えっ!「車検」通らなくなる!? “2026年夏”から始まる「ロービーム検査」って何? “延命処置中“に考えたい対策とは
ヘッドライト検査方法「延期」に至った経緯とは
車検の際に行うヘッドライト検査を「ロービーム」で行うことは、2024年8月から開始されるはずでした。しかし自動車整備工場などから多数意見が挙げられたことから、一部地域を除いて開始時期が2026年8月に延期されました。
あくまでも開始時期の延期であり、やがてはロービーム検査になることに変わりはありません。そこで延期になった経緯と新たな経過措置の内容、そしてユーザーとしてできる対策を考えてみます。
2024年5月、今夏8月から車検時のヘッドライト検査をロービームで行っているケースがあると報じられました。
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筆者(くるまのニュースライター 吉越 伏男)はその際に、ロービームで検査不合格になっても、またハイビームで受験して合格しているクルマがあるという事例を見聞きしています。
しかしその直後に、ロービームによる検査開始時期が、地域により2026年8月に延期されると発表されました。なぜ突然延期になったのでしょうか。
今回の変更に限らず、国などの新しい施策や改正は、一般的に国会や省庁で決定後すぐに実施されるのではなく、決定からおおむね2年後に施行されます。
その2年間で関係する人に周知を図ったり、対策できるようにするための一種の猶予期間です。
今回のロービーム検査への変更は、検査を行う検査場はもちろんのこと、整備工場や自動車ユーザーも利害関係者となります。
国土交通省と傘下の自動車技術総合機構が周知や意見交換会を実施したところ、ユーザーからさまざまな意見が寄せられたといい、今回の延期につながった模様です。
まず今回の改正は2023年8月に決定しましたが、制度開始が2024年8月と、猶予期間が1年間しかありませんでした。
自動車整備事業者には周知されたものの、ユーザーの周知が不十分だった点が課題だったといえます。
車検の時には、国とユーザーの間に立つ整備工場が対応に苦労するため、整備工場は「国からもユーザーへ周知してほしい」との声を上げました。
また整備工場からは、いくつかの対応が困難だった例が挙げられています。
一つ目は、レンズを磨くだけでは合格状態にならないことです。
これは、ライトレンズが曇ってしまった古いクルマのユーザーなら経験されたことがあるかもしれません。
二つ目に、オートハイビームのクルマは角度の調整が困難であることです。
車種によっては、これまでのクルマのようにヘッドライトの角度をねじの調整では出来なくなっているようです。
さらに三つ目として、検査合格レベルが高いということです。
なかには新車ですら不合格になったケースもあり、事前に整備工場のヘッドライト検査機器で調整しても検査場では不合格になったことがある、といった意見が寄せられたといいます。
また一部のクルマでは、ロービーム状態でヘッドライトの向きを合わせた場合、ハイビームの時にまぶしく感じられる例もありました。
四つ目に、古いクルマの場合にはヘッドライトの部品がなかったり、あっても部品代が10万円以上になることが多いことです。
市場にはまだまだ古いクルマも多く、ユーザーに対して何らかの救済処置を望む声も挙げられました。
こうしたさまざまな声が数多く発生したために、ロービーム検査への完全移行時期が延期される措置が決まったようです。
古いクルマに対する救済策はあくまでも「期間限定」
ロービーム検査に対し、現場からさまざまな意見が寄せられたことで、国土交通省では以下の対策を決めました。
まず、ロービーム検査への移行期限を2024年8月から2026年8月へ延期することになりました。
ただし、すでに北海道、東北(青森、岩手、宮城、福島、山形、秋田)、北陸・信越(新潟、長野、富山、石川、新潟、長野)、中国(岡山、広島、山口県の中・東部、島根、鳥取)の検査場ではロービーム検査体制が出来ているために、延期しません。
これ以外の地域の関東(茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨)、中部(静岡、愛知、岐阜、福井)、近畿(滋賀、京都、大阪、奈良、和歌山、兵庫)、四国、九州では、移行期限が延期されるとともに、検査方法もこれまで通りロービームでもハイビームでも可能という措置が継続します。
しかし、検査を受ける手順は少し変わるようで、中でも近畿地方では以下の手順に変更すると案内されています。
まず、1回目の検査は必ずロービームで行います。ここで基準に適合していれば合格、基準に適合していない場合には不合格となります。
不合格の場合は再検査が可能ですが、その場での再検査はせず、検査を受けるクルマの列からいったん外れ、再び検査の順番を待つ列に並び直します。
そして並び直した2回目の検査では、ロービームの向きが前のクルマや対向車に迷惑をかけないことが確認後、ハイビームで検査を受けられます。
すなわちロービームでライトの向きを検査し、明るさはハイビームで検査する形だといえます。
なお、検査を受けられる回数は1回の受験申請で合計3回までと定められていますので、再検査に2回落ちたら改めて受験申請をしなければなりません。
検査不合格後に何もせずに再検査を受けても、合格しないのは明らかです。
検査を受ける整備工場の側でも、運に任せて再検査を受けるようなことはせず、検査に合格するような整備をしてから検査に臨むと考えられます。
そのため、検査に受かりそうもない状態のクルマでは車検継続は難しいことや、整備費用がかなり掛かりそうなことをお客様に説明すると予想されます。
