動画視聴、地上波番組経験者から推計されている。2019年の482.9万人から2024年は860.9万人に増えており、2025年には1000万人を超えると予想される。日本の人口の約8%がeスポーツに接触する計算だ。

JeSUの発足とこの調査が企業にとって参入の指標になったのではないか。ユーザー数1000万人が見えてくると、ゲーム、コンピューター関連企業以外の、食品、ファッションなどの企業からも注目される。

つまり、鉄道会社がeスポーツに関心を示したことは特別ではなく、あらゆる企業からeスポーツに関心が高まっており、それは鉄道業界も例外ではないということだ。

鉄道会社が注目する理由は?

では、鉄道事業者はどんな目的でeスポーツに注目しているのか、各社に聞いた。

■南海電鉄:実は「ホークス」の精神が!

2021年に南海難波駅直結の複合商業施設「なんばスカイオ」に「eスタジアムなんば Powered by NANKAI」を開店したとき、プレスリリースでは「難波を中心としたeスポーツ文化経済圏構築を目指して」と題していた。

つまりこれは難波地域の活性化対策だろうと私は思っていた。2031年度目標で地下鉄なにわ筋線が開業すると、関空連絡特急と空港急行は新大阪発着となり、難波は通過点となってしまう。難波に降りてもらうためには、難波を今まで以上に盛り上げる必要がある。


南海電鉄グループのeスタジアムが運営する「eスタジアムなんば Powered by NANKAI」は南海難波駅直結のビル内にある(筆者撮影)

2022年に南海はeスタジアムなんばの事業を承継し、新会社として「e スタジアム」を設立した。次の展開が泉佐野市との協業だ。同年8月に高校生を対象とした「eスポーツ合宿」を開催し、11月にりんくうタウン駅隣接の商業施設「りんくうバビリオ」に「eスタジアム泉佐野」を設置。市民は無料で利用でき、高校生向けの合宿「eスポーツキャンプ」など積極的に競技会やイベントを実施している。

南海にとってeスポーツは単なる「難波地域活性化」ではないようだ。eスポーツに取り組む理由について聞いた。

「理由は、南海電鉄グループのこれまでの歩みにあります。南海電鉄は、戦後5年後には大阪スタヂアム設立。街の復興に並行して、野球文化の醸成とともに青少年の健全な育成に寄与してきた歴史があります。そして今再び、そのDNAを受け継いだ事業として取り組み始めたのが"eスポーツ"です」(広報担当者)

なんと、プロ野球チーム「南海ホークス(現ソフトバンクホークス)」を育てた南海電鉄の精神が引き継がれていた。

南海は中期経営計画のなかで、公共交通事業、まちづくり・不動産事業に次ぐ第3の柱として新規事業に取り組んでいる。この新規事業の枠の中にeスポーツ事業がある。沿線の価値を上げるためだけではなく、eスポーツそのものに事業の可能性を見出している。

JR東日本池袋に大型拠点を開設

JR東日本の関連会社「JR東日本スポーツ」は2021年に松戸駅コンコースに常設施設として「Jexer e-sports station 松戸駅店」を開店した。Jexerは駅構内や駅ビルを中心にフィットネスクラブを運営している会社だ。

なぜeスポーツだったのか。JR東日本グループ e スポーツカフェ有限責任事業組合 PR事務局にその理由を尋ねると、「eスポーツは国籍・年齢・性別・障がいを超越してほぼ全ての人が平等に参加できるフェアスポーツであることに注目し、今後拡大が見込まれるeスポーツ市場において、イベント等を通じて地域活性化に貢献したい」とのことだった。

同店は駅改良工事でコンコースを広げるため2023年10月に閉店したが、2024年1月、新たな拠点として池袋駅東口の「Café&Bar RAGE ST」の2階に「Jexer e-sports station」を開店した。Café&Bar RAGE STは1階がカフェ&バーエリア、2階がグッズエリアとなっている。「RAGE(レイジ)」はCyberZ、エイベックス・エンタテインメント、テレビ朝日が運営する国内最大級の e スポーツエンターテインメントのブランドで、コンテンツパートナーとして参加している。日本のeスポーツ文化としてもかなり大きな常設拠点といえる。


「Café&Bar RAGE ST」は池袋駅東口、かつて「ベッカーズ」があったところ。1階はカフェ & バーエリアで、ベッカーズが持っていた軽食喫茶需要も引き受ける(写真:JR東日本クロスステーション資料より)

