教員の労働環境の改善が課題になっている。大阪市の公立小学校に勤務する松下隼司さんは「私の学校では午後に45分間の休憩時間が設けられているが、実際に休んでいる同僚を見たことがない。朝8時ごろから定時の17時までノンストップで走り続ける働き方が当たり前では、教員になりたいと思う人は減っていくだけだ」という――。
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■日本の小中学校の教員は働きすぎている

最近、教員の働き方や給与を定める法律「給特法」の見直しで、残業代の代わりに給与に上乗せされる「教職調整額」を、月給の4%から10%以上に引き上げようとする動きが出ています。

時間外労働の長さ(残業時間や家に持ち帰っての仕事)を考えると、引き上げられるのが10%以上というのは低いな〜と正直、思います。でも、消費税と同じように今後、少しずつ引き上げてもらえるかもしれないと考え直しました。

時間外労働の他に、教員の業務量の多さも海外の教員と比較して取り上げられるようになりました。2018年のOECDの調査によると、日本の小中学校教員の1週間の仕事時間は50時間を超えていて、48の参加国・地域の平均38.3時間を大幅に上回り、最長です。

出典:文部科学省「我が国の教員の現状と課題 TALIS2018結果より」

■学校の先生はいつ休憩しているのか

こうした教師の働き方の実態がメディアで報道されるのと合わせて、「教員不足」「教員採用試験の倍率低下」「教員の休職・退職」といった問題も取り上げられるようになりました。

だから、給特法が1971年以来、初めて引き上げられることで、教員になってみようと思われる方がほんの少しでも増えることを期待しています。そして、給与改善の次に、労働環境も少しでも改善されることを願います。

教員の働き方は民間企業とは少し異なるため、「休憩時間」の実情については、あまり知られていないかと思います。今回は、現場の教員が普段どのように働いているのかを知ってもらうため、休憩時間にフォーカスして紹介します。

私の場合、勤務時間は8時30分から17時までです。でも、児童が8時すぎから登校するので、8時ごろに出勤しています。私には今、保育園に通う4歳の娘がいて、毎日、送り迎えをしています。

最初、保育園に「なぜ、こんなに早い時刻に預けるのか?」「もっと遅めに登園してもいいのでは?」というようなことを言われました。私が学校の実情を粘り強く説明して、早めに登園することを許してもらえるようになりました。

■45分間、休んでいる教員を見たことがない

教員の休憩時間(1日の勤務時間が6時間を超える場合)は、1日45分間です。

私は、教員22年目ですが、勤務したどの学校でも15時15分〜16時が休憩時間として設定されていました。おそらくほかの学校でも昼食時ではなく、放課後に休憩時間が設定されていると思います。

それは、昼食時間は児童の給食の時間で、教員は休憩できないからです。給食を運び、配膳、おかわり、片付けをすると、教師の給食を食べる時間は15分程度です。しかも15分すら確保できないこともあります。児童が給食をこぼしたり、吐いたり、ケンカをしたりといったトラブル対応があったら、昼食をとれないこともあります。だから、休憩時間が15時15分〜16時に設定されているのです。

ただ、この45分間の休憩時間に休んでいる同僚を、私は22年間の教員生活で1人も見たことがありません。私も1度もありません。

その理由は、そもそも休憩時間が6時間目の授業と重なっているからです。6時間目の授業が終わるのは、15時30分ごろです。そこから帰りの支度をさせて、「さようなら」の挨拶をして、さらに児童を補習や行事指導で残すこともあります。児童のために休憩時間を返上しています。そしたら、あっという間に休憩時間が終わる16時です。

結局、出勤してから定時まで働き続けることになり、17時を過ぎてからようやく一息つけるようになります。

■重要なイベントが休憩時間に被っている

校内で会議や研修がある場合、通常は16時から始まります。しかし、内容が多い場合は、会議や研修が早め(休憩時間中)に始まることがあります。児童のためにというのはもちろんですが、会議や研修が定時を超えてしまうと、育児や介護や家事や通院などの事情がある教員に負担をかけてしまいます。そうならないように、という配慮もあります。

また、校外で研修がある場合(16時開始)は、休憩時間を使って移動しないと間に合いません。15時ごろから校外で研修がある場合は、研修時間と休憩時間と重なっています。

100人以上の教員がいる研修会場で、休憩時間だからといって退出する教員を、私はこれまで1人も見たことがありません。もちろん私もです。理由は児童のためだからです。

また、家庭訪問や学級懇談会や期末個人懇談会も、教員の休憩時間と完全に重なっています。そんな事情がありながらも、私は保護者に、

「お忙しい中、お時間を設けていただきありがとうございます。」

と、心を込めて言ってきました。

■休憩時間こそ仕事をするチャンス

そもそも私は、自分の休憩時間が何時から何時まで設定されているか、教員になって10年間は知らなかったのです。休憩時間を意識しない働き方を当たり前のようにずっと続けていました。

だから、夏休みや冬休みに45分間の休憩時間をとれると、贅沢な時間だな〜、優雅な時間だな〜と思っていました(春休みは年度末と新年度準備の業務がものすごく多いので、45分間の休憩はとれていないです)。

会議や研修、出張などがない日の休憩時間は、仕事をするチャンスの時間です。放課後に会議や研修があると、授業や行事の準備をする時間がほとんどないからです。休憩時間に少しでも仕事をして、残業や自宅に持ち帰っての仕事を少しでも減らします。だから、休憩時間に休んでいる同僚を見たことがないのです。

ちなみに、都道府県や自治体によって、教員1人の週あたりの授業時間は違います。私の場合、クラブ活動や委員会活動の時間を入れて、授業時間は週27時間程度です。30時間(6時間×5日)、全部授業で埋まっている教員も全国にはたくさんいるかと思います。

