元SMAP俳優たちの現在地点とは?それぞれの現在から読み解きます(画像:『Believe』公式サイトより)

6月13日夜、木村拓哉さん主演ドラマ「Believe -君にかける橋-」(テレビ朝日系)第8話が放送され、残すは20日の最終話のみとなりました。

同作は「テレビ朝日開局65周年」の記念作品だけに木村拓哉さんに加え、天海祐希さん、竹内涼真さん、斎藤工さん、上川隆也さん、小日向文世さん、北大路欣也さんら主演級の豪華キャストをそろえたほか、第1話で建設中の龍神大橋が崩落事故を起こすCGなども含め、文句なしの力作。

各職業のヒーローを演じてきた木村拓哉さん

さらに1990年代からドラマシーンのトップを走り続け、「ロングバケーション」(フジテレビ系)でピアニスト、「ビューティフルライフ」(TBS系)で美容師、「HERO」(フジテレビ系)で検事、「GOOD LUCK!!」(TBS系)でパイロット、「プライド」(フジテレビ系)でアイスホッケー選手、「エンジン」(フジテレビ系)でレースドライバー、「チェンジ」(フジテレビ系)で総理大臣、「Mr.BRAIN」(TBS系)で脳科学者、「南極大陸」(TBS系)で南極越冬隊員、「A LIFE〜愛しき人〜」(TBS系)で外科医、「BG〜身辺警護人〜」(テレビ朝日系)でボディーガード、「グランメゾン東京」(TBS系)でフレンチシェフと各職業のヒーローを演じてきた木村拓哉さんに思い切った脚本・演出を仕掛けることで話題性を高めようとしました。

その思い切った脚本・演出とは、「手錠をかけられる」「刑務所に入れられる」「暴行を受けて肋骨が折れる」「脱獄し、警察から逃げ続ける」などの過激かつ過酷なシーン。「これまでとは異なる意外な姿や衝撃的なシーンを見せることで人々の関心を引きつけ、メディアで報じられよう」という狙いが透けて見えます。

SMAP解散以降、話題性は不発続き

しかし、序盤からここまでネット上では「建設物オタクの土木設計家に見えない」「自分で罪をかぶったのだから自業自得で感情移入しづらい」「なぜか助けてくれる人が次々に出てくる」「『つかまるかもしれない』というハラハラドキドキが少ない」「天海祐希と夫婦に見えない」などのネガティブな声が目立っています。

なかには木村拓哉さんのドラマでは恒例となった「何を演じてもキムタクに見える」という声をあげる人もいるなど、手錠や脱獄などのシーンに対する反響は制作サイドの狙いほど得られていません。視聴率、ネット上の動きともに、かつてのように盛り上がっているとは言いづらい状況が続いています。

ドラマそのものは「脱獄もの」「冤罪もの」として一定レベルの関心を集め、木村さんはハードなロケに挑むなど熱演を続けていることは間違いないでしょう。ただ、今春の「アンチヒーロー」(TBS系)、「アンメット ある脳外科医の日記」(カンテレ・フジテレビ系)、「Destiny」(テレビ朝日系)、「くるり〜誰が私と恋をした?〜」(TBS系)などと比べると、SNSのコメント数もメディアの記事数も物足りなさが残ります。

「ネガティブな声があがりがちな一方で、ネット上の話題にはなりづらい」という苦しい状況にはどんな背景があるのでしょうか。木村さんが2016年のSMAP解散報道以降に出演した作品を見ていくと、その理由が浮かび上がってきます。

木村さんは、2017年1月期「A LIFE」、2018年1月期「BG」、2019年10月期「グランメゾン東京」、2020年4月期「BG 第2章」、2022年4月期「未来への10カウント」(テレビ朝日系)、2023年4月期「風間公親-教場0-」(フジテレビ系)で、いずれも主演を務めましたが、大半が“医療や刑事などの1話完結モノ”という保守的な作風からか、メイン視聴者が中高年層にとどまるなど話題性は今一歩。SMAPの解散騒動で下がってしまったイメージを上げるほどのインパクトを与えられず、新たなファン層を開拓できずに年月を重ねています。