新規事業創出プログラムがきっかけに

東京メトロ:鉄道会社らしい?ユニークな大会

東京メトロは3月にeスポーツ大会「TOKYO METRO CUP STREET FIGHTER 6(東京メトロカップ ストリートファイター6)」を開催した。決勝大会はJCG豊洲スタジオでオフラインで開催し、YouTubeチャンネルにてLIVE配信され、約2万人が観戦した。演出の随所に東京メトロの路線や駅名標をあしらっており、試合を中継するMCも鉄道員のコスプレ、背景は地下鉄車内というこだわりようだ。決勝戦終了後、チャット画面の「鉄道会社らしく時間通りに終った」というコメントが面白かった。

東京メトロとeスポーツの関わりは「eスポーツジム 赤羽岩淵店」だ。2021〜2023年に、赤羽岩淵駅直上のビルにて運営していた。eスポーツ教育事業を展開する企業、ゲシピとの協業で、東京メトロは同社に資本参加している。

きっかけは東京メトロが2016年から開催している「Tokyo Metro ACCELERATOR(東京メトロアクセラレーター)」という、同社の経営資源と社外のアイデアや技術を組み合わせて新規事業創出などを目指すプログラムだ。この中でゲシピの「東京メトロ沿線でのeスポーツジムの展開」が採択された。


「eスポーツジム 赤羽岩淵店」は赤羽岩淵駅出入り口に隣接していた(筆者撮影)

東京メトロは、「eスポーツの裾野を拡大し、東京の魅力・活力を創出することが目的です。年齢や性別・国籍・障がい等の壁を超えて、誰もが参加することができる共生社会やダイバーシティ社会の実現に大きく寄与する点に、eスポーツの魅力を感じております」(広報担当者)という。

「eスポーツジム 赤羽岩淵店」はゲシピとの協業を解消し「eスポーツジム」としては閉鎖したが、引き続きeスポーツを活用した就労移行支援やシニア向け施策を中心とした店舗として運営していくという。

■京王電鉄:今やeスポーツのブランドに

京王電鉄は2023年に期間限定で笹塚にeスポーツ体験施設を開設、その後に「KEIO eSPORTS LAB. CHOFU(京王eスポーツラボ調布)」を調布に常設している。また、2023年2月にはオンライン形式で大会「KEIO CUP Apex Legends(京王カップエーペックスレジェンズ)」を開催。2024年1月に東京ドームで開催された「東京eスポーツフェスタ2024」内では「KEIO CUP STREET FIGHTER 6(京王カップストリートファイター6)」を開催した。「KEIO CUP」はeスポーツのブランドとして浸透しつつある。

2024年3月には東京都調布市の武蔵野の森総合スポーツプラザメインアリーナにて「京王電鉄eスポーツ祭」を開催した。格闘ゲーム大会「京王電鉄 Presents 鉄拳8 3on3 Tournament」は40チームが参加。また、オンラインカードゲーム「Shadowverse(シャドウバース)」のプロチーム選手とのオフライン対戦会や、「IdentityV 第五人格」という、追う側追われる側に分かれて生存を競うゲームの日本予選大会を大型スクリーンに映し出し、eスポーツ選手とウォッチパーティ(パブリックビューイング)も行われるなど盛りだくさんの内容だった。


eスポーツチームと日本予選をパブリックビューイング。女性参加者が多かった(写真提供:JCG)

京王はeスポーツへの取り組みについて、「α世代Z世代を中心として幅広い世代に人気があるeスポーツと、沿線に根差して事業を展開する民鉄の事業モデルとの化学反応の可能性を感じました。弊社のeスポーツやe教育(プログラミングをはじめとしたデジタル教育)の取り組みにより、沿線の特に若い層のお客さまと京王グループの新たな関わりを生み出していくとともに、沿線におけるデジタル人材の育成など、魅力的な『まちづくり』を進めていきたいと考えています」と説明する。

■大阪メトロ:初心者向けセミナーも開催

大阪メトロは2024年2月に京橋コムズガーデンでeスポーツイベント「メトスポ(Osaka Metro eスポーツ)」を開催した。4日間にわたる大型イベントで、事前申し込み不要で競技会に参加できた。競技種目は「グランツーリスモ7」「ぷよぷよeスポーツ」「FallGuys」「ロケットリーグ」。4つのうち2つがレース系で、わかりやすさを重視したようだ。

競技会と並行してセミナーが開かれていた。内容は「はじめてのeスポーツ 何を買えばいい?」という初心者指南と、「eスポーツって健康・健全!」という、親御さん向けの説明会だ。大阪メトロという、京阪神で誰もが知っている交通機関がこのイベントを実施する意味はeスポーツ業界にとって大きいと思う。

大阪メトロによると、このイベントは「実証実験」の意味もあったという。「大阪メトロが快適な日常生活を送るうえで必要なサービスや、顧客体験価値向上につながる新たなサービスを今後提供していくにあたり、eスポーツが娯楽、エンターテインメント領域にとどまらず、広く活用できる可能性を秘めていると考えて、実証実験という形で取り組みました」(広報担当者)。今後の展開は未定で、今回の実証実験の結果を踏まえて検討するとのことだ。


「メトスポ」の来場者グループ同士で突発的に始まったFallGuys大会。交流の輪が広がる(写真:メトスポ公式Xより)

■京急電鉄:川崎の大型アリーナで競技会も?