この検査方法も2026年7月末までの経過措置であり、2026年8月以降はロービーム検査が始まります。
ヘッドライトの状態が良くないクルマも、あくまでも2年間延命できたにすぎません。
なお、近畿地方以外の地域での受験方法は、現在のところ不明です。
国や関係団体などによる「周知活動」や「対応策」の検討も始まったが……
今回のロービーム検査延期を受けて、国と関係者は次のような取り組みをすると発表しています。
まずユーザーに対して「ロービーム検査が始まること」と「クルマの状態によっては整備費用が増す場合があること」を周知します。
次に、国を中心にロービーム検査に対応する整備方法を調査し、対応策を自動車整備工場などに周知します。
さらに、ヘッドライトの向きを調整できないクルマや、交換するヘッドライトの部品がないクルマなどの実態を調査し、対応方法を検討します。
そしてこれは自動車整備工場向けですが、ヘッドライト測定機器の性能差を調査して、対応方法を検討するとしていますが、今のところ「ロービーム検査とりやめ」とはされていません。
したがって1998年9月1日以降に生産されたクルマは、2026年8月からロービームでの検査が実施されることに変わりありません。
ロービーム検査が始まると、各整備工場は対応策を練る必要があります。そのなかでも、車検作業の分類上で二種類の整備工場があり、それぞれ対応が異なります。
一つ目は「認証工場」で、工場では車検にかかわる定期点検整備をし、車検は検査場にクルマを持ち込んで検査してもらうものです。
検査場では検査官という公務員が検査を実施し、基準に適合していれば車検合格となります。
検査場には他の認証工場のクルマも持ち込まれるので、たいていの場合には検査を受けるクルマの列ができています。
また整備工場と検査場が離れていると、検査場に行くだけでもかなりの時間を要してしまい、時間をかけて検査に行って不合格となったら、認証工場にとっても大変な損害といえます。
二つ目は、指定整備工場で、認証工場と同じ整備作業ができるほか、検査場の検査官と同じ権限を持った検査員が社内にいます。
車検場に車両を持ち込まなくて自社の検査員が検査場と同じ方法で検査をし、基準に適合していることが確認されれば車検合格となります。
指定整備工場では検査場ほど検査を待つクルマの列はできませんが、検査に合格できなさそうなクルマの車検整備は、好意的に受け入れられないかもしれません。
S県で整備工場を営むAさんは、次のように言っています。
「ハイビームにしないと明るさの基準を満たさないと予想したクルマは、お客様に事前に断った上で仕事を受けています。
というのも、想定外のヘッドライト交換費用ばかりか、交換用のヘッドライト部品が見つからず車検を取れない可能性があることを考えると、トラブルが予想されるからです。
散々もめてお金をいただけなかったら、当社だけでなくお客様にも大変な負担になりますからね。
見るからに傷んでいるクルマの車検は、率直なところあまり受けたくないのが実情です」
この先、ユーザーがお店を選んでいた時代から、お店がユーザーを選ぶ時代になっていく事態が訪れるかもしれません。
では、ユーザーはどう対応したら良いのか!?
ここまで記してきた通り、2026年8月にロービーム検査が始まることに変更はありません。
交換用ヘッドライトがないクルマなど、制度への対応が困難なクルマを調査して対応を検討するとしていますが、どんな対応となるか、また対応自体を行うかどうかも決まっておりません。
したがって、ユーザーは最悪の事態も考えながら対応を考える必要があります。
まず、ヘッドライトの傷みが激しいクルマは全体の傷みも著しいと考えられますので、そもそもクルマ自体を交換する(乗り換える)方法が考えられます。
次に、程度の良い中古部品を約2年間をかけて探し、部品があった場合には交換を検討する方法です。
整備工場だけでなく、ユーザー自身も探す努力をしないと部品が見つからない場合もあります。
とはいえ2年間もあれば、同型式車で廃車となるクルマもあるかもしれませんから、程度の良い部品が販売されるかもしれません。
さらに、再生品の発売を待つ方法です。
一部のクラシックスポーツカーなどは、交換用のヘッドライトレンズがアフターパーツ(社外品)として発売されています。
またトヨタがA80型スープラのヘッドライトをヘリテージパーツとして販売を開始するなど、人気の旧車はメーカー自身も対応しているケースもあり、今後そうしたレンズのみの新品部品をメーカーがさらに再設定する可能性もあります。
最後に、あらゆる方法を試すことです。
現在、多くのカー用品メーカーがヘッドライト市場への対策を行っています。
これまでは安全な研磨剤と施工しやすいコーティング剤が主流でしたが、本格的な研磨剤とスプレー式のクリアー塗装も現れてきました。施工は難しいかもしれませんが、成功すれば効果は絶大です。
もちろん、現在使っているクルマのヘッドライトの黄ばみだけでしたら、一度徹底して研磨と再コーティングを試してみる価値はあることでしょう。
整備工場に依頼する費用を浮かすためとはいえ、研磨剤などの費用にプラスして手間をかける必要がありますし、そんな苦労をしても検査合格レベルにはならないかもしれません。しかし、何もしないよりましです。
※ ※ ※
ヘッドライトレンズが樹脂になってから、そろそろ25年が経過しようとしています。
いろいろ苦労をしたユーザーもいるようで、最近ではボンネット部分のみのカバーや、ヘッドライトにタオルをかけてクルマを保管している方も見かけるようになりました。
カー用品店でも、より高性能なヘッドライト研磨剤やコーティング剤を目にするようになりました。
2年後以降もヘッドライト問題は続きますから、今のうちからクルマ全体を含めた対策を考えておいた方がよいでしょう。