「新しい地図」3人の俳優業にヒント

その間、木村さん自身、年齢を重ねて50代に突入。これは民放各局が最も求める「コア層(13〜49歳)の年齢層から外れた」という事実であり、だからこそより「若年層の支持を得られる50代俳優なのか」が問われる状況に直面しています。

さらに、昨年のジャニー喜多川氏による性加害問題とジャニーズ事務所の対応が問題視されたとき、たびたび木村さんの無配慮なSNS投稿が批判を集めてしまいました。20代のころから変わらない若者風の言葉づかいに対する疑問なども含め、ネガティブな点で話題になるケースが続くという状況が起きているのです。

しかし、木村さんの出演ドラマがポジティブな話題にあがりづらくなった根本的な理由はこれらではないでしょう。その理由はSMAPの盟友たちの俳優業を見ていくと浮上してきます。


(画像:『燕は戻ってこない』公式サイトより)

まず稲垣吾郎さんは現在NHK総合の「燕は戻ってこない」に出演中。元トップバレエダンサーで、自らの遺伝子を継ぐ子どもを望み、主人公の大石理紀(石橋静河)に代理出産を依頼する草桶基を演じています。優しく穏やかな佇まいながら、傲慢さや残酷さがにじみ出る演技は、まさに怪演であり、ハマり役。

SMAP解散後は、「きれいのくに」(NHK総合)で「男性はみんなこの顔」という謎の男、「スカーレット」(NHK総合)で白衣を着たがらない医師など、主に助演としてさまざまな役柄を演じ続け、大人の俳優としての存在感を高めている印象を受けます。

幅の広い役柄を自由に演じる3人

次に草磲剛さんは現在、白石和彌監督の時代劇で主演映画の「碁盤斬り」が公開中。また、樋口真嗣監督のNetflix映画「新幹線大爆破」の主演も発表されています。


(画像:『碁盤斬り』公式サイトより)

SMAP解散後は、大河ドラマ「青天を衝け」(NHK総合)で徳川慶喜、朝ドラ「ブギウギ」(NHK総合)で服部良一氏がモデルの作曲家、「罠の戦争」(カンテレ・フジテレビ系)で復讐に燃える議員秘書を演じたほか、映画「ミッドナイトスワン」では「第44回日本アカデミー賞」最優秀主演男優賞などを受賞。昨年末には「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」(NHK総合)でコーダ(聞こえない両親を持つ)の手話通訳士を演じるなど、主演・助演を問わず難役のオファーが殺到し、それに応えることで国民的俳優に近づいているようなムードがあります。


(画像:『テラヤマキャバレー』公式サイトより)

さらに香取慎吾さんは今年、舞台「テラヤマキャバレー」で主人公の寺山修司を熱演。演劇界の巨匠・デヴィッド・ルヴォーの演出などもあって、その演技と歌が称賛を受けました。

SMAP解散後は「アノニマス〜警視庁“指殺人”対策室〜」(テレビ東京系)で主演を務めたほか、三谷幸喜さんの舞台「日本の歴史」に出演したり、NHKの特集ドラマ「倫敦ノ山本五十六」でのちに連合艦隊司令長官となる山本五十六を演じたり、バラエティの「誰も知らない明石家さんま」(日本テレビ系)でビートたけし役に挑むなど、自由で振り幅の大きい俳優業が続いています。

新しい地図の3人はSMAP時代のように主演だけでなく助演も含めて、幅が広く、やりがいのありそうな役柄を演じ続けてきたことがわかるのではないでしょうか。また、旧ジャニーズ事務所への忖度などから民放各局のドラマ出演こそ少なかったものの、NHK、映画、舞台、動画配信サービスとさまざまな場に自由なスタンスで出演している様子がうかがえます。

同世代の反町と竹野内はどうなのか

一方、木村さんの出演は、ほぼドラマと映画に集中し、基本的に主演のみ。しかもその大半で有能かつ正義の主人公を演じ続けています。また、木村さんの主演ドラマは必ずと言っていいほど豪華キャストが話題になりますが、映画でも「検察側の罪人」で二宮和也さんと吉高由里子さん、「マスカレード」シリーズで長澤まさみさん、「レジェンド&バタフライ」では綾瀬はるかさんと中谷美紀さんなど、主演級俳優を従えるような形で主演を務めてきました。