京急電鉄は2023年にeスポーツを活用した地域コミュニティ「横浜GGプロジェクト」を発足した。eスポーツ事業を展開するVARRELとピーシーデポコーポレーションが連携し、横浜市が後援する。eスポーツを通じた地域コミュニティ拡充が目的だ。プロジェクトではみなとみらい地区の「横濱ゲートタワー」にeスポーツ拠点を設置し、選手の育成やセカンドキャリア支援、高齢者や障がい者向けeスポーツ体験会などを実施している。


横濱ゲートタワーに開設予定のeスポーツ拠点 (写真:ピーシーデポコーポレーション資料より)

また、京急はディー・エヌ・エーと共同で京急川崎駅隣接地に最大1万5000人収容のアリーナを含む大型施設プロジェクトを進めており、2025年着工・2028年開業予定だ。Bリーグ(バスケットボール)の「川崎ブレイブサンダース」本拠地になるほか、eスポーツ競技会も視野に入れている。

京急沿線の横須賀市も2019年から「YOKOSUKA e-Sports PROJECT」を展開している。eスポーツをまちづくりに生かす目的で、市内の高校にeスポーツ部の設立を支援するなどしている。2022年には同市の谷戸地区活性化事業として上下水道局旧待機用宿舎を整備し、プロeスポーツチーム「BC SWELL」が入居した。これはNHKのテレビ番組「いいいじゅー!!」で紹介され、地域活性化策として注目されている。

羽田空港とリニア中央新幹線品川に接続する京急とその沿線が連携すれば、日本のeスポーツがもっと盛り上がりそうだ。誰かが音頭をとってまとめるなら、それは京急グループの仕事だろう。

また、鉄道事業者のeスポーツ部門、クラブ同士の交流戦も開催されている。2023年3月に京王電鉄、JR東日本スポーツ、東京メトロ、南海電鉄の4社は、「トレインマッチ」と題して「Fortnite(フォートナイト)」のeスポーツ施設対抗戦を実施した。

また、社会人eスポーツリーグ「AFTER 6 LEAGUE」には4つの競技で延べ103チームが参加しており、東京メトロ、JR九州もリストアップされている。企業内、企業間、異業種交流のツールとしてもeスポーツが活用されている。

eスポーツ活性化のキーパーソンはどう見るか

永らく日本のeスポーツ活性化に取り組んできた人々は、企業や鉄道事業者の参入をどう捉えているのだろうか。

2002年に開設されたeスポーツ情報サイト「Negitaku.org」は、私がeスポーツライターを名乗っていた頃に、もっとも頼りにした情報源だ。管理人のYossy氏に聞いた。

「近年は、鉄道各社と並んで教育事業者、高齢者福祉の取り組みが印象的です。eスポーツ上達を目的としたスクール、eスポーツを通じた英会話、コミュニケーション促進などの事業が展開されています。小学生から大学生世代まで、幅広い層に需要があります。高齢者施設では、eスポーツが導入され、頭や手の運動、施設の仲間や孫たちとのコミュニケーション促進に一役買っています。これからの高齢化社会では、ゲームに親しみのある世代が増えていきますから、シニア向けのeスポーツサービスはさらに需要が増してくるのではないでしょうか」

鉄道事業とeスポーツの関わりはどうみているか。

「eスポーツの一般認知が促進されることに期待しています。近年では駅構内にeスポーツ施設ができたり、鉄道主催のeスポーツイベント告知ポスターが掲示されたりするようになってきました。多数の乗降客がある駅周辺におけるこのような流れは、不特定多数のeスポーツの存在を認知してもらえることにつながるので、eスポーツ業界には前向きであると捉えています」

大手私鉄は鉄道事業だけではなく、多数のグループ会社を持つ。ほとんどが沿線の人々の生活に関連しており、eスポーツの窓口として有望だろう。

もう1人、18年前の電通勤務時代にeスポーツの可能性を知り、その後独立してeスポーツ団体代表として大学や高校の講師を務めるなど、興行・教育の両面からeスポーツの普及に取り組んできた筧誠一郎氏に聞いた。鉄道事業者の取り組みの中では南海電鉄に注目しているという。