■ノンストップで働くのが当たり前だったが…

これらの事情で、休憩時間に休憩しない(できない)ですが、休憩時間の振り替えはありません。1度もです。求めたこともありません。私のほかに求めた教員や求められた管理職も知りません。お互いどうしようもないことを知っているからです……。休憩時間をとっているどころではないぐらいの業務内容・業務量があることを、お互いに知っているからです……。

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私は朝8時ごろから退勤するまでノンストップで走り(泳ぎ)続けるような働き方を20年以上、続けてきました。これが当たり前だと、もう慣れてしまいました。でも、自分のような働き方を若い教員に求めてはいけないと思っています。

休憩時間など、教員を取り巻く労働環境が少しでも改善すれば、「教員不足」や「教員の休職・退職」や「教員採用試験の倍率減少」の解消につながるとも思います。

教員の働き方について、「業務をもっと効率化することで、休憩時間をとれたり、残業や仕事の持ち帰りが減ったりするのでは?」という考えがあります。しかし、これは難しいと言わざるを得ません。

教員数をもっと増やしたり、1クラス当たりの児童数の数を減らしたり、業務量を日本以外の先進諸国の水準にしたりするのは現実的ではないからです。お金もものすごくかかります。

■個人レベルの業務効率化はすでにやっている

「組織的な改革は難しくても、個人レベルで業務効率化を図ればいいのでは?」という意見もあるかもしれません。これについては、教員一人ひとりがすでに取り組んでいると思います。たとえば私の場合、以下のような工夫をしています。

・テストの際、答案用紙を提出した児童から順に採点する

国語や算数、理科、社会、漢字テストなどたくさんのテストがあるのでテスト時間中に処理するようにしています。保育園のお迎えがあるので、放課後に採点する時間がないからです。また、帰宅後も育児や家事があり、自宅で採点する時間もありません。児童にとっても、できるだけすぐに返却したほうが間違い直しがしやすく、効果的です。若手のころは、よく定時を過ぎてから遅くまで残業して採点したり、自宅で採点していました。

・テストの採点で「100点中」の部分を省略する

「100」と記入しないで、「/」と省略して記入するようにしています。その分、採点にかかる時間が短くなりました。学級に30人以上いる場合、特におすすめです。

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■自分の給食を少なくして、時間を確保

・自分が食べる給食の量を少なくする

こうすると早く食べ終えられます。その分、児童と話したり、児童の食事を確認したりする時間が増えます。

・会議や研修の司会を担当する場合、1人の教員が話す時間の目安を示す

例えば、放課後16時から会議があるとします。定時が17時なので、1時間で会議が終わるようにします。会議に10個の案件があれば、1時間で終わるように「1つの案件、5分程度でお願いします」と時間の目安を伝えています。

ただ、これらの工夫をしても、残業や持ち帰り業務がほとんど減らないぐらいの業務量があります。勤務時間内に次の日の5〜6時間分の授業の準備をすることができないのが現実です。

■アメリカのように「夏休み3カ月」は不可能

以前、アメリカから転校してきた児童を担任したことがあります。その児童に聞いて驚いたことがあります、その児童が通っていたシカゴの小学校は、5月末から8月末までの3カ月間が夏休みなのです。そして、8月末から新年度が始まるのです。

教員目線で捉えると、年度末処理と新年度準備を3カ月間かけてできるのです。私が勤める大阪では、春休みは2週間(平日10日間程度)です。初任の頃、4月は死ぬほど忙しい「死月」と先輩教員に教わったほどです。残業や家に持ち帰って仕事をしないと、教科書を開いて授業の準備をするのもままならないまま、1学期が始まってしまいます。

だからといって、アメリカのように日本も夏休みや春休みを増やすことは現実的ではありません。そこで、教員の業務負担を減らす「学校版・働き方改革」のアイデアを紹介いたします。微々たるものですが。

■会議・部会を減らせば余裕が生まれる

1つ目は、放課後の会議を減らすことです。

これまで勤務した学校で、ものすごく放課後の会議が少ない学校がありました。企画会議や部会がなかったのです。例えば、「運動会」の案件があるとします。まず、体育部や健康教育部の教員が集まった部会で、運動会についての案件を検討します。部会での検討を基に、次は学年主任や管理職などが参加する企画会で、運動会について検討します。企画会議でも案件が通ったら、職員会議で全教職員に知らせます。

この職員会議の前にある企画会議と、さらにその前にある部会をなくしたのです。毎月、2つの会議がなくなる分、他の仕事をできるようになりました。

2つ目は、「3学期」制でなく「前期・後期」制にすることです。

3学期制だと通知表を3回作成しますが、前期・後期制だと2回で済みます。また、前期の通知表は、夏休み明けの9月ごろに児童に渡すので、成績を夏休みにつけることができました。

こうした現場からのアイデアを吸い上げ、実現していってほしいと願います。そして少しずつでも教員の労働環境が改善され、教員になってみたい! 教員を続けたい! と思う方が増えてほしいです。

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松下 隼司(まつした・じゅんじ)
公立小学校教諭
1978年生まれ。奈良教育大学卒業。2児の父親。関西の小劇場を中心に10年間演劇活動。令和6年版教科書編集委員を務める。著書に絵本『せんせいって』(みらいパブリッシング)、『ぼく、わたしのトリセツ』(アメージング出版)、教育書『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』(東洋館出版社)、『教師のしくじり大全 これまでの失敗とその改善策』(フォーラムA企画)などがある。教師向けの情報サイト「みんなの教育技術」でコラムを持つほか、Voicy「しくじり先生の『今日の失敗』」でパーソナリティを務める。
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(公立小学校教諭 松下 隼司)