謝罪するトヨタカスタマイジング&ディベロップメント(TCD)の西脇社長。「(法的な)プロフェッショナル、第三者の視点が欠けていた」と話した(記者撮影)

自動車業界での下請法違反がまた発覚した。

公正取引委員会は7月5日、トヨタ自動車の子会社「トヨタカスタマイジング&ディベロップメント(TCD)」が下請法違反に違反する行為が認められたとして、同社に対し違反行為で発生した取引先の対応費用の支払いや再発防止を求める勧告を行った。

「やってはいけないことをやってしまった」。TCDの西脇憲三社長は同日会見し、謝罪した。トヨタが90.5%、豊田通商が9.5%を出資する同社の主力事業は特装車の生産で、カスタム部品の開発なども手がける。2024年3月期売上高は前期比24%増の1035億円、営業利益は同80%増の171億円と高収益を誇る。

金型の無償保管と不当返品

公取委が違法と指摘したのは2つある。1つが部品生産に使用する金型の保管費用の未払いだ。公取委によると遅くとも2022年7月以降、TCDは部品メーカー49社に対し、製品の発注を長期間行っていないにもかかわらず、貸与していた合計664個の金型や検査機を無償で保管させていた。

もう1つが不当返品。TCDは部品メーカーからバンパーなどを受け取った後、納品時の品質検査を行っていないにもかかわらず、瑕疵があるとした部品を不当に返品していた。部品メーカーの一部は金型の無償保管と重複がある。

金型費用の未払い対象49社の被害額は数千万円になる可能性があり、TCDは相当する費用を各社に支払う。不当返品の対象は65社で、被害額の5427万円はすでに支払い済みだという。

西脇社長は不正の要因について、「自分たちで気づくことができなかった。今の仕事が正しいのかどうか、自ら問いかけていく姿勢が足りなかったのではないか」と話し、法的知識が不足していたことも明かした。

自身も含めてグループ全体で不正が続発しているトヨタ自動車は「トヨタとしてもTCDの再発防止に向けた取り組みをサポートしていく。今回の件を学びとして、下請法にとどまらず、子会社に対するコンプライアンス徹底に向けた取り組みを強化していく」とコメントした。


公取委による“下請いじめ”の摘発が活発化している(記者撮影)

「一言で言うと認識が甘い、ということだ」。公取委下請取引調査室の大澤一之・上席下請取引検査官は、TCDを厳しく批判する。TCDは金型費用の未払いにおいて、金型の保管費が部品の購入費用に含まれていると誤認。不当返品では取引先による出荷前検査が、下請法で定義する品質検査などに該当すると誤った認識で運用をしていたという。

大澤検査官は「金型の無償保管や不当返品は取引慣行になってしまっているケースも多く、非常にオーソドックスなケースとも言える。経営者はしっかり法律の中身を理解してほしい」と呼びかける。実際、金型の無償保管はサンケン電気やサンデン、ニデック子会社「ニデックテクノモータ」などが、不当返品はコストコホールセールジャパンなどが、公取委からの勧告を受けている。

金型を扱う部品メーカー幹部は「仕入れ先に無理矢理保管させれば、部品を保管するための土地費用などを発生させてしまう。最も注意を払って対応する部分の1つだ」と話す。

下請法の適正な運営の重要性が増す

公取委によるいわゆる“下請けいじめ”の摘発は活発化している。

ここ数年、公取委による下請法違反による勧告・指導は8000件を超える。背景には岸田政権が中小企業の賃上げ強化を掲げていることがある。インフレによって燃料費や原材料費、労務費が高騰する中、下請けとなることが多い中小企業は取引の力関係から価格転嫁が十分にできず、賃上げ余力を持てない場合が少なくない。

一方、発注側企業に対して「そもそも下請法の中身を全く理解していない事案も少なくない。理解していれば起こらなかったことだ」(公取委幹部)との声も漏れる。中小企業が本来得るべき利益を上げられる環境整備のためにも、下請法の適正な運用の重要性が増している。


TCDは特装車の生産や車体部品の開発・製造を手がけるトヨタ自動車の子会社(記者撮影)

特に注目を集めているのが自動車業界だ。下請けいじめは特定業界の問題ではないが、完成車メーカーに幅広いサプライチェーンを持つ自動車業界で取引関係を正常化する社会的意義は大きい。もともと取引先に対する要求が厳しい業界でもあり、「違法とまでは言えなくても、『優越的地位の濫用』に近い行為は産業ピラミッドの上から下まで蔓延している」(自動車メーカー元首脳)。

今年3月には日産自動車が下請け企業36社への納入代金を一方的に減額したとして、再発防止を求める勧告を受けた。違反総額は約30億円で、2004年以降に公取委が勧告した中で過去最高額となった。日産は現在、部品メーカーへの実態調査を進めており、再発防止策の策定に取りかかっている。

2021年には、マツダが部品メーカーから不当な手数料を徴収していたとして下請法違反で勧告を受けている。また、下請法違反の認定ではないが、下請け業者のコスト上昇分を適切に価格交渉しなかったなどとして、2022年にデンソー豊田自動織機、今年3月15日にはダイハツ工業や三菱ふそうトラック・バスの社名が公取委によって公表されている。

業界団体・自動車工業会が行動計画を改定

業界としても問題意識を持っている。完成車メーカーを中心とした業界団体・日本自動車工業会は、部品メーカーとの取引において原材料やエネルギーといったコストの上昇分は価格に全額転嫁することを目指す、と自主行動計画を改定した。


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片山正則会長は「やはり声を上げにくい雰囲気もあると思う。自動車メーカー側から疑問点や問題点がないかを吸い出していかないといけない」と話す。

自動車業界はEV(電気自動車)シフトや車両の電子化が急激に進み、従来の自動車メーカーを頂点とした産業構造が変化しつつある。従来の商慣行が成り立ちにくくなる中、業界の常識そのものを抜本的に見直す時期がきている。

(横山 隼也 : 東洋経済 記者)