2023年8月に和泉市で開催された『マイクラでまちづくり!!?小学生1000人で夏の自由研究2023』は株式会社関西都市居住サービスが主催。eスタジアム株式会社が運営した(写真提供:南海電鉄)

「鉄道業界は新規事業のひとつとしてエキチカのeスポーツ施設を作ることが増えてきています。これらの動向によっては数多くの鉄道業界が参加してくる可能性があると言えます。そのような中で南海電鉄は『eスタジアム株式会社』を設立し、eスポーツに関する『施設運営事業』『大会イベント事業』『オンラインサービス』の運営を行うということで本格的な事業参入をしたと言えます。特に泉佐野市の『eスポーツMICEコンテンツ実証事業』の受託者として、全国の子どもを対象とした職業体験イベント『eスポーツゲームクリエイターアカデミー2024春』などを行っており、さまざまな展開に注目しています」

鉄道事業者にとってeスポーツは「異分野・異業種」だ。イベント会場として施設を提供するだけではなく、eスポーツを理解した、あるいは体験した担当者と、運営ノウハウを持ったパートナー企業が不可欠だ。

たとえば東京メトロが資本参加しているゲシピの「eスポーツ英会話」は、ゲーム内で英語圏の友人と対戦、チーム連携するための会話を学ぶ機会を提供する。実際のスポーツでは現地に留学しなければ不可能だった体験ができる。

京王電鉄は「TechnoBlood eSports(テクノブラッドeスポーツ)」に出資している。東京メトロと同様、外部企業と連携する共創プログラムにおいてeスポーツ事業を採択したパートナーだ。「eSPORTS LAB」の運営を手がけている。

「TOKYO METRO CUP STREET FIGHTER 6」と「京王電鉄eスポーツ祭」を運営した会社は「JCG」だ。2013年に設立され、eスポーツ大会やイベントの運営、eスポーツを通じたマーケティング企画支援などを手がける。現在は年間1000回以上に及ぶ大会運営の実績がある。JCGは発足時から「Japan Competitive Gaming」というオンライン大会サイトを運営しており、現在も継続中だ。個人が始めたサイトが成長し、現在は日本テレビ放送網の出資を受けて、日本テレビグループの会社になっている。

eスポーツの黎明期から生き残った人々や企業が、いまは参入企業のアドバイザーとして導く立場だ。eスポーツチームも単なるプレーヤーではなく、ビジネスとして成立するようになった。鉄道事業とeスポーツという縁のなさそうな関係も、こうしたパートナー企業のおかげで参入しやすくなっている。

eスポーツの「教育的成功」と「興行的成功」

「京王電鉄eスポーツ祭」で、JCG代表取締役の松本順一氏と何年かぶりに再会した。彼と私は「matsujun」「sugijun」の名で、一時は共にeスポーツ情報サイトを作った仲である。

「杉山さん、観客を見てよ。お洒落な女の子たちがたくさんいるでしょう。推しのプレーヤーを応援するために、お洒落してイベントに来てくれたんです。僕らが出会った頃とは違う景色ですよ。eスポーツはそんな時代になったんです」

着飾ってキャスター付きのトランクを引いてきた少年少女は、どこからやってきたんだろう。会場に入る前も、駅へ向かう親子が「楽しかったね」と会話していた。これもうれしかった。私はひとり浦島太郎のような気持ちになった。もう感動しかない。


「京王電鉄 Presents 鉄拳8 3on3 Tournament」全国から猛者が集まった(写真提供:JCG)

かつてeスポーツを取材していた頃、eスポーツプロデューサーでゲームクリエイターの犬飼博士氏と「日本のeスポーツの成功とはなにか」を考えていた。プロゲーマーが誕生し、大規模なゲーム競技会が行われたら大成功だ。しかし、オリンピックスポーツのように海外のプレーヤーと交流し、互いの国や地域を知り尊重すること。たとえば5人対5人のチーム対戦ゲーム「カウンターストライク」では仲間とのコミュニケーション、協調性、戦略性がなければ勝てない。それができる人間を育てること、つまり教育と世界の平和に寄与することがeスポーツの「スポーツとしての成功」だと思っていた。

鉄道事業者にとってeスポーツは「教育事業」の要素が強いようにみえる。それは正しいあり方だと思う。これからは「興行的な成功」にも挑戦してほしい。沿線の人々を幸せにする方法として、eスポーツはとても良い題材だとあらためて思った。鉄道会社やそのグループ会社でeスポーツ事業に携わる人々の「2つの成功」を心から祈っている。


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(杉山 淳一 : フリーライター)