これは木村さんがSMAP解散前と同じように「豪華キャスティングのサポートを受けて、主演としてかっこいい主人公を演じている」ということ。俳優業に向き合うスタンスは新しい地図の3人と対照的であり、解散前後でほとんど変わっていない様子がうかがえます。「SMAPが解散して旧ジャニーズ事務所を辞めた3人は逆風が吹く中で新たな道を模索し、辞めなかった木村さんはこれまで通りの道を歩む」という岐路が現在の印象やネット上のコメントにつながっているのではないでしょうか。

では、同世代で同じ時期からドラマシーンで活躍し続けてきた反町隆史さん(50歳)と竹野内豊さん(53歳)はどうなのか。

この2年間で、反町さんは主演として「グレイトギフト」(テレビ朝日系)でうだつの上がらない病理医、「GTOリバイバル」(カンテレ・フジテレビ系)で伝説の教師・鬼塚英吉を演じ、助演として「オールドルーキー」(TBS系)でスポーツマネジメント会社の社長、「スタンドUPスタート」(フジテレビ系)で財閥系企業の副社長を演じました。

竹野内さんは主演として「イチケイのカラス」(フジテレビ系)で変わり者の裁判官、映画「唄う六人の女」で奇妙な女性たちに監禁されるフォトグラファーを演じ、助演として「義母と娘のブルース」(TBS系)で再婚相手に娘を託して病死する父親、映画「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」で主人公の恋人で“自称忍者”を演じました。

どちらも主演と助演を演じ分けるとともに、役柄の幅は新しい地図の3人と同様に広く、「イケオジ」として若年層の印象も上々。かつての「イケメン」「ヒーロー」から、50代俳優として違和感のない立ち位置にスライドした様子がうかがえます。

宿命のように背負い続けるもの

新しい地図の3人に加えて反町さんと竹野内さんの現在から見えてくるのは、「かつてと同じ方向性を続けていくことは難しい」というアラフィフ俳優の現実。

しかし、それでも「キムタク」と呼ばれていたころの延長線上にある役柄を求められてしまう。さらに、助演を豪華キャストで固めるなど、旧ジャニーズ事務所時代から続くプロデュース方針が変わらないことが、冷めた目線で見られやすい理由の1つになっている感があります。

つまり、木村さんだけがSMAP時代から変わらぬ役割や立ち位置を背負い続けている。まるで自分の宿命であるかのように変わらずにいる。それがファン以外の人々からネガティブな声があがりやすくなっている根本理由に見えるのです。

しかもその「イケメン」「ヒーロー」という役割や立ち位置は、SMAPという5人の個性がひしめき合うグループだからこそ輝いて見えたところがありました。実際、グループ時代は、ややぶっきらぼうな受け答えが「照れ隠し」「茶目っ気」などと好意的に受け止められていましたが、1人になると比較対象がなく、課題や短所を補完し合えない分、「大人げない」「失礼」などとみなされやすくなっているところがあります。


(画像:新しい地図公式サイトより)

その点、新しい地図は、「SMAP時代の役割や立ち位置から解放されながらも、3人グループとして課題や短所を補完し合える」という状態。3人が自然体で自由に見え、木村さんが苦しく窮屈そうに見えがちなのは、俳優としての演技以前の問題があるからではないでしょうか。

「イケメン」「ヒーロー」とは真逆の役柄に期待したい

見方を変えれば、木村さんも3人のようにSMAP時代の役割や立ち位置から解放されるだけで、ポジティブな印象につなげられる可能性が大きいということ。「手錠をかけられる」「脱獄する」などの表面的なシーンではなく、たとえば「イケメン」「ヒーロー」とは真逆の役柄を助演として演じたとき、ネット上にはポジティブな盛り上がりが生まれるかもしれません。

木村さんは1990年代から2010年代まで日本トップクラスのスターだっただけに、「ネガティブな声が飛び交う現状を変えてほしい」と感じている人は少なくないでしょう。

ちなみにもう1人のメンバー、中居正広さんは俳優として活動しておらず、メインの活動は「50代突入」という年齢の影響を受けづらいバラエティのMC。逆に「これまで通りの元気な姿をいかに見せ続けられるか」が求められているだけに、「SMAP時代から変わらない中居くん」としての姿を見せ続けてほしいところです